ケーキなボクの冒険

丸めがね

その96

なんだかロックに振り回されているリーフ。でもどさくさにまぎれて、クルトに、ブルーと最後まではしなかったことを伝えられて良かった…と思った。
のんきなロックは翌日、全然緊張していない様子で、エリー姫に呼ばれた食事会へ出かけた。
「さあ、ボクたちもおやつにしようか」とクルトがリーフに真っ赤なリンゴを手渡す。「あー!そうか、わかったー!」リンゴを見てリーフが叫ぶ。「どうしたの?」びっくりするクルト。「ロックって、誰かに似てると思ったら・・・!アーサー王子だ!」「アーサー王子?ツルギの国の、第2王子?」「えっ、クルト知ってるの?ボク、ちょっと色々あって知ってるんだよ。髪が同じ赤色だし、表情がロックとそっくりなんだ!顔はアーサーの方が男っぽいんだけど。まあでも、アーサーは王子様だしなぁ。ロックみたいなドジな王子様はいないか。」
クルトは話の内容よりも、くるくると変わるリーフの表情を見て面白がっていた。ニコニコ笑って見ている。「って・・・なに?クルト?」「ううん・・・リーフって、不思議な女の子だよね。ていうか、とても可愛いのに女の子らしくないんだ、全然。あ、悪い意味じゃないよ。どうしてだろう。」
(それは・・・、ボクの中身は違う世界の日本の高校一年生男子だからです・・・)とは言えないが。はははと笑ってごまかす。
2人は馬小屋の前で、並んでリンゴをかじった。
リーフはクルトの綺麗な金髪がかぜにそよいでいるのを見るのが好きだ。やわらかそうで、触りたくなる。少年と大人の中間のような、引き締まっているけど繊細な体も見とれてしまう。穏やかな薄茶色の目は、昔大事にしていたビー玉みたいだった。
(ボク変だよなぁ・・・。男としてクルトみたいになりたいとあこがれているのか、友達になりたいのか、女の子として好きなのか分からない・・・。女の子として好きだとしたら・・・ボクはもう終わりだ・・・)
「リーフ、寒くない?」声も好きだ。
(もう一度・・・キスしたらわかるかも)リーフはほとんど無意識に、クルトの頬に手を添えて、キスをした。「リーフ・・・?」「あっ!」
自分でも信じられない。自分から男の子にキスするなんて。「わわわわわ!ごめんなさい!どうしてボクこんなこと・・・ごめんなさい!」慌てて立ち去ろうとしたリーフの腕をクルトが掴んだ。「いいんだ。嬉しいよ、リーフ。」自分の腕に引き寄せて、キスを返す。「ロックがキミにキスしたのを見て・・・、本当はおもしろくなかったんだよ」クルトは座ったまま、立っているリーフの胸に顔をうずめるようにして抱きしめる。服越しに、唇が胸の先に当たってリーフはビクッとした。その反応に気付いて、面白がるように繰り返す。「や・・やめて・・」
これ以上何かをされたら本当におかしくなりそうな気がして、リーフはなんとか逃げた。「ごめん、怒った?リーフ」心配そうにのぞき込むクルト。「ううん、ちがうよ・・・ボクがいけないんだ・・・ちょっと頭冷やしてくる!」
リーフは走って馬小屋から離れた。

ドキドキして仕方ない心臓を押さえ、広い城内を歩き回る。「こんなところで何をしているんですか!」背後から厳しい声が聞こえた。振り向くとそこにいたのは、召使頭のバニイだった。痩せた長身で背筋を伸ばし、しゃんとした姿勢で立っている。リーフは女の人を見て安心し、ポロポロ泣きだした。
「まあ・・・!こっちにいらっしゃい!」バニイはあたりを素早く見まわして、リーフを小さな倉庫みたいな部屋に連れて行った。「リーフ様、ご無礼お許しを」
バニイは泣きじゃくるリーフを樽の上に座らせ、自分はひざまずいた。リーフはなるべく声が出ないように泣いているせいでヒックヒックと子供みたいになっていた。
バニイはリーフの、現実の母親とは全然似ていなくて違うが、母のような安心感を感じさせたのだった。

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