皇太子妃奮闘記~離縁計画発動中!~
閑話③ランディ②
私は思わず、拳を握り身を構える。
ランクス殿は私の前まで来て話かけてきた。
「先ほどはどうも。」
「·········。」
「近衛としては立派ですね。アリア様の側に貴方のように迅速に対応できる方がいて安心しました。」
「······ありがとうございます。」
「そんな顔をしないでください·····。」
どうやら私は、自然に変な顔をしていたらしい。
ランクス殿は困ったように苦笑いをしている。そして私の顔を少しの間、じっと見つめて話を始めた。
「きっとランディ殿は、先ほどの件で怒りがあるでしょう。」
「·········。」
「ですが、私はルイス殿下に対して怒りがあります。」
「!!!ランクス殿!」
なんてことを言うのだこの方は!下手すれば不敬罪に問われても仕方ないぞ!
だが、当の本人は気にした様子もなく真顔になった。
「元々アリア様は私の婚約者だったのだ。」
「え!?」
婚約者?
「アリア様は産まれる前から私との婚約は決まっていた。まだ世間には公表してはいなかったが、周知はされていた。」
「·······。」
そんな話は聞いことない·····。
「アリア様との婚約発表があと少しという所で、ルイス殿下がサマヌーン国に訪問された時に、アリア様に一目惚れしてあっさりとかっさわれたのだ。」
「サマヌーンの国王様はそれを承知でルイス殿下との婚約を承諾したのですか?」
「······そうだ。他国の皇太子に·····ましてや今では大陸で一番の大国に小国のサマヌーン国が抗あらがうことができるとおお思いか?」
「······。」
できないであろうな。
「私はアリア様がお産まれになった時に会って、天使のようなアリア様に一目惚れをした。私が幸せにするんだと思っていた。」
「······。」
「私は今でもアリア様を愛している。」
「!!」
「できるなら二人で······」
「あっ、貴方はまさかアリア様と逃亡を考えていたのですか!?」
「ええ。」
何てことを考えているんだ!この人は!
「私はアリア様が幸せなら諦めていた。実際そうでだった。実は三年前に一度、ルイス殿下に内緒にしてこのリンカーヌ王国へ来たことがあった。アリア様は『私が嫁ぐ国を嫁ぐ前に一度この目でみたい』とおっしゃってね。そしてルイス殿下を驚かせたいと····その為に沢山の努力をされてこの国へ来たのです。道中は危険なことにも遭遇もした。来てみたらちょうどフレラルン祭でしたよ。」
フレラルン祭·····三年前と言えば、ルイス殿下がちょうど側妃様のローゼンリタ様とナタリア様を娶ったばかりで、御披露目を国民にしたはず。
私が少し顔を歪めていたのか、ランクス殿はフッと笑った。
「ランディ殿、思い出ましたか?アリア様は民衆に紛れてドキドキしながらルイス殿下を拝見ようと待ってました。そしていざ前を通ると····二人の女性と仲良く並び国民に笑顔で手を振るルイス殿下を見ました。その時のアリア様のお気持ちがお分かりになりますか?」
「·····アリア様はルイス殿下がお二方を娶ったことを知らなかったのですか?」
「·····ええ。ルイス殿下はいつもアリア様に愛の囁きをされてましたので·····。それなのに、まさか自分との結婚前に側妃を娶るとは誰も思わないでしょう?しかもお二人。かなりショックを受けられた。失意の中に帰国し、ルイス殿下との婚約の破棄を申し入れをしたのです。」
「婚約破棄ですか!?」
「ですがサマヌーンの国王である父王に止められました。だから私は·····。」
そうであろう·····。そんな・・・ことで婚約破棄をしたら大変なことになる。
「私が一緒に逃げましょうと言った。私は少し苦労をおかけするかもしれないが、幸せにしてみせると伝えた。だがアリア様は私にこうおっしゃった。」
ランクス殿は一旦深呼吸をし、言葉を続けた。
「私は国を守る為にルイス殿下に嫁ぐと······。政略結婚なら国の為に嫁がなければならない時は多々ある。特に王族にはね。だがアリア様の場合はルイス殿下に望まれ、アリア様もルイス殿下のことを慕われていた。それを·····今度は国を守る為とおっしゃった。どんな気持ちでおっしゃったことか。私はその言葉を聞いて、私もアリア様が守ると言ったサマヌーン国を豊かにし、大国に負けない国にする為に行動をすることにした。」
·····この婚礼の前には、そんな出来事があったのか······。
アリア様がやたらとルイス殿下から逃げているなとは思っていたが······なるほど。
疑問に思っていたことの一つが解決した。
ランクス殿はすっきりした顔をした。
「その行動の一つは失敗をしてしまったけどね。」
「失敗?」
私が聞くとランクス殿は苦笑した。
「だが、私はその失敗に対してまた行動することを決めた。····やはり私はアリア様を愛している。自分の気持ちを隠すことは辞めた。思うことは自由だろ?」
ランクス殿はそう言ってウインクをして去って行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私はランクス殿がアリア様の唇を奪ったことを、ルイス殿下に報告していない。
ランクス殿の話しを聞いたら、報告することを躊躇ためらわれたのだ。
私は本日の業務が終わり、夜勤の者に申し送りをし帰宅した。
お風呂に入りその日の疲れを取った。そしていつもは仕事の休みの時しか飲まないお酒を飲んでいた。
飲みたい気分になった。
何故かというと、今日キース殿から聞いた話だ。
「ランクス殿が婚約破棄をしたらしい!相手はサマヌーン国の第二皇女だぞ!あいつそんなことして大丈夫なのか!」
驚いた。婚約破棄もだが、婚約者が王家の方だったとは。
ランクス殿が最後に言った「私は失敗に対して行動をする。」という言葉が頭によぎった。
「失敗」とは婚約のことだったのだ。
そして思う。私の方はどうだと·····。
マリンベルとの婚約に不満はない。政略結婚など公爵家に産まれた定めと言っていいであろう。結婚するからには大切にしたい。マリンベルのことも可愛いと思う。
だが、ランクス殿にみたいにマリンベルに対してあんな強い「愛」は····ない。
全てを投げ捨てもいいという「愛」はない。勿論、少なからず愛情はある。だがどちらかというとマリンベルには「妹」に向ける愛情に近いがする。
果たしてこのまま結婚してもいいのだろうか。
そんな考えが頭を過る。
先日の休みの日にマリンベルに逢いにムラサーラ公爵家に伺った。
「もう!ランディ様は私になかなか逢いにきてくださらない!」
マリンベルはそう言って私の腕にしがみついてくる。
「私を寂しい思いをさせてたお詫びに宝石を買ってくださらない?先日お母様と一緒にお出かけした時に欲しいのを見つけましたの!」
またマリンベルのワガママが始まったか。
「マリンベル、前回会った時にネックレスを買ってあげたばかりじゃないか。」
「あれはあれですわ!今はその宝石が欲しいんですの!」
「マリンベル、これでも私は休みの度に君に逢いに来ているんだよ。君に寂しい思いをさせているのは悪いと思うが、仕事だから·····」
「もういいですわ!ランディ様なんて嫌い!」
マリンベルは私の言葉を遮り、怒って部屋から出て行った。
その後は母親であるカイヤ公爵婦人がやってきて、「宝石くらい買ってあげたらどうかしら?」「もう少しあの子に構ってあげて」とか言われた。
私はなるべく彼女の意思を叶えていると思っているし、私なりに彼女に尽くしているつもりだ。
·····アリア様とは大違いだ。人間が違うのだから当たり前だが。アリア様とマリンベルは一歳違いなだけだ。マリンベルの方が一つ下なだけ。片やは皇太子となり国の財政や国民のことを考えて、後宮の予算を削減して、側妃様達はドレスなどの高い物を購入する際は申請をしなければならなくした。
アリア様ご本人も普段は誰よりも質素な感じのお召し物をしている。いつも周りに気配りをしてくれる。少しでも体調が悪い者を見つけると「大丈夫?」とお声をかけている。だから近衛隊だけでなく他の騎士にも好意を持たれている。
片やマリンベルはワガママで、欲しいと思ったらすぐに購入をする。
周りを気配りをしているには程遠い。
何度も言うがマリンベルは可愛いと思う。ワガママも可愛いと思っていた。だが、奥さんとしたらどうなのかと最近、特にランクス殿の話しを聞いて思うようになっている。
半年後には本格的に婚礼の準備を始めることになる。
こんな気持ちのまま進めてもいいのだろうか。
色んなことが頭を過り、私は夜遅くまでお酒を飲んだ
ランクス殿は私の前まで来て話かけてきた。
「先ほどはどうも。」
「·········。」
「近衛としては立派ですね。アリア様の側に貴方のように迅速に対応できる方がいて安心しました。」
「······ありがとうございます。」
「そんな顔をしないでください·····。」
どうやら私は、自然に変な顔をしていたらしい。
ランクス殿は困ったように苦笑いをしている。そして私の顔を少しの間、じっと見つめて話を始めた。
「きっとランディ殿は、先ほどの件で怒りがあるでしょう。」
「·········。」
「ですが、私はルイス殿下に対して怒りがあります。」
「!!!ランクス殿!」
なんてことを言うのだこの方は!下手すれば不敬罪に問われても仕方ないぞ!
だが、当の本人は気にした様子もなく真顔になった。
「元々アリア様は私の婚約者だったのだ。」
「え!?」
婚約者?
「アリア様は産まれる前から私との婚約は決まっていた。まだ世間には公表してはいなかったが、周知はされていた。」
「·······。」
そんな話は聞いことない·····。
「アリア様との婚約発表があと少しという所で、ルイス殿下がサマヌーン国に訪問された時に、アリア様に一目惚れしてあっさりとかっさわれたのだ。」
「サマヌーンの国王様はそれを承知でルイス殿下との婚約を承諾したのですか?」
「······そうだ。他国の皇太子に·····ましてや今では大陸で一番の大国に小国のサマヌーン国が抗あらがうことができるとおお思いか?」
「······。」
できないであろうな。
「私はアリア様がお産まれになった時に会って、天使のようなアリア様に一目惚れをした。私が幸せにするんだと思っていた。」
「······。」
「私は今でもアリア様を愛している。」
「!!」
「できるなら二人で······」
「あっ、貴方はまさかアリア様と逃亡を考えていたのですか!?」
「ええ。」
何てことを考えているんだ!この人は!
「私はアリア様が幸せなら諦めていた。実際そうでだった。実は三年前に一度、ルイス殿下に内緒にしてこのリンカーヌ王国へ来たことがあった。アリア様は『私が嫁ぐ国を嫁ぐ前に一度この目でみたい』とおっしゃってね。そしてルイス殿下を驚かせたいと····その為に沢山の努力をされてこの国へ来たのです。道中は危険なことにも遭遇もした。来てみたらちょうどフレラルン祭でしたよ。」
フレラルン祭·····三年前と言えば、ルイス殿下がちょうど側妃様のローゼンリタ様とナタリア様を娶ったばかりで、御披露目を国民にしたはず。
私が少し顔を歪めていたのか、ランクス殿はフッと笑った。
「ランディ殿、思い出ましたか?アリア様は民衆に紛れてドキドキしながらルイス殿下を拝見ようと待ってました。そしていざ前を通ると····二人の女性と仲良く並び国民に笑顔で手を振るルイス殿下を見ました。その時のアリア様のお気持ちがお分かりになりますか?」
「·····アリア様はルイス殿下がお二方を娶ったことを知らなかったのですか?」
「·····ええ。ルイス殿下はいつもアリア様に愛の囁きをされてましたので·····。それなのに、まさか自分との結婚前に側妃を娶るとは誰も思わないでしょう?しかもお二人。かなりショックを受けられた。失意の中に帰国し、ルイス殿下との婚約の破棄を申し入れをしたのです。」
「婚約破棄ですか!?」
「ですがサマヌーンの国王である父王に止められました。だから私は·····。」
そうであろう·····。そんな・・・ことで婚約破棄をしたら大変なことになる。
「私が一緒に逃げましょうと言った。私は少し苦労をおかけするかもしれないが、幸せにしてみせると伝えた。だがアリア様は私にこうおっしゃった。」
ランクス殿は一旦深呼吸をし、言葉を続けた。
「私は国を守る為にルイス殿下に嫁ぐと······。政略結婚なら国の為に嫁がなければならない時は多々ある。特に王族にはね。だがアリア様の場合はルイス殿下に望まれ、アリア様もルイス殿下のことを慕われていた。それを·····今度は国を守る為とおっしゃった。どんな気持ちでおっしゃったことか。私はその言葉を聞いて、私もアリア様が守ると言ったサマヌーン国を豊かにし、大国に負けない国にする為に行動をすることにした。」
·····この婚礼の前には、そんな出来事があったのか······。
アリア様がやたらとルイス殿下から逃げているなとは思っていたが······なるほど。
疑問に思っていたことの一つが解決した。
ランクス殿はすっきりした顔をした。
「その行動の一つは失敗をしてしまったけどね。」
「失敗?」
私が聞くとランクス殿は苦笑した。
「だが、私はその失敗に対してまた行動することを決めた。····やはり私はアリア様を愛している。自分の気持ちを隠すことは辞めた。思うことは自由だろ?」
ランクス殿はそう言ってウインクをして去って行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私はランクス殿がアリア様の唇を奪ったことを、ルイス殿下に報告していない。
ランクス殿の話しを聞いたら、報告することを躊躇ためらわれたのだ。
私は本日の業務が終わり、夜勤の者に申し送りをし帰宅した。
お風呂に入りその日の疲れを取った。そしていつもは仕事の休みの時しか飲まないお酒を飲んでいた。
飲みたい気分になった。
何故かというと、今日キース殿から聞いた話だ。
「ランクス殿が婚約破棄をしたらしい!相手はサマヌーン国の第二皇女だぞ!あいつそんなことして大丈夫なのか!」
驚いた。婚約破棄もだが、婚約者が王家の方だったとは。
ランクス殿が最後に言った「私は失敗に対して行動をする。」という言葉が頭によぎった。
「失敗」とは婚約のことだったのだ。
そして思う。私の方はどうだと·····。
マリンベルとの婚約に不満はない。政略結婚など公爵家に産まれた定めと言っていいであろう。結婚するからには大切にしたい。マリンベルのことも可愛いと思う。
だが、ランクス殿にみたいにマリンベルに対してあんな強い「愛」は····ない。
全てを投げ捨てもいいという「愛」はない。勿論、少なからず愛情はある。だがどちらかというとマリンベルには「妹」に向ける愛情に近いがする。
果たしてこのまま結婚してもいいのだろうか。
そんな考えが頭を過る。
先日の休みの日にマリンベルに逢いにムラサーラ公爵家に伺った。
「もう!ランディ様は私になかなか逢いにきてくださらない!」
マリンベルはそう言って私の腕にしがみついてくる。
「私を寂しい思いをさせてたお詫びに宝石を買ってくださらない?先日お母様と一緒にお出かけした時に欲しいのを見つけましたの!」
またマリンベルのワガママが始まったか。
「マリンベル、前回会った時にネックレスを買ってあげたばかりじゃないか。」
「あれはあれですわ!今はその宝石が欲しいんですの!」
「マリンベル、これでも私は休みの度に君に逢いに来ているんだよ。君に寂しい思いをさせているのは悪いと思うが、仕事だから·····」
「もういいですわ!ランディ様なんて嫌い!」
マリンベルは私の言葉を遮り、怒って部屋から出て行った。
その後は母親であるカイヤ公爵婦人がやってきて、「宝石くらい買ってあげたらどうかしら?」「もう少しあの子に構ってあげて」とか言われた。
私はなるべく彼女の意思を叶えていると思っているし、私なりに彼女に尽くしているつもりだ。
·····アリア様とは大違いだ。人間が違うのだから当たり前だが。アリア様とマリンベルは一歳違いなだけだ。マリンベルの方が一つ下なだけ。片やは皇太子となり国の財政や国民のことを考えて、後宮の予算を削減して、側妃様達はドレスなどの高い物を購入する際は申請をしなければならなくした。
アリア様ご本人も普段は誰よりも質素な感じのお召し物をしている。いつも周りに気配りをしてくれる。少しでも体調が悪い者を見つけると「大丈夫?」とお声をかけている。だから近衛隊だけでなく他の騎士にも好意を持たれている。
片やマリンベルはワガママで、欲しいと思ったらすぐに購入をする。
周りを気配りをしているには程遠い。
何度も言うがマリンベルは可愛いと思う。ワガママも可愛いと思っていた。だが、奥さんとしたらどうなのかと最近、特にランクス殿の話しを聞いて思うようになっている。
半年後には本格的に婚礼の準備を始めることになる。
こんな気持ちのまま進めてもいいのだろうか。
色んなことが頭を過り、私は夜遅くまでお酒を飲んだ
コメント
ノベルバユーザー212542
他のアプリでもこの作品を読んでるのですが、続きは書かれないのですか?
ずっと楽しみにしているので、作者様が落ち着いた時に更新して頂けると嬉しいです!