ケーキなボクの冒険

丸めがね

その138

ツバサの国を発つ別れの朝。
リーフはクルトの父、ナーガ王に呼ばれて庭にある池の側に行った。バラに囲まれ、白い大理石のような石で作られた美しい休憩所がある。
咲き誇るバラのような紅い立派なマントと、美しい金の王冠を頭にかぶり、歩いてくるリーフをまっすぐ見つめる王。
背が高くがっしりした体形は、いかにも大国の王らしく堂々としている。
リーフは緊張しながら王の前に立った。
(王様・・・初めて近くで見るけど、やっぱりクルトに似てるなぁ。)
優し気な茶色の瞳、癖のあるやわらかそうな髪。きっとクルトが大人になったら同じ顔になるのだろうとリーフは思った。
「リーフ君、と呼んでいいかね。」王は声もクルトに似ている。「は、はいっ!」緊張で声が裏返りながら返事をするリーフ。
「私を・・・息子を、そしてエリーを助けてくれてありがとう。・・いや、妻も、上二人の娘も助けてもらったのだな。心から礼を言おう・・・。」
「そんな、ボクは助けただなんて、ただ思い付きで動いてただけなんです・・・。」
王は慌てるリーフを見てかすかに微笑んだ。
「今の王様の笑顔・・・クルトにそっくりですね・・・。」
「笑顔か。自分で自分の笑顔なんぞは見ることもないが・・・。いや、ここ何年も笑ったかどうかさえ覚えてないな。リーフ君、王とは孤独でつまらないものだよ。・・・ああ、こんな愚痴も久方ぶりに漏らすな・・・。」
王はははは、と笑う。リーフもつられてへへへ、と笑った。
「クルトには君が必要だ。きっと将来、君以外の妻をめとることがないように思える。リーフ君、このままクルトの妻として、この国に残ってくれないか。」
「王様・・・・。」リーフは言葉に詰まった。「ボクは・・・信じていただけないかもしれませんが、この世界の人間ではないんです。だから、元の世界に帰らなきゃいけないんです。クルトのことは、大好きです。・・・友達としてか、そうじゃなくて恋・・・とかなのか正直分からないんですけど・・・。」
一生懸命説明しようとするリーフに王はまた微笑んだ。「いや、困らせてすまない。無理なお願いだということは分かっていたんだがね。命の恩人に申し訳ないことをしたね。リーフ君、キミは多分何か大きな宿命を背負っているんだ。そう、みんな感じている。だから行きなさい。そして私は・・・いや、このツバサの国は君のためならどんな尽力も惜しむことはないだろう。」
そういうと、王はリーフに小さなペンダントをくれた。星の形の中に、何かの紋章を入れ込んだ銀色の美しいペンダント。「きれい・・・だけど、こんな素敵なもの、頂くわけには・・・」「いや、これを、どうかその身に着けておいて欲しい。きっと御身の助けになるであろう。」王はリーフの手にキスをすると、城の中に消えた。


「じゃあ、クルト、王様のお仕事早く覚えて、立派な王様になってね。」クルトはリーフたちを村の外れまで送ってくれた。
「また、会おうリーフ。王になった僕を見てほしい。」「うん・・・」リーフは曖昧に笑った。もし現実の世界に帰ったら、もう会うことはないから。
「リーフ、そのペンダントは・・・?」「あ、これ王様がくれたの。気を使わなくていいのにねぇ。そうそう、お礼にチョコケーキを焼いたから、クルト王様と食べてね。」リーフは可愛い布に包んだチョコケーキを渡した。
「チョコケーキ・・・。」「美味しいよ!」照れながらニコニコするリーフ。クルトもクスッと笑う。「ああ、その顔やっぱり王様にそっくりだ!」
クルトはギュッと小さなリーフを抱きしめた。「旅の無事を祈ってるよ・・・どんなときも、君の無事を・・・。」


そしてリーフはクロちゃんに乗って、ツバサの国のお城を後にした。


「なにせこの国は広いからな。長旅になるぜ。」アーサーがつぶやく。しばらくは大きな町が続くので、難しい旅ではないが。
「やぁねぇ、ジャックが鳥さんになって、背中に乗っけてくれたら早いのに。」とロザロッソ。「勘弁してくれよ。リーフだけならともかく、お前らにクロちゃんまで運ぶのは御免だぜ。」ジャックはなるべく、ことあるごとに色目を使うロザロッソから離れて歩いている。「いいじゃない、ボク、リーフを乗せてあちこち旅したかったんだぁ!楽しいな!ね、ね!」クロちゃんは嬉しそうだ。
ロザロッソはリーフの胸に光る星のペンダントを見つけた。「やだ!あんたそれ!どうしたの?!どこで盗んだの?」「ちょっと!盗んだなんて人聞きの悪いこと言わないでよ!これはナーガ王がくれたの!お礼にチョコケーキあげたし・・・。」「王がくれた?!お礼にチョコケーキ?そのペンダントの?!」ロザロッソはゲラゲラ笑った。「ま~、王も太っ腹だわね。あんた、それ、大事にしなさいよ。いろいろ便利だから!」「え?これ何かに使えるの?」「はは。価値を分からないヒトには教えてあげな~い」「ええっ、教えてよ、いじわるだなぁ」「そうねぇ、またあの可愛い男の子になってくれたら教えてあげる♡」「・・・いや、いいです・・・。」
ワイワイと賑やかなリーフたち旅の一行を遠くから見ている影があった。「あいかわらずあの子は面白いね。あのペンダントを手に入れるとは。ねえ、サスケ?」赤毛の少年、ロックだった。

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