全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる
36話 太陽の存在
「先生、早く選択してくださいよ……」
「月島、急になに言っt…!?」
「なんてね、冗談ですよ」
肩を揺すり、無理やり幻舞を振り向かせた千鹿が目にしたのは、目が合っているはずの自分がさも視界には入っていないかのように、どこか遠くを見つめるとても冷たい眼差しだった
しかし、それは一瞬の出来事だったために千鹿以外誰も気付かなかった
「ったく、冗談にしても限度ってもんがあるだろ」
「あはは…すいません、いくら琉先生でもこうなったエルテイクナーには勝てませんよね」
「なに!?な、なぜお前がその名前を知ってる?!どうする、最悪の場合は殺すしか…」
幻舞の安い挑発には決して乗らなかったが、“エルテイクナー”という名前を聞いた琉の顔色は見る見るうちに青ざめていき、額からは大量の汗をかきながら分かり易く焦り始めた
「落ち着いてくださいよ、なんで知ってるもなにも、そんな有名な名前を知らないわけないでしょう…まぁ、海凪先生があの月の巫女だとわかったのはついさっきですけどね」
「じゃあ、もう一人も知っているのか?」
「もう一人というと太陽の覡のことですか?」
「やめろ、あいつの前でその名前を口にするな!」
そう言うと、琉は心配そうに海凪の方を向いたが海凪は相も変わらず喚き続けていた
「そんなに心配しなくても今先生が暴走してるのが“太陽の覡”に関係あることぐらいわかってますよ、それに、先生じゃその中で少しだって理性を保つことができないってこともね」
「幻舞、言いたくはないがミナのこれは初めてじゃない、あいつをあまりなめるなよ」
「なにを言ってるんですか、こうなること自体弱い証拠でしょ」
「確かに、それもそうだが…」
琉は図星を突かれて言い返せなかった
「はぁ…こんなくだらない言い争いは終わりにしてください、月島も、とにかく今は海凪先生をどうにかしないと」
「「あぁ…そうだな」」
千鹿の声によって、幻舞と琉は二人とも本来の目的に目を向けた
「ミナを助ける!」「やるかぁ」
幻舞と琉はもう一度声を合わせて気合を入れなおした
「それで先生、さっき前にも暴走したことがあるって言ってましたが、そのときはどうやって正気に戻ったんですか?」
「正直、今のミナは今までとはぜんぜん違う、だから今回も今までどおりにいくとは…」
「なに今更弱気になってるんですか、できるかどうかじゃなくって今はやるしかないでしょう」
「わかった…ミナ!聞こえるか?俺だ!琉だ!」
幻舞にうまく言い包められた琉は、一呼吸置くと開き直ったようにして急に海凪に向かって叫び始めた
「っ!?それはだめです、先s」
「カケ…兄…」ギュッ
琉の必死の呼びかけに、海凪は少しだが正気を取り戻しその少しで必死に琉のことを抱きしめた
「h e?」
今まで、魔力暴走をきたした者をそれがたとえ恋人であろうと例外なく殺してきた自分には全く思いもつかなかった琉の奇行が、魔力暴走をした海凪の正気を少しでも呼び起こしたことに、幻舞は自分が再び素っ頓狂な声を出していることにも気づかないくらい驚いていた
「カ…カカ…カケ…」
「まずい!先生、今すぐそこから離れてください!」
「なんだ幻舞、嫉妬でもしてるのか?これが従兄妹のぉぉぉ」ピュー
琉が、幻舞の今まで行ってきたことの全てが無駄であると暗に言っているかのように海凪の正気が少し戻ったことを自慢げに幻舞に話そうとした時、海凪の容態が急変し、突如腕の中にいた琉を放り投げた
「<空中散歩>、大丈夫ですか、先生」
「あぁ…すまない、助かった」
「いいですか?先生」
「なんだ」
「さっきのでわかったと思いますが、まともに話しかけても無駄です、人間が理性を失う一番の原因は内面的なものも含めた痛み、悪循環の真っ只中にいる暴走状態の人間に話しかけても全て痛みとして捉えられて余計に加速するだけです」
「でも、今までは確かにさっきの方法でなんとかなったんだぞ」
「それは、たまたまでしょう、暴走がそこまでであれば理性が残っていることは珍しくありませんし、その理性に運よく言葉を投げかけれれば暴走はとまります」
「そうか…じゃあどうすればいいんだ?」
「それは簡単です、その悪循環をなんとかすればいいんですよ」
「具体的にはどうやってやるんだ?」
「具体的な方法は何個かありますが、大まかに分ければ二つです」
魔力暴走時の悪循環は、琉が行ったように“呼びかけ”などによって一時的に悪循環を打ち消す方法と、暴走している術者を気絶させるなどして悪循環そのものをなかったことにする方法の二つがある
前者の場合は、日常的に再び暴走が起こりそうな状況が続くが、当人の意識次第で暴走の威力も抑えることができる
それに対して後者は、次暴走が起こるときは突発的で当人含め誰にも予想ができないため、暴走の威力は最大となる
「そんなの選ぶまでもないだろ、何度だってミナのことを呼んでやるよ…ミナ、ミナ!」
琉は、幻舞の忠告に一切聞き耳を持たず海凪に呼びかけ始めた
「まだ話は終わってません」
自分の話を全く聞かない琉を見かねて制止を促した幻舞だったが、そんな琉の姿に身に覚えがあったために強くは言えなかった
「なんだよ」
「後者を選んだ場合でもメリットがないわけではありません」
前者を選べば日常的に暴走に意識しなければいけなくなり負荷が大きくなる
それに引き換え後者は、周りの人間の負荷は増すが当人の負荷は限りなくゼロに近い
つまり、琉が前者を選んだ場合は海凪に以前よりも苦しみを与えることになる可能性があるのだ
「問題ない、お前はミナそのくらいで根をあげるとでも思っているのか?」
幻舞の意地の悪い問いに、琉は戸惑うどころか海凪への満腹の信頼を見せて即答した
「そうですか…強いんですね、従兄妹って…」
「…ミナ!ミナ!」
幻舞が発した言葉の重さに琉は息を呑んだが、そう言って神妙な顔をした幻舞と苦しそうにしている海凪が同時に視界に入ると、琉は何か思いついたように突然海凪に呼びかけ始めた
「いつもはあんなに冷静な先生なのに…周りの声なんてなんも聞こえてないみたい…」
「ほんと…」
そんな幻舞と琉のやりとりを側から見ていた千鹿達は、琉のあまりの変わりように驚いて呆然としていた
「先生、さっきも言った通りそんなことしたって余計煽るだけですよ」
「それはさっきも聞いたよ」
「だったらなんで」
「…普通は、だろ?」
千鹿達の心配を余所に、当の琉は段々と普段の落ち着きを取り戻しつつあった
「お前もさっき驚いてた通り、俺たち従兄妹はそこらのキョ
ウダイとは一味も二味も違うっての」
「先生、その発言は教師としていかがなものかと…」
「ちょ、おまっ、変な勘違いしてんじゃねぇよ!俺たちはなんもねぇからな!」
そう言うと、琉の顔は見る見るうちに赤くなっていった
「冗談のつもりだったんですが、そんなにムキになるなんてもしかして本当でした?」
「幻舞、あまり調子にのるなよ」
「あはは…それで、やります?」
「ふっ、お前に闘いを挑むやつなんて狂ってるとしか思えねぇな」
「ってことは、海凪先生は狂ってると?」
幻舞は、自分と琉の方に向かってくる海凪を指差しながらそう言った
「今のこいつはそうだろうな」
「そりゃぁ、見た目からしてもそうですもんね」スン   スン
「あぁ?!」
今の海凪が狂っていることは認めた琉も、容姿の批判には怒りを露わにした
「“蒼天”起動!」
「なにをする気だ?!幻舞」
「安心してください、防ぐのにしか使いませんから…」スン   スン
「魔力斥波を放ちながらのパンチを、これだけで防いでたらいつか壊れちゃいますからね」
幻舞は、服の袖を捲りコンコンと自分の義手を叩いた
「そうか…ま、お前だったら万が一にでもミナを斬っちまうしんぱいはないだろうからな…くっ、それにしてもなんて風圧だ」
(ミナ以外にも何人か暴走したやつは見たことあったけど、こんな威力の魔力斥波は今まで見てきたどれよりも桁違いだな、立ってるだけで精一杯だぞ…こっちはそうだってのに、なんで俺よりも波源の近くにいるあいつがあんな余裕そうなんだよ)
「このバケモンが」ボソッ
「ん?なにぼーっとしてるんですか?そっちに行きましたよ」
「ニ…ゲテ…」ブツブツ
琉が幻舞の化け物っぷりを改めて実感して唖然としていたところに、海凪は僅かな理性を振り絞って呟きながら歩いて行った
「くっ…逃げろったってこんなかっこわりぃ姿をさらしたままでいられるかよ!」
琉は、向かってくる波源に対して一歩も引くことなく、それどころか顔を腕で覆い段々と強くなっていく魔力斥波を防ぎながら、半歩でも海凪に近づこうと足を進めていた
(とは言ってもどうしたもんかな…なぁ、ハク、お前だったらどうする…なんてな、わかってる、無理だってのはわかってるけど、俺かミナがヤバイときは毎回お前を思い浮かべちまうだ…なんもなかったような顔して急にどっかから出てきて助けてくれるんじゃないかって期待しちまうんだ…今回だって…)
「俺は一体どうすればいいんだ?なぁ、教えてくれよ!ハク!」
「なんだ?」
「どうしたんだ?琉先生、いきなり大きな声なんて出したりして」
琉の急な大声に、近くにいた皆はびっくりして一斉に琉の方を向いた
「…はっ!」キョロキョロ
(ヤベェ…あいつは、ミナは大丈夫か?)
皆に注目されたことで、自分が心の声を口に出していたことに気づいた琉はすぐに口を手で塞ぐと、こちらもすぐに、向かってくる海凪に心配の眼差しを向けた
「ふぅ…よかった、大丈夫そうだ…あともう少しだ」
「<天使達の抱擁>、深嗎、行ってこい!」
琉が海凪に向けて手を伸ばした時、深嗎 龍蛇の背に生えた羽が、海凪と琉の間に割って入るかのように海凪だけを包み、深嗎と海凪だけの空間を作った
「リョ…ウタ…?」
「あぁ…俺だよ、ナギ姉!」ギュッ
深嗎は、二人だけになったことで気が高ぶったのか、突然海凪を抱きしめた
「リョ…ウタ…?」
「ナギ姉…結婚しよう!」
「っ!龍蛇…」ポロポロ バタッ
またしても突然の深嗎のプロポーズに、なんと海凪の意識が一瞬戻った
しかし、大量の魔力消費による疲れから深嗎の腕に包まれながら眠ってしまった
「椰仄、解いていいぞ」
「<羽化>解除」
深嗎の背から生えていた羽が消えると、中から深嗎の胸の前で抱かれながら寝ている海凪が出てきた
「「「うおぉー!」」」
魔力斥波によって近ずくことができず、遠目から眺めていたもの達の興奮が一瞬にして最高潮に達し、その者達の間で声を上げて大いに盛り上がっていた
「ミナ、よかった…ありがとな、りょうt…あれ?」
深嗎に海凪を渡され感慨に浸っていた琉は、顔をあげてに礼を伝えようとしたが、さっきまで目に前に立っていた深嗎の姿はなくなっていた
「お前ってさぁ…」
「ん?」
「中二病?」
「は?!」
「いやだってさぁ、礼の言葉ぐらい貰ったって損はねぇのによ、なんかそういう、いわゆるヒーローみたいなのに憧れてたりするのかなぁなんて思っただけ、そんなに怒んなよ」
「ヒーロー、ね…確かに憧れてるよ」
「まじで!?」
「とは言っても、憧れは憧れのまま、いくら手を伸ばしたって今はもう絶対に手の届かないところまで駆け上っちゃったからな…って、そんなことよりお前俺になにさせてくれてんだよ、おかげで連敗だよ」
「心配すんな、お前は恋愛以外じゃ負けねぇよ」
「お前こそ心配すんな、ナギ姉以上の女は見つけられねぇよ」「いつまでもガキみてぇに手を伸ばしたまんまじゃなきゃな…」
「ん?なんか言ったか?わりぃ、被っててなんも聞こえなかったからもう一回言ってくれ」
「なんでもねぇよ、何回も言いたかねぇし」
「なんだよ、ケチぃ」
「月島、急になに言っt…!?」
「なんてね、冗談ですよ」
肩を揺すり、無理やり幻舞を振り向かせた千鹿が目にしたのは、目が合っているはずの自分がさも視界には入っていないかのように、どこか遠くを見つめるとても冷たい眼差しだった
しかし、それは一瞬の出来事だったために千鹿以外誰も気付かなかった
「ったく、冗談にしても限度ってもんがあるだろ」
「あはは…すいません、いくら琉先生でもこうなったエルテイクナーには勝てませんよね」
「なに!?な、なぜお前がその名前を知ってる?!どうする、最悪の場合は殺すしか…」
幻舞の安い挑発には決して乗らなかったが、“エルテイクナー”という名前を聞いた琉の顔色は見る見るうちに青ざめていき、額からは大量の汗をかきながら分かり易く焦り始めた
「落ち着いてくださいよ、なんで知ってるもなにも、そんな有名な名前を知らないわけないでしょう…まぁ、海凪先生があの月の巫女だとわかったのはついさっきですけどね」
「じゃあ、もう一人も知っているのか?」
「もう一人というと太陽の覡のことですか?」
「やめろ、あいつの前でその名前を口にするな!」
そう言うと、琉は心配そうに海凪の方を向いたが海凪は相も変わらず喚き続けていた
「そんなに心配しなくても今先生が暴走してるのが“太陽の覡”に関係あることぐらいわかってますよ、それに、先生じゃその中で少しだって理性を保つことができないってこともね」
「幻舞、言いたくはないがミナのこれは初めてじゃない、あいつをあまりなめるなよ」
「なにを言ってるんですか、こうなること自体弱い証拠でしょ」
「確かに、それもそうだが…」
琉は図星を突かれて言い返せなかった
「はぁ…こんなくだらない言い争いは終わりにしてください、月島も、とにかく今は海凪先生をどうにかしないと」
「「あぁ…そうだな」」
千鹿の声によって、幻舞と琉は二人とも本来の目的に目を向けた
「ミナを助ける!」「やるかぁ」
幻舞と琉はもう一度声を合わせて気合を入れなおした
「それで先生、さっき前にも暴走したことがあるって言ってましたが、そのときはどうやって正気に戻ったんですか?」
「正直、今のミナは今までとはぜんぜん違う、だから今回も今までどおりにいくとは…」
「なに今更弱気になってるんですか、できるかどうかじゃなくって今はやるしかないでしょう」
「わかった…ミナ!聞こえるか?俺だ!琉だ!」
幻舞にうまく言い包められた琉は、一呼吸置くと開き直ったようにして急に海凪に向かって叫び始めた
「っ!?それはだめです、先s」
「カケ…兄…」ギュッ
琉の必死の呼びかけに、海凪は少しだが正気を取り戻しその少しで必死に琉のことを抱きしめた
「h e?」
今まで、魔力暴走をきたした者をそれがたとえ恋人であろうと例外なく殺してきた自分には全く思いもつかなかった琉の奇行が、魔力暴走をした海凪の正気を少しでも呼び起こしたことに、幻舞は自分が再び素っ頓狂な声を出していることにも気づかないくらい驚いていた
「カ…カカ…カケ…」
「まずい!先生、今すぐそこから離れてください!」
「なんだ幻舞、嫉妬でもしてるのか?これが従兄妹のぉぉぉ」ピュー
琉が、幻舞の今まで行ってきたことの全てが無駄であると暗に言っているかのように海凪の正気が少し戻ったことを自慢げに幻舞に話そうとした時、海凪の容態が急変し、突如腕の中にいた琉を放り投げた
「<空中散歩>、大丈夫ですか、先生」
「あぁ…すまない、助かった」
「いいですか?先生」
「なんだ」
「さっきのでわかったと思いますが、まともに話しかけても無駄です、人間が理性を失う一番の原因は内面的なものも含めた痛み、悪循環の真っ只中にいる暴走状態の人間に話しかけても全て痛みとして捉えられて余計に加速するだけです」
「でも、今までは確かにさっきの方法でなんとかなったんだぞ」
「それは、たまたまでしょう、暴走がそこまでであれば理性が残っていることは珍しくありませんし、その理性に運よく言葉を投げかけれれば暴走はとまります」
「そうか…じゃあどうすればいいんだ?」
「それは簡単です、その悪循環をなんとかすればいいんですよ」
「具体的にはどうやってやるんだ?」
「具体的な方法は何個かありますが、大まかに分ければ二つです」
魔力暴走時の悪循環は、琉が行ったように“呼びかけ”などによって一時的に悪循環を打ち消す方法と、暴走している術者を気絶させるなどして悪循環そのものをなかったことにする方法の二つがある
前者の場合は、日常的に再び暴走が起こりそうな状況が続くが、当人の意識次第で暴走の威力も抑えることができる
それに対して後者は、次暴走が起こるときは突発的で当人含め誰にも予想ができないため、暴走の威力は最大となる
「そんなの選ぶまでもないだろ、何度だってミナのことを呼んでやるよ…ミナ、ミナ!」
琉は、幻舞の忠告に一切聞き耳を持たず海凪に呼びかけ始めた
「まだ話は終わってません」
自分の話を全く聞かない琉を見かねて制止を促した幻舞だったが、そんな琉の姿に身に覚えがあったために強くは言えなかった
「なんだよ」
「後者を選んだ場合でもメリットがないわけではありません」
前者を選べば日常的に暴走に意識しなければいけなくなり負荷が大きくなる
それに引き換え後者は、周りの人間の負荷は増すが当人の負荷は限りなくゼロに近い
つまり、琉が前者を選んだ場合は海凪に以前よりも苦しみを与えることになる可能性があるのだ
「問題ない、お前はミナそのくらいで根をあげるとでも思っているのか?」
幻舞の意地の悪い問いに、琉は戸惑うどころか海凪への満腹の信頼を見せて即答した
「そうですか…強いんですね、従兄妹って…」
「…ミナ!ミナ!」
幻舞が発した言葉の重さに琉は息を呑んだが、そう言って神妙な顔をした幻舞と苦しそうにしている海凪が同時に視界に入ると、琉は何か思いついたように突然海凪に呼びかけ始めた
「いつもはあんなに冷静な先生なのに…周りの声なんてなんも聞こえてないみたい…」
「ほんと…」
そんな幻舞と琉のやりとりを側から見ていた千鹿達は、琉のあまりの変わりように驚いて呆然としていた
「先生、さっきも言った通りそんなことしたって余計煽るだけですよ」
「それはさっきも聞いたよ」
「だったらなんで」
「…普通は、だろ?」
千鹿達の心配を余所に、当の琉は段々と普段の落ち着きを取り戻しつつあった
「お前もさっき驚いてた通り、俺たち従兄妹はそこらのキョ
ウダイとは一味も二味も違うっての」
「先生、その発言は教師としていかがなものかと…」
「ちょ、おまっ、変な勘違いしてんじゃねぇよ!俺たちはなんもねぇからな!」
そう言うと、琉の顔は見る見るうちに赤くなっていった
「冗談のつもりだったんですが、そんなにムキになるなんてもしかして本当でした?」
「幻舞、あまり調子にのるなよ」
「あはは…それで、やります?」
「ふっ、お前に闘いを挑むやつなんて狂ってるとしか思えねぇな」
「ってことは、海凪先生は狂ってると?」
幻舞は、自分と琉の方に向かってくる海凪を指差しながらそう言った
「今のこいつはそうだろうな」
「そりゃぁ、見た目からしてもそうですもんね」スン   スン
「あぁ?!」
今の海凪が狂っていることは認めた琉も、容姿の批判には怒りを露わにした
「“蒼天”起動!」
「なにをする気だ?!幻舞」
「安心してください、防ぐのにしか使いませんから…」スン   スン
「魔力斥波を放ちながらのパンチを、これだけで防いでたらいつか壊れちゃいますからね」
幻舞は、服の袖を捲りコンコンと自分の義手を叩いた
「そうか…ま、お前だったら万が一にでもミナを斬っちまうしんぱいはないだろうからな…くっ、それにしてもなんて風圧だ」
(ミナ以外にも何人か暴走したやつは見たことあったけど、こんな威力の魔力斥波は今まで見てきたどれよりも桁違いだな、立ってるだけで精一杯だぞ…こっちはそうだってのに、なんで俺よりも波源の近くにいるあいつがあんな余裕そうなんだよ)
「このバケモンが」ボソッ
「ん?なにぼーっとしてるんですか?そっちに行きましたよ」
「ニ…ゲテ…」ブツブツ
琉が幻舞の化け物っぷりを改めて実感して唖然としていたところに、海凪は僅かな理性を振り絞って呟きながら歩いて行った
「くっ…逃げろったってこんなかっこわりぃ姿をさらしたままでいられるかよ!」
琉は、向かってくる波源に対して一歩も引くことなく、それどころか顔を腕で覆い段々と強くなっていく魔力斥波を防ぎながら、半歩でも海凪に近づこうと足を進めていた
(とは言ってもどうしたもんかな…なぁ、ハク、お前だったらどうする…なんてな、わかってる、無理だってのはわかってるけど、俺かミナがヤバイときは毎回お前を思い浮かべちまうだ…なんもなかったような顔して急にどっかから出てきて助けてくれるんじゃないかって期待しちまうんだ…今回だって…)
「俺は一体どうすればいいんだ?なぁ、教えてくれよ!ハク!」
「なんだ?」
「どうしたんだ?琉先生、いきなり大きな声なんて出したりして」
琉の急な大声に、近くにいた皆はびっくりして一斉に琉の方を向いた
「…はっ!」キョロキョロ
(ヤベェ…あいつは、ミナは大丈夫か?)
皆に注目されたことで、自分が心の声を口に出していたことに気づいた琉はすぐに口を手で塞ぐと、こちらもすぐに、向かってくる海凪に心配の眼差しを向けた
「ふぅ…よかった、大丈夫そうだ…あともう少しだ」
「<天使達の抱擁>、深嗎、行ってこい!」
琉が海凪に向けて手を伸ばした時、深嗎 龍蛇の背に生えた羽が、海凪と琉の間に割って入るかのように海凪だけを包み、深嗎と海凪だけの空間を作った
「リョ…ウタ…?」
「あぁ…俺だよ、ナギ姉!」ギュッ
深嗎は、二人だけになったことで気が高ぶったのか、突然海凪を抱きしめた
「リョ…ウタ…?」
「ナギ姉…結婚しよう!」
「っ!龍蛇…」ポロポロ バタッ
またしても突然の深嗎のプロポーズに、なんと海凪の意識が一瞬戻った
しかし、大量の魔力消費による疲れから深嗎の腕に包まれながら眠ってしまった
「椰仄、解いていいぞ」
「<羽化>解除」
深嗎の背から生えていた羽が消えると、中から深嗎の胸の前で抱かれながら寝ている海凪が出てきた
「「「うおぉー!」」」
魔力斥波によって近ずくことができず、遠目から眺めていたもの達の興奮が一瞬にして最高潮に達し、その者達の間で声を上げて大いに盛り上がっていた
「ミナ、よかった…ありがとな、りょうt…あれ?」
深嗎に海凪を渡され感慨に浸っていた琉は、顔をあげてに礼を伝えようとしたが、さっきまで目に前に立っていた深嗎の姿はなくなっていた
「お前ってさぁ…」
「ん?」
「中二病?」
「は?!」
「いやだってさぁ、礼の言葉ぐらい貰ったって損はねぇのによ、なんかそういう、いわゆるヒーローみたいなのに憧れてたりするのかなぁなんて思っただけ、そんなに怒んなよ」
「ヒーロー、ね…確かに憧れてるよ」
「まじで!?」
「とは言っても、憧れは憧れのまま、いくら手を伸ばしたって今はもう絶対に手の届かないところまで駆け上っちゃったからな…って、そんなことよりお前俺になにさせてくれてんだよ、おかげで連敗だよ」
「心配すんな、お前は恋愛以外じゃ負けねぇよ」
「お前こそ心配すんな、ナギ姉以上の女は見つけられねぇよ」「いつまでもガキみてぇに手を伸ばしたまんまじゃなきゃな…」
「ん?なんか言ったか?わりぃ、被っててなんも聞こえなかったからもう一回言ってくれ」
「なんでもねぇよ、何回も言いたかねぇし」
「なんだよ、ケチぃ」
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