ケーキなボクの冒険

丸めがね

その109

今すぐアーサーについていき、剣を習い、強くなりたいリーフだったが、ヒョウガの城でやり残したことをやらないといけない、と思った。
「うん、そうだな。全部放り投げるようじゃ、強くはなれないってこったね。じゃあ、用意が出来たらこれで知らせてくれ。」そう言うとアーサーは、丸い草の玉のようなものをリーフに渡した。「強く地面に投げつけたら黄色の煙が出る。そうすれば、オレがお前を迎えに行こう。」
アーサーと別れて、リーフはブルーのいる小屋に帰った。ブルーはすでに城に帰る準備を整え終えていた。ブルーは黙ってリーフを馬に乗せる。しばらく二人に会話はなく、ただ馬の蹄の音だけが静かな森に響いていた。
「・・・あのね、ブルー。」最初に口を開いたのは、リーフ。「赤のドラゴンが復活する別の方法、・・・ボクが欠片を持つ人に抱かれる以外の・・・を、教えてもらえませんか。」ブルーは腕の中の黒髪の少女をジッと見つめた。何かを決心した細い肩が揺れている。「すまない、リーフ。今は話せない・・・が、いずれおまえは知ることになるだろう。私が話さなくても。」「そう・・・。わかった・・・。」
馬は進み、森を抜け、城が近くなってきた。「ブルーは、エリー姫と結婚するんでしょう?」「・・・そうなるだろう。ツバサの国を敵に回すことはできない。」「もう、ボクのことは忘れてね・・・。」「リーフ・・・。それは・・・」無理だ、と言えなかった。自分が傷つけてしまった少女に。今すぐこのまま、リーフと共にどこか遠い所へ馬を走らせて、一緒に暮らしたい、とも言えなかった。

リーフたちがいなくなっていた城内はこの二日間、意外なほど静かだった。皆、王がお気に入りの娘を連れて遊んでいるのだとしか思わなかったし、召使頭のバニイが城の一切を取り仕切っていたので問題はなかった。
ただ、エリー姫だけは、王に少し疑問を感じ始めていた。ブルー王はリーフのことを、本当に愛しているのではないかと。エリー自身もリーフのことは気に入ったのだが、それは可愛い召使として以上でも以下でもなく、王族とは違う世界の人間だと思っていたのだ。だが今、ブルー王の愛情は、リーフ一人に注がれている・・・。悲しみ、苦しみを乗り越え、王に愛されるために美しくなったエリーには信じられないことだった。
しかも、ツバサの国から連れてきた召使は信用できないためすべて国に返し、慣れない地に一人になってしまったため、かなりのストレスを感じていた。
そんな時、唯一ツバサの国の出身のクルトと、旅人ロックだけが心の支えと話し相手になった。エリーは頻繁に馬屋へ通い、2人と話をする。赤毛の少年ロックは陽気で可愛いが、話すことが幼過ぎた。クルトは頭が良く、エリー姫が望む以上の会話を返してくるので、すっかり姫のお気に入りになった。
エリーがクルトと二人になったとき、リーフとブルー王のことを相談してみた。「私の考え過ぎかしら・・・。結婚しても王は、あの娘だけに愛情を注ぐのではないかと思うの・・・。」クルトはちょっと困った顔をして見せた。「ああ・・・エリー姫様、私からは申し上げようがございませんが・・・、確かに、ブルー様はリーフに心を奪われております。エリー姫様がツバサの国の王の、本当の娘ではないと分かった今、ブルー王にとっては・・・エリー姫様を利用価値がないと判断することになるかもしれません。」エリー姫はクルトの言葉にショックを受け、眩暈がした。クルトは続ける。「ただ、ブルー王にとっては、姫様を王の娘として妻とし、ツバサの国と縁を持った方が得策と言えますね。」「そ、そうですわよね。ブルー様ほど賢明でいらっしゃれば、わたくしを妻と認めて下さるはず。ああ・・・でも、できれば、王の愛も欲しいのです。わたくしは生まれてから今日まで、誰からも本当の愛情を受けたことがなかったのだから・・・・」涙を流すエリーに、クルトは跪いた。「お嘆きにならないでください、この私目を馬番としてお側に置いてくださった我が姫。さあ、これをお飲みください。これは一族に伝わる秘薬でございます。最高に美しくなるという魔法の薬・・・。」そう言って、小さな瓶を差し出す。エリーは喜んでその瓶を受け取った。その深い緑の瓶を見ていると、不思議な気分になった。「はやく・・・これを・・・飲まなくては・・・」蓋を取り、中の液体を喉に流し込む。


ブルーとリーフが城に着いたとき、城の上から巨大な何かが飛び出してきた。ブブブ、と耳をふさぎたくなるような大きな羽音を立てる。

それは
巨大な
緑色のハエだった。

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