ケーキなボクの冒険

丸めがね

その112

リーフがツバサの国に向けて出発する朝が来た。
ブルー王の計らいとバニイの尽力で立派な旅の準備ができていた。でも旅のお供はロックだけ。サスケはいつも通り、どこかについてきているだろうが・・・。ブルーはたくさんの護衛の兵士をつけると言ってくれたが、リーフは断った。
少人数の方が目立たないし、何より自分の力で何かやってみたくなったから。今までこの世界では、誰かに連れられ、守られるように旅をしてきた。でも今回は、自分の力だけで進んでみたくなったのだ。
「それでも・・・、いろんな人に助けられながら、なんだけどね。」これ以上ないくらい完璧な旅の準備を前にリーフは苦笑した。
そしてなにより、森の大賢者クルクルの贈り物にはビックリした。
昨夜リーフが馬屋には言った時、「やあ、リーフ」と話しかける者がいる。聞き覚えのない声・・・。驚いてリーフが辺りを見回すが、クルトが去ったいま、馬屋には馬しかいない。トコトコと近づいてきたのは、黒い仔馬クロちゃんだった。
リーフが頭をなででやると、クロちゃんが言った。「リーフ、ぼくに乗りなよ。」「う~ん。乗れるといいんだけどね・・・。・・・。ええっつ!!!!!」
しゃべっていたのはクロちゃんである。「ビックリしたでしょう。ぼくもだよ。クルクルがやってきて、なにか魔法をかけて、ボクが人間の言葉をしゃべれるようにしてくれたんだ。あと、力も強くしてくれたから、ぼくほかの子馬より力持ちだよ。リーフを背中に乗せられるよ。」クロちゃんは嬉しそうだ。「すごい!すごいなぁクロちゃん!ほんとにボクが乗ってもいいの?」「もちろんだよ大好きなリーフ!それどころか、ぼくはもう生涯、リーフ、キミしか乗せないよ!」
ブルーの愛馬白銀のオリオンの息子、漆黒のクロは、この日からリーフにとってかけがえのない友達になった。

「しゅっぱ~つ!」いつも元気な赤毛のロックの掛け声とともに、旅が始まった。
小さいクロちゃんに小さいリーフが乗っているのはいかにも滑稽だったが、クロちゃんはお構いなしに堂々と歩いた。心なしか父馬オリオンが心配そうに見ていたのだが・・・。
リーフが青白く美しいヒョウガの城を振り返ると、塔の上にブルー王の姿が見えた。見送るためだろうか、白い正装を着て紺碧の見事なマントを羽織っている。
遠くからでも分かる青い瞳。
ブルーはリーフにキスを投げて寄越した。そのキスは、今までされたどんな激しいキスよりリーフの心に響いた。リーフもそっとキスを投げる。受け取ったブルー王は微笑んだのだろうか。ただ、その瞬間から、王は生涯の全てをリーフに捧げることになんの迷いもなくなったのだ。


ヒョウガの国からツバサの国まで、およそ10日ほど。中央の城まではさらに5日進まなくてはならないらしい。ブルー王が安全で雪が少なく、かつ馬で歩きやすい道を地図に示してくれたので、旅の始まりは順調だった。でもリーフは地図を片手に、ガチガチに緊張している。自分の進む道を、自分で決めなければならないのが、こんなに大変だとは思わなかったのである。「お金も食料も十分に持たせてもらってるのに、こんなに怖いなんて・・・。ううっ」剣の修行どころでなはい、自分の情けなさに凹むリーフ。
「やっだな~リーフは考え過ぎだって!!旅なんてどうにかなるもんだよ~。ま、いざというときは、この流浪の旅人赤毛のロックさんにまっかせなさ~い!」と言いながら飛び出ている木の枝にぶつかるロック。果てしなく不安である。
とはいえ、陽気なロックとおしゃべりする馬クロちゃんのおかげで、道中は楽しいものになった。
途中までは。
城を出て3日目。少し旅にも慣れた時、ロックが、「ボクが地図を見て先頭を歩きたい!」と言い出した。道は旅人によって踏み固められた明るい森の中の一本道、迷うこともないだろうと、リーフは地図を渡した。ところがこれが大間違いで、ロックについていくといつの間にか森は暗くなり道はなくなってしまったのだ。しかも・・・「ごめ~ん、リーフ・・・。地図、どこかに落としちゃった・・・。」「うっそ・・・でしょ・・」痛恨の一撃だった。

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