ケーキなボクの冒険

丸めがね

その140

夕方前、リーフたちは崖の上の町に着いた。
「うわぁ~、ホントに崖の上にあるんだねぇ!」見たことのない景色にはしゃぐリーフ。
左右見渡す限り続く長い崖、しかも底は霧に包まれていて全く見えない。崖に沿って細長い形で作られた町も珍しかった。町に入る門を通り、5分も歩くと断崖絶壁の手前に着く。簡単な柵はしてあるが、すぐそばまで行くと吸い込まれそうな怖さがあった。
街は観光で栄えているらしく、美味しそう料理を出す酒場や、面白いものが並ぶ土産物屋、それにたくさんの宿屋があった。

「今ね、下の町に続く地下道が塞がれて通れないんですよ。この間地震があって岩が崩れちまってねぇ・・・。修理していますが1か月は通行止めですわ。まったく、商売あがったりだ。」
観光地の割にはすんなり見つかった宿屋の主人が、そのわけを話してくれた。
「どうせ地下道からは行けなかったわけだ。じゃあ、早いとこジャックに下の町に連れて行ってもらってこい、リーフ。暗くなってからじゃあ危険だからな。」とアーサー。
「お客さん、どうやって下の町に行くんだい?!」宿屋の主人が会話を聞いてカウンターから身を乗り出してきた。
「まあ、ちょっとね。こいつが飛べるんで。」ジャックを指さす。「飛べる?!そいつは凄いな!もしホントなら、ちょっと頼まれてほしいことがあるんだ。いやね、下の町に妹がいるんだが、最近赤ちゃんが生まれたんだよ。お祝いを届けたくてさ・・・。」
そういうことなら、と言うわけで、ジャックは宿屋の主人から包みを預かった。
リーフは早く行きたくてうずうずしている。「早く行こうよ、ジャックさん!」「よしよし」リーフにねだられてまんざらでもないジャックは、ハゲワシの姿になり、リーフを乗せて大空に飛び立った。
「まあ、ジャックったらすごいわね!」ロザロッソはうっとりと眺める。「いいなぁ。ボクもリーフと一緒に行きたかった・・・。」クロちゃんは寂しそうだ。「すぐ帰ってくるさ。夜までには・・・。」と言ったアーサーの予想は大きく外れることになる。

リーフを乗せたジャックは、2,3度大きく空を旋回した後、崖の下に向かって降下した。すぐに濃い霧で下も上も見えなくなった。
それでもすぐ横の岩肌は通り過ぎる瞬間ぼんやりと見える。(どこまで降りるんだろう)リーフがジャックにしがみつきながらも辺りを眺めていると、崖の小さな洞窟のようなところに人影を見た。「あれは・・・?!」「どうした、リーフ」見覚えのある人影は、こちらに向かって弓を引いている。
「えっ・・・?」
矢は放たれた。
ビュン、ビュン
それは正確に、ジャックの翼を射抜く。
「!!」「どうして・・・ジャックさん!!!」「やばいぞリーフ、しっかり捕まってろ!」
霧で辺りが見えない中、ジャックは右に左に矢を避けるように飛んだ。しかし矢は何発もはなたれ、次々にジャックの翼や胴体に突き刺さった。矢の方向からリーフに当たらないようにかばっているため、ジャックは避けきれない。
「ぐっ・・・!」「ジャックさん!大丈夫・・・っ」
ついに飛べなくなった怪鳥は、底の見えない崖を急降下していった。



崖の下の川沿い。夕方の霧が少し晴れた時、ジャックとリーフは発見された。
数本の矢が刺さり傷だらけのジャックと、ジャックが包み込むように守っていたリーフ。ジャックの傷は深く、左腕が折れていたが意識ははっきりしていた。リーフの身体には小さな傷しかなかったが、頭を強く打っていたらしく意識がなかった。「リーフを助けてくれ・・・リーフを・・・」ジャックはうわごとのように繰り返す。

ジャックとリーフは、崖の下の町の宿屋の一室に入れてもらった。
「あんたたち、よくあの崖から落ちて助かったわねぇ!運が良かったわよ!」宿の女将、ミナが笑う。大柄で朗らかな女性で、二人の世話を引き受けてくれた。「運が良ければ落ちなかったんだけどね」ジャックが力なくつぶやいた。発見されて半日起つのに、リーフがまだ意識を取り戻さないのだ。ベッドに横たわるリーフの呼吸を確認するようにジャックは顔を近づけた。スー、スー、と寝息が聞こえる。安心して椅子に腰かける。
「よほどその子のことが大切なんだねぇ。アンタだって腕は折れてるし、深い傷がいくつもあるんだよ。寝てなきゃダメなんだから・・・」ミナが話している途中で、「おぎゃあ」と赤ちゃんの声が聞こえる。「ああ、起きちゃった。じゃあ、用があったら声をかけてね。あ、もうすぐお医者様が来るから!」ミナはバタバタと走り去った。
ミナは上の町の宿屋の主人の妹で、預かったお祝いの荷物を渡す相手だった。リーフが持っていた荷物がミナに宛てた手紙入りだったため、ミナは赤ちゃんのお祝いを受け取り、二人を引き受けてくれたのだ。
もう一つ運が良かったのは、いつもなら医者のいないこの町に、偶然医者が泊まっていたことだった。上の町に通じる地下道が崖崩れで壊れてしまったために、一週間ほど足止めを喰らっていてその医者は困っていたが、下の町の人たちには重宝がられていた。
医者は違う宿屋に泊まっているが、ジャックとリーフのケガの処置とその後の往診を快く引き受けてくれた。腕のいい医者らしく、かなりひどかったジャックのケガも綺麗に塞いでくれた。もっともジャックは怪鳥なので、ケガの直りは普通の人間の比ではないのだが。


コンコン
半開きのままだったドアを外からノックする、医師クロード。190センチあるジャックより少し低いくらいの長身、深緑の珍しい髪をキチンと後ろで結わえて、真っ白な長いシャツを着ている。
「具合はどうですか?」
低く落ち着いた声でジャックに尋ねた。
「リーフがまた起きないんだ・・・。」
クロードはベッドのリーフを診察する。リーフの服をはだけ、心音を確認している時、突然リーフの目が開いた。
「リーフ!」ジャックが叫ぶ。リーフは表情のない顔で辺りを見回した。
リーフの瞳には、心配そうにのぞき込む大きな優しそうな男の人と、緑の髪の男の人が映っている。
「だれ・・・?」「この人は医者だ!大丈夫かリーフ!気が付いたんだな!」リーフはジャックだけを見た。
「あなたは・・・だれ?」

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