ケーキなボクの冒険

丸めがね

その111

ブルーの背中の傷は、リーフの風のレイピアが起こした青い風によって癒されたが、完全に治ることはなかった。ベッドに横たわる、苦しそうなブルー。ベッドの横に座って看病するリーフ。
リーフは、許せないほど酷いことをされたのに、どうしてもブルーを憎んだり見捨てたりすることが出来なかった。
傍らには、リーフが呼び出した森の大賢者クルクルが立っている。「危なかったね、リーフ。君のレイピアがなければ、ブルーは苦しみぬいて死んでいただろう。」「あれは・・・、あのハエは、クルトが言っていたように本当にエリー姫なの?」
クルクルは少し考えて言った。「そうだろうね。エリー姫が泉の者になってしまったのかと思ったけど、ちょっと違うかな・・・。」「違うって、なにが?」「正確には、泉の者の僕になってしまったように感じる。何者かに操られているような・・・。」リーフの頭にはクルトが浮かんだ。決して認めたくはないが・・・。
「あの・・・、ブルーさんは良くなる・・・?」「大丈夫だよ、リーフ。君の剣の妖精の力と、ボクの森の薬草があれば、時間はかかるけど治すことはできるよ。でも・・・」「でも・・・?」「エリー姫・・・あのハエがまた来ることがあれば・・・、そしてブルー王がもう一度毒を浴びることがあれば、どうなるか分からない。だから、あのハエの正体を突き止めて、どうにかしないと危険だね。」「・・・あのハエがホントにエリー姫だとしたら、彼女を救えなかったのはボクの責任だよね・・・。クルクルに聞いていたのに・・・。それに、ブルーさんはボクをかばってこんなことになったんだ・・・。ボク、あのハエを追いかけてみる!そしてもしホントにエリー姫だとしたら、きっと元に戻してあげる!!」クルクルはリーフをじっと見た。そして、「お人よしだね」とだけ言っておもしろそうに笑った。
「あのハエが向かったのは、おそらくツバサの国だよ、リーフ。ボクは一緒に行けないけど、何かキミに役に立つものを用意してあげよう。じゃあ、またあとで。」クルクルが魔法の扉の向こうに消え、部屋にはリーフとブルーが残された。リーフがブルーの方を向くと、青い瞳と目が合った。
「リーフ・・・。行くのか・・・」「うん。行きます。行かなきゃいけない気がして。」「危険だ、行かせたくない。」「ブルーさん、ボク、エリー姫のことだけじゃなくて、いろんな答えを探すために行きたいんです。」一度だけ、と言いながらブルーはリーフを抱きしめた。そして耳元で囁く。「リーフ、お前はまだ清らかなままだ・・・。」「え?だって、ボクたちは・・・。二日もあの小屋で・・・」ブルーの言葉に戸惑うリーフ。「お前に見せた血の付いた布には、血ではなく、幻覚草の汁が塗り込んであった・・・。その匂いを嗅ぐと淫靡な夢を見せるという真紅の花の。」「じゃあ、ボクは夢を見ていたの?」「そうだ。わたしは二日間、ただお前の寝顔を見ていたんだよ、リーフ。欲しいのはお前の心だ。」
リーフは、どうしていいのか、どう答えていいのか分からなくなってブルーの寝室を出た。(あれが夢だったなんて・・・。どうしてブルーさんは・・・。それに誰が何のために、そんな布をブルーさんに渡したの・・・?)考えれが考えるほど分からなくなる。廊下にへたり込んでいると、シーツを替えに来た召使頭のバニイに声を掛けられた。「リーフ様?」「バニイさん・・・」自分一人では抱えきれず、リーフはバニイにブルーとのことを話した。
リーフの話を聞き終わったバニイは深いため息をつく。「なんという王の苦悩でしょう・・・。」瞳にはうっすらと涙が見えた。
「ブルー様は幼き頃より異国で人質として生活されてきました。いつ殺されてもおかしくない環境はどれほど過酷だったでしょう。王族に生まれながらも、家族から離れ、我慢の毎日だったと思います。この国に帰ってからも、国の再建、復讐、外交に縛られて、何一つ、望むことが許されぬお立場でございます。そのブルー様が、初めてご自分から強く望まれたのが、リーフ様です。」「バニイさん・・・」「だから、あの聡明な王様ですが、どうしていいのか分からなくていらっしゃるんですよ。ああ、リーフ様、大切なものほど失いたくないと思って怖くなったりしませんか?そう・・・、王はきっとあなたが怖いのです。この世で唯一。」バニイはリーフの手を取った。「これだけは、リーフ様、ご理解ください。王はあなたを愛しています。心から。」「ボクは・・・きっとその気持ちに答えることはできないけど・・・。ブルーさんを助けたいとは思います・・・。」

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