全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる
24話 つかめ胃袋!手料理の味
ー特別入隊試験合格者発表の翌日、月島家ー
「なんで、お前達が俺ん家にいるんだ?」
「なんでって、みんなの合格祝いパーティに決まってるじゃん、昨日話してたの聞いてなかったの?月島」
「いや、確かに話してたのは聞こえたが、俺ん家でやるなんて言ってるようには聞こえなかったんだが」
「それは言ってないもん」
「は?」
「いや、だってぇ、言っちゃったらつまんないでしょ、サプライズなんだから」
「はぁ…まぁ、お前や会長達はわかるとして、なんで勇さんに総紀おじさんまできてるんだよ」
「それは…なんとなくかな」
「はぁ…」
現在月島家に集まっているのは、千鹿や楓を含めたいつもの5人に加えて神代 遥と、先ほど幻舞の言っていた大人二人と、当然月島家の住人である月島兄妹に居候の楠木 魅鵜瑠の、計11人である、幻舞が過去を明かしたときと同じ人数だが、軍の北海道支部と比べれば明らかに広さが違うため、ぎゅうぎゅうとまではいかないものの少し窮屈感の感じる空間となっていた
「はい、お待たせー!」
「じゃーん、これ全部、千鹿お姉ちゃんとかと一緒に作ったんだよ」
「もう千鹿と仲良くなったのか」
「緋離ちゃんみたいな妹私も欲しいなぁ、ねぇ月島、私の妹にしていい?」
「千鹿ちゃん、それってもしかしてプロポーズ?」ニヤニヤ
「やだー、千鹿だいたーん!」
「な、なに言ってるんですか、会長…だいたいなんで私がこんなやつのことをその、す、すす、好きになるんですか!違いますよ、絶対に違いますから、そんなことあるわけないじゃないですか!」
「うふふ」
「なんで笑ってるんですか、まったく」
「…千鹿お姉ちゃん、ちょっと」
緋離はそう言いながら手招きをして、千鹿を側にしゃがませた
「もしかして、千鹿お姉ちゃんって……」
「なっ!」カァァァ
「ちょ、ちょっと、緋離ちゃんまでなにを言ってるの!」
千鹿の反応からすれば、緋離が千鹿に対してなにを言ったかは大方想像がつく
「こんな兄ですが、皆さんこれからもよろしくお願いします」
「うん」
「おう」
「本当に、困ったお兄ちゃんだけどね」
「振り回されてるのはこっちなんですが…」
「さぁ、せっかく作ってくれたご飯が冷めちゃうから早く食べよう」
「…そうですね」
「じゃあ、皆さん手を合わせてください…それでは、いただきます」
「「「いただきます」」」
「んー、うっめぇ、これ誰が作ってくれたんだ?」
「えっと、そのサラダは楓さんです」
「いつの間に作ったんだ?お前、ずっと幻舞と喋ってなかったか?」
「家で作ってきたの」
「そういうことね」
「緋離、こんないっぱい作ってもらって悪いな」
「ううん、それが私の仕事だから…それに嬉しいんだ、こんなにお兄ちゃんを思ってくれてる人たちとみんなで食卓を囲めるなんて夢にも思わなかったもん!」
「そっか…今まで心配かけてすまなかったな」
「そこは謝るとこじゃないでしょ」
「いや、でも…」
「どういたしましたでいいの、どういたしましたで!」
「あ、あぁ」
「ほら、言ってみて」
「ど、どういたしまして」
「うん、本当にありがとう、お兄ちゃん!」
「礼を言うのはこっちの方なんだが…」ボソッ
「ん?どうしたの?」
「いや、このハンバーグうまそうだなぁと思って」パクッ
「それは千鹿お姉ちゃんが作ったやつだよ」
「あっ…ど、どう?おいしい?月島」
「っ!あ、あぁめっちゃうまいぞ、ありがとな、千鹿」
「うん!」ヨシッ
千鹿は、幻舞に見えないように小ぶりのガッツポーズをした
「でも、お兄ちゃん一瞬ピクついたよね、もしかしたらお世辞を言ってるのかもしれないよ、千鹿お姉ちゃん」パクッ
「う、うそ」パクッ
「そ、そんなわけないだろ、本当にうまかったよ」
「うん、おいしい」
「おいしいね」
「じゃあ、あれはなんだったの?」
「もういいだろ、次は会長が作ったのを食べてみたいんだけど」
「…」
「おい緋離、教えてくれよ」
「月島、会長が作ったのはあのサラダとスープだよ」
「おぉ、すまねぇ…ったく、緋離の悪い癖だな」ゴクッ
「げ、幻舞君、どう?おいしい?」
「えぇ、とてもおいしいです」
「そう、よかった」
「やっぱりそうか…」ボソッ
「やっぱりってなにが?」
「いえ、こっちの話なので気にしなくても大丈夫ですよ」
「そ、そう…」
「もしかして…」
そのやり取りを陰から観察するように見ている人物がいた、緋離である、そして緋離は、推測できるただ一つの解にたどり着いたようだった
「それより、サラダも食べていいですか?」
「う、うん、食べて食べて」
「いただきます」パクッ
「うん、これもとてもおいしいです」
「ありがとう、幻舞君にそう言ってもらえるだけで作った甲斐があったよ」
「おい、俺もうまかったって言ったよな」
「あぁ、拓相からは別に求めてないんだけど」
「はぁ…」
(幻舞はモテモテでいいよなぁ)
「月島君、私の作ったのも食べてー」
「月島、今度はこれなんかどうだ?」
「幻舞君、もっと食べて」
「そんないっぺんには無理ですから」
「いや、あれもあれで大変そうだな」
「お兄ぃちゃん、なんで緋離が作った料理は食べてくれないの?」
「お前まで…悪ノリはよしてこの状況をなんとかしてくれよ」
「「あはは」」
「勇さんと総紀さんもなに笑ってるんですか」
・
・
・
「はぁ…ったく、他人っ家で散々騒ぎやがって、片付けが大変だな」
「   」トントン
「ん?あぁ、すまん…<魔法破棄>解除、<進行阻害>発動…で、なんだ?」
『料理、味した?』
「っ!あ、あぁ、どれもうまかったぞ」
『最後に出したデザート、お兄ちゃんのだけ塩をいっぱい入れたんだけど』
「え!?はぁ…いつわかったんだ」
『多分、お兄ちゃんが確信を持ったときぐらいに緋離は推測できた…今日、味覚障害に気づいてから味覚障害対して魔法は使ったの?』
「使ってねぇよ…これなら、たとえまずかったとしても無理をしてる顔をせずに食べれるしな」ニコッ
「   」パシーン
「緋離、悪かったよ、冗談だって、そんなに怒んなよ」
『違う、そのことじゃない…なんで!なんでお兄ちゃんはそんなに笑ってられるの?!自分の身体がどんどん生体兵器に近づいてってるのに、なんでそんなに笑ってられるの?!』
「近づくったってまだ聴覚と味覚だけだろ、いまだに信じがたいぐらいだよ、自分が人じゃなくなるなんて話」
『そうやってまた嘘をつくんだね…緋離とお兄ちゃんは家族じゃないの?』
「なに言ってるんだよ、家族に決まってるだろ、緋離は俺にとって大切な家族だ!」
「だったらなんで!」
『緋離にぐらい本当のこと話してよ、素直になって本当のお兄ちゃんの姿を見せてよ』ウルウル
「緋離…わかった、本当のことを話す」
『うん』
「でも、本当の自分をさらけ出すのは無理だ」
『なんで』
「お前や千鹿達には、かっこいい俺の姿だけを記憶の中に留めておいて欲しい」
『自分でかっこいいなんて、なに言ってるの?』
「ははっ、確かにそうだな…」
『でも、お兄ちゃん…わかった』
「じゃあ、さっき言ってた本当の話をするか…とは言っても、さっきの口ぶりからするにお前もわかってるんじゃないか?」
『さぁ?』
「わかってるなら、あえて言う必要もないだろ」
『緋離、頭悪いからわからないなぁ』
「はぁ…しょうがない…まず十年ほど前、俺は初めて聴覚の神経伝達を“阻害”された、俺の心臓に埋め込まれた魔工具のことは聞かされてたが、それから十年以上もなにも起きなかったからあのときの聴覚障害はショックによるもので、魔工具の話は嘘なんだとずっと思ってた、でも、つい最近の魅鵜瑠が起こした事件のちょっと前に、二回目の、今度は四肢への神経伝達を“阻害”された、そしてさっき、三回目、味覚の神経伝達を“阻害”された」
『やっぱり…千鹿お姉ちゃん達はどこまで知ってるの?』
「聴覚障害のことについては話したが、ショックが原因でなったって言っといたし、この魔工具も病気ってことにしといたから他二つは多分気づいてないだろうな、四肢にいたっては全部義手と義足にしたしな」
『え!?聞いてないけど、なんで左手と右足まで失くなってるの?』
「話すと長くなるんだけどな…簡単に言えば、吹っ飛ばされた」
魅鵜瑠が月島学園を襲撃した時、幻舞は魅鵜瑠の操る夏恋によって爆発をまともに受け、確かに片腕と片脚を引きちぎられた、しかし、あの時引きちぎられ総紀の足元に転がってきたのは右腕だったはずである
ではなぜ、緋離は幻舞の右腕がもともとなかったことを匂わす発言をしたのだろうか
それは、匂わすもなにも本当に元から幻舞には右腕がなかったからである、あの時総紀の足元に転がってきたのは確かに幻舞の右腕だが、それは、幻舞が右腕につけていた人の腕を模した右腕用の義手だったのだ、そして左腕も、これまた替えとして持っていた右腕用の義手だったのだ
つまりあの時幻舞は、神経伝達ではなく魔力によって動いているために動かすことのできた右腕で、左腕と右脚をそれぞれ切り落としてから替えの義手義足をつけ、もともとつけていた右腕の義手を総紀の足元に転がし、左脚は自分で持つことで、引きちぎられたのは義手義足だということをアピールをして、神経伝達を“阻害”され『不必要となった四肢を処分する』という本来の目的を悟らせず、さらに、そのことで総紀に心配させないようにした幻舞の効率重視の判断である
『もう…本当に困ったお兄ちゃんなんだから』
「お前に隠し事は無理そうだな…」
『当たり前でしょ、何年一緒にいると思ってるの?』
「そうだな…ありがとな」
「どういたしまして!」ニコッ
『じゃあ、これからはちゃんと報告すること、いいね』
「わかった、絶対に報告するよ」
『よし…じゃあ、緋離は片付けしちゃうからお兄ちゃんは先にお風呂入っちゃって』
「いや、俺も手伝うよ」
「いいから、早く入ってきて」グイグイ バタン
「ったく…俺にはあんなこと言うくせに、緋離だってもっと俺を頼れ…よ…」
愚痴にもならないような言葉をブツブツとこぼしながら、風呂に入る準備をするために部屋へ行こうとした時幻舞は聞いた、ドアの向こう側で泣きじゃくっている緋離の弱々しい声を
そして幻舞は理解した、緋離もまた、家族に自分のかっこ悪いところを見せたくないのだと
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