ケーキなボクの冒険

丸めがね

その27

 リーフはマーリン王子に強く抱きしめられ、胸がつぶれて痛かった。
「いたた・・・離してください、王子・・・!ボクが呪いを解くなんてそんなこと 出来るわけないじゃないですか・・・!」

「いや、私にはわかる・・・!キミなんだよ、リーフ。ボクを助けてくれたのは・・・!」

「あっ、そうだ!1000年もたったから自動的に呪いが終わったんじゃないですか?!それがたまたま今夜だったんだよ!」リーフにしては名案だった。

「だとしても」
スカーレットは言った。
「だとしてもお前には王子のそばにいてもらおう!そうすれば氷ネズミのことはもう何も聞かない。だが逃げるというなら私が尋問を続けるまでだ!」

「ええっ・・・そんな・・・」
「いや…頼む・・・頼む・・・」
スカーレットは必死だった。

1000年の間、苦しんできた王族を、ずっと見守り支えてきた騎士の一族。国のため、民のために悪魔と契約し、地獄の苦しみを背負ってしまった王族を守るために生きてきた。
昼間は尊敬すべき王で、夜は恐怖の対象だった。
夜の悪魔が嬲り殺す人間の、恐ろしい叫び声を聞いて、何度も彼女自身が王子を殺そうかと思ったし、昼の王子に夜のことを報告した時の、苦悩に満ちた顔をみるのは心底辛かった。

しかしもっとも恐れているのは、昼の王子が苦悩のあまり自ら死を選んでしまうことだった。

もし、呪いが解けたのなら、もう王子が死を考えることもない・・・!


マーリン王子は腕の中のリーフを見た。今までに経験のない、不思議な感情が生まれてくる。
「私の妻として迎えてもいい・・・」
王子はとんでもないことを言い出した。
「つっ、妻ぁ?!」

さて、現実のリーフ(大ちゃん)、このさえない15歳の少年の夢は、
可愛いお嫁さんと平凡な結婚をして、平凡な夫になることだった。
学校生活を無事にやりすごしつつ真面目に勉強をして、そこそこの大学に入って、地元の公務員になって、性格のいい彼女を作って結婚。
子供は一人か二人、時間があれば家族でお菓子を作ってピクニックに行きたいな、とか。

贅沢はいらない、アイドルにも社長にもスポーツ選手にもどっかのエリートも目指していない、ただただ平穏に暮らすのが夢だったのです!!


なのに「妻」になるなんて
「無理です!!」 リーフはきっぱり断った。

「さっさと婚儀をしてしまえば良いでしょう」
スカーレットは無茶なことを言い出した。


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