ケーキなボクの冒険

丸めがね

その125

「嬉しいよ。ありがとう」リーフの返事を聞いてシャルルは、まともに見ることも出来ないような美しい顔で微笑んだ。恥ずかしさでうつむいたままのリーフの両肩を優しく掴み、自分の正面に向かせる。
シャルルはのぞきこむようにキスをした。
「ま、まってください!!」「リーフちゃん?」「あの・・・その前に、もう一度温泉に入ってきます・・・。体をきれいにしたいし・・・。ちょっとだけ待ってください・・・」
我ながら往生際が悪いなとリーフは思ったが、心臓が飛び出しそうな緊張・・・、一度気持ちを落ち着けたかった。温泉の川は焚火からちょっと木の影になっているがすぐそこにあるので、そんなに時間はかからないはずだ。

もちろんシャルルは「行っておいで」と言ってくれた。立ち上がる前に、リーフは自分からそっとシャルルにキスを返した。
(逃げるんじゃない、心の準備なんです)という意味かもしれない。
シャルルは少し驚いていたが、嬉しそうに笑った。「待っているよ。」と言いながら。

夜の温泉は神秘的だった。あまたの星が水面に移っていて、まるで宇宙で泳いでいるようだ。体がほぐれると心もほぐれるようで、(何とかなるさ!)という気持ちが湧いてきた。
あと少し、と肩まで温泉につかっていると、思い出すのは意外にもアーサー王子のことだった。この世界で最初に会った、太陽のような紅い髪のイケメン王子。(ちょっとエッチだけど、強くて優しくて・・・。あれ、でもどうしてこんな時に思い出したんだろう・・・?)
無性にアーサーに会いたい。あの笑顔を見て、声を聞きたい。
(だめだよ、なぜ今・・・。これじゃあまるでボクがアーサーさんのこと・・・。今からシャルルさんと・・・)
急に心のざわつきを感じ始める。その考えを否定するかのように、頭をブンブン横に振ってみる。
「リーフちゃん、大丈夫?」シャルルの声。
「は、はい、今行きます・・・!」
リーフが余計なことを考えないように急ごうとした時。
「助けて下さい!!」「えっ?!」
川に女の子が飛び込んできた。
周りが暗いせいかよく見えなかったが、女の子はリーフにしがみついてきた。「どうしたの?」「化け物に追われているんです!!」
ガサッ
女の子が来た方の草が揺れる。
黒い大きな塊が2人に飛びかかろうとした時、一筋、二筋の細い光が暗闇に舞い、ドサッと何かが地面に落ちる音がした。
「ケガはない?」双剣を構えたシャルルが立っていた。
足元には黒い獣の肉塊が落ちている。「シャルルさん・・・」
シャルルがリーフのもとに行こうとした時、先に女の子がシャルルに抱き付いた。「怖かった・・・!助けていただいてありがとうございます・・・!」「無事でよかったですね。さあ、リーフちゃんと一緒においで・・。」

3人が焚火のある所に帰ると、騒ぎに気付いたヒューが起きていた。「どうした、シャルル。おい、その女は・・・?」「うん、温泉のところで獣に襲われていてね。ケガはないみたいだよ。ね?」
その女の子はずっと震えながらシャルルにしがみついていた。火が明るく照らすところで顔をあげる。
「うわぁ・・・」思わず声が出るリーフ。
とても綺麗な美少女だった。
明るい金色の髪、潤んだブルーの瞳、陶器のような肌、サクランボのような唇。薄いピンク色のドレスが濡れて体に張り付き、あどけない顔立ちなのにとても色気がある。
「あの・・・きみ・・・お名前は?」ドキドキしながらリーフが聞いた。
「わたしは、アリスと申します・・・・。青のドラゴンの欠片をこの体に宿す巫女です・・・。そのため、魔物に狙われているのです」「ええっ?!」
リーフたちは驚いてアリスを見た。

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