ケーキなボクの冒険

丸めがね

その36

川沿いの平坦な美しい道を、二頭立ての馬車はガラガラと走っていく。

マーリン王子はリーフを抱えてずっと眠っていた。
二時間ほど経っただろうか。「あっ」
思い出した。すっかり忘れていたことがある。
「アーサーさんとジャックさんはどうなっているんですか?」
馬車の窓から顔を出し、寄り添うように白い馬に乗っているスカーレットに聞いた。
「心配ない。お二人は今しばらくは地下牢に入っていただくが、明日の夕暮れには然るべき場所に開放して差し上げることになっている。」
「然るべき場所・・・って?」
「ここホシフルの国と、アーサー様のツルギの国の国境だ。それまでも決してご不自由はおかけしないので、安心してくれ。」
どうやら二人は安全らしいので、リーフはホッとする。まあ、あの二人なら、何があっても自分たちでどうにか切り抜けそうだけど・・・。

馬車の旅は快適とは言いがたかった。舗装されていない道路は思った以上に揺れて、腰もおしりも痛くなる。いっそのこと歩いたほうが楽なんじゃないかと思ったこともあった。
旅も1日目だというのに、夕方には馬車にうんざりしているリーフ。これが3日も続くというのは地獄だ。

夜、一行は休むために少し開けた森でキャンプをする。急な旅の支度だったので十分な設備がなく、マーリン王子とリーフは簡素なテントで、その他の兵はマントを羽織って野宿しなければいけないという状態だった。

皆が休む場所の真ん中で、大きなたき火が燃やされる。夜通し交代で火の番をするようだ。
火の周りで簡単な食事をする。暖かい食事と明るい炎は、それだけで元気が出るようだった。
しかし、マーリン王子は何も食べようとしない。ただリーフにもたれかかり座っている。青白い顔はますます蒼く、火に照らされると陶器の人形のようだった。ちょっと心配になるリーフ。
スカーレットがリーフに何か紅い飲み物を手渡す。何も考えずにゴクリと飲むと、それは葡萄酒だった。ゴホッゴホッとせき込む。
マーリンはリーフの手からコップを取り、自分の口にもっていく。何口か飲んだ後、口に含んだまま、リーフにキスをする。葡萄酒がリーフの喉に流れ込んできた。
燃えさかる炎のせいか、恥ずかしいのか、酔っ払ったのかわからない、リーフの顔が真っ赤に染まった。
王子の顔にも少し赤みがさす。その美しい顔に笑顔がこぼれた。
「・・・そろそろお休みになりませんと」
スカーレットがマーリン王子とリーフをテントに促した。

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