ケーキなボクの冒険

丸めがね

その145

「リーフはジャックと夫婦として振る舞っていますが、まだ行為はないようです。」
「やっぱりね~」ロックはコロコロ笑う。「ジャックは昔から馬鹿が付くほど真面目だもんね~。リーフが記憶喪失だからって、それを利用して押し倒したりしないよ。ああ、でもほんとリーフって面白いよね。記憶喪失になるなんて・・・。さすがにボクもそこまでは計算していなかったなぁ!」
「ロック様・・・。我々にはもうあまり時間がありません。変身草の効き目はあとわずか。もって3日でしょう。これから、いかがいたしましょうか?」
「そうだねぇ・・・。」
ロックとサスケは、変身草と言う幻の秘薬で姿を変えていた。小人が育てているという珍しいミドリ草で作ったもの。背格好や顔はあまり変わらないが、髪の毛や瞳の色が緑色になるのが特徴だ。効果は1週間ほどで、続けて服用すると副作用がひどいため、ふたりはもうしばらく使えなかった。
ロックは自分の緑色の髪をぐしゃぐしゃしながら言った。「だ~か~ら~、サスケ、さっさとリーフを抱いちゃってよ。いいじゃん、まだ処女ならおもしろくて。記憶がないっていうのもそそるでしょ?ふふ、記憶が戻った時が見ものだなぁ。絶対見たいなぁその瞬間!」
サスケは少し眉間にしわを寄せた。「ロック様はどうしてリーフにそのようなことをなさりたいんですか・・・?」ロックはニッコリ笑う。「知りたい?多分ボクはリーフを愛していて、多分ボクはリーフを憎んでいる。彼女の喜ぶ顔を見たいし、彼女の絶望する顔も見たい。ねえこの気持ちわかるかい、サスケ?」サスケは、まだ12歳の主に返事をすることができなかった。


リーフはジャックを探して街を歩く。
ミナさんに聞くと、市場に食材を取りに行ったと教えてくれた。方向音痴のリーフでも、宿屋から大通りを歩いて10分の市場までは迷うことはなかった。
市場とは通りの一角の両側に、屋台のような小さな店が30件ほど並んでいる所のことだった。それぞれが色とりどりの野菜や果物、肉や魚、雑貨などを売っていた。「なんでもあるんだなぁ。」感心するリーフ。この市場は崖の下の台所と言われているらしい。
陶器の屋台の向こうに、ジャックの姿を見つける。「あ・・・ジャックさ・・・」リーフが駆け寄ろうとすると、ジャックの横に女の人がいた。2人はピッタリとくっついていた。思わず人陰に隠れるリーフ。「あ・・・、あの人はさっき会ったエレーヌさん・・・」ちょっとホッとしてジャックの側に行こうとした時、エレーヌがジャックにキスした。
「え・・・?」
ジャックはエレーヌの手を引っ張って大通りを離れ、裏路地へと消えていく。さっきリーフにキスするためにそうしたように・・・。
リーフは足は震えて追いかけることが出来なかった。(ジャックさんがエレーヌさんと・・・)確かめるのが怖い。(あ・・・。でもキスは見間違いかもしれないし、何かの用事で会ってただけかもしれないし・・・)そう必死で言い聞かせて、なんとかジャックたちが消えた方へ歩いていく。

その時ジャックは、エレーヌに、「どういうつもりだ!いきなりこんな人通りの多い所であんなことをするなんて・・・!」と怒っていた。
「ふふ、いいじゃない。ね、あたしたちお似合いよ?たくましいあなたの胸には、あんな小さな子より私の方がちょうどいいわ。あなたが抱いたらあの子、壊れちゃうんじゃない?」
「・・・だまれ・・・」
「さあ、今度はもう一度、あなたからキスして頂戴。でないと奥様に言いつけちゃうわよ。あたしたち、もう二度もキスしてるんだから・・・。」
ジャックが怒った表情で目をそらしていると、エレーヌは耳元で囁いた。「・・・いいの?記憶喪失で不安になってるあの子がこんなこと知ったら、さぞかし悲しんで具合が悪くなるでしょうね・・・。」
「これでいいのか・・・!」ジャックはエレーヌを乱暴に壁に押し付け、キスをした。
リーフが見たのはその場面だった。


まだ唇を重ねたままのジャックと目が合う。
エレーヌはとっくに気付いていたかのように微笑んだ。「あら、見られちゃった。」
「リーフ!これは・・・っ!」
ジャックはエレーヌを押しのけ、リーフのもとに走る。リーフは震えながら後ずさんだ。

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