全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる

きい

17話 日本軍特別入隊試験


 ー皆それぞれの“武器”を手に入れてから三日後の日本軍特別入隊試験当日、日本軍北海道準本部ー


「わー、人いっぱいいるねー」テクテク 軍には基本、魔法闘士ストライカー育成機関→日本軍育成所→軍入隊と、このような過程を経てやっと入隊することができるのだが、年に2回、4月と9月に行われる特別試験で合格すると飛び級で軍に入隊することができる、しかし、この特別試験は軍からの推薦状がなければ受験できないため、軍育成所卒業試験よりは受験者数が少ない、とは言っても、この特別試験は全国の軍の施設で行っているわけではなく軍の本部と準本部でしか行っていないため、他の県などからも来ることでそれなりに人は集まるのだ、千鹿たちはその中のいわば北海道代表と呼べるだろう

「撫子、あんまりはしゃがないでよ恥ずかしいでしょ!」

「だってー…」

「よっ!相変わらず騒がしいな」

「よぉ幻舞、楓のとこのおじさんは一緒じゃねぇのか?」

「あのなぁ…勇さんはあんなんだが一応ここのトップだぞ、こんなとこ出てこれるわけねぇだろ!」

あんなの・・・・で悪かったな!はぁ…まぁ、お前からしたら確かに俺はその程度だろうけど、ここでは顔ぐらい立ててくれよ」

「あ、あはは…それにしてもあれだな、拓相と撫子はよく間に合わせてきたな、延期になったとは言ってもほんの数日だったのにな」

「まぁ、そこが学年一位のすごさよ!あっはっはっ」

「調子乗んなし!月島は多分『延期してもらえてラッキーだったな』ってバカにしてると思うんだけど」

「ちょっ、千鹿!」 

「なにそれ千鹿、月島くんの真似?あはは、おかしー」

 「うるさいな」

「幻舞、流石にひでぇぞ」

「そ、そんなんじゃねぇって」

「まー、確かにラッキーだったよねー」

「撫子、あんたどんだけ前向きなのよ」

「うふふ…それよりお父さん、こんなとこにずっといたらここに人集りひとだかりができちゃうんだけど」

「あぁ、すまんすまん…楓、拓相、千鹿君、撫子君、飛鳥君、頑張れよ!俺と幻舞は最後で待ってるからな」

 勇は、ゴホンと一回咳払いをするとみんなの名前をそれぞれ呼び、最後に声援を送った

「じゃあな、ほら幻舞も行くぞ!」テクテク

「はい…じゃあ最後でな」タッタッタッ

「勇さん」

「なんだ?」

「いろんな人が見てるからってカッコつけてます?」

「まぁな、一応・・ここのトップだしそれに…」

「それに?」

「いや、何でもない」

「そうですか…」


(いやぁ、だってよぉ

『なんか幻舞を従えてるみたいで上がってるんだよな』

なんて言えるわけないよな)

(上がってんのね…)


 ・


 ・


 ・


「日本軍特別入隊試験を受験するものはここに集まれ、これより第一次試験の説明をする!」

「うわー、なんか偉そー」

「当たり前でしょ、あっちは軍の人で、こっちは推薦をもらったとは言えただの学生なんだから!」

「でもねー、ちょっと好きじゃないなー」

「撫子ちょっと黙ってて!」

「あなたが黙りなさい!他の受験者の邪魔になるだろう…えっとどこからだったっけ…」

「もぉ、怒られちゃったじゃん!」コソコソ

「あはは、千鹿怒られたー」

(こ、このアマ!)ゴゴゴゴ

「…第一次試験の説明は以上だ、何か質問があるやつ入るか?」

「あれ、終わっちゃった…ちょっとどうしてくれんのよ撫子!」

「あはは…ごめん千鹿、わたしも聞いてなかったー」

「では質問もないようなので、これより日本軍北海道準本部第一次試験“基本戦闘”を開始する!一回戦の組み合わせは…」

 機械の音だけがピピピピとその大広間に響き渡る中に、ゴクッと響きもしない音を出して固唾を呑んで抽選結果を待つ受験者たちだった

「第一回戦、2番椎名 大牙しいなたいがvs85番麻呂部 不劉まろのべぶる!両者準備を…」

「椎名君も来てたのね、頑張って」

「あぁ…なんか知らんが、前よりも魔法を使うのがうまくなってるんだよな、だからあんなよくわからん一族の野郎なんかボコボコにしてやるよ!」

「気をつけてね、油断はしちゃダメだよ!」

「おう!行ってくる…」テクテク

「ちゃんとわかってるのかな?」

「いきなり椎名先輩か…」

「ん?なんか言ったか?幻舞」

「いえ、ただ麻呂部一族というのは聞いたことがなかったので少々気になって」

「そうか…」

(今確か、麻呂部じゃなくて椎名の名が聞こえた気がしたが…俺の聞き間違いか?)

(椎名先輩は俺の話なんか聞かなそうな人だって無理やり修行させちゃったから体にガタがきてなきゃいいんだけど)

 幻舞は千鹿たちの修行を総紀とともに行なっていた期間に同時進行であることを行っていた、それは月島学園の生徒の戦闘技術の向上である、確かに“BOS”の為というのはあったがあの時のような襲撃がいつ起こるかわからないため、そのとき少しでも落ち着いて対処できるようにすることが何よりの狙いだった その時元々の技能が高かったり、才能がありその伸び代に期待できる生徒数名に、軍の特別入隊試験を受験させられるよう別に修業していたのだ、大牙はそのうちの一人だったが、幻舞の思った通り大牙は特定の人物を除いてはまず他人ひとの言うことを聞かない性格である、そのため幻舞は得意の光属性幻覚系魔法によって有無を言わさず修行を行わせたのである

「おっ、始まるぞ」


『let’s strike on』フォーン


(椎名流固有魔法隠蔽ツェルタよr…)

「“雪甲姫アステカ”起動!<風の鎧ヘリックス>」

「ガハッ…まさか“省略詠唱”を使えるとはな、ただ無名の一族内で優れてるだけかと思ってたが考えを改める必要がありそうだ、でも俺も準備は整った…<茶筅魔法サーセン>発動!」

「ふっ、どんな魔法を発動したかしらんが俺の詠唱速度に勝てるはずがn…な、なに!?まさかお前も省略詠唱を使えたのか…」バタッ


『ピー』


「椎名君、今のはいったい…」

「それは企業秘密だから言えねぇな…じゃあ楓も頑張れよ!」

「幻舞、彼は今いったい何をしたんだ」

「多分ただの<突風エアフィスト>でしょうね」

「いや、確かにそれは見ててわかったんだが、彼は風属性魔法の詠唱はしてなかったように思えたんだが」

「えぇ、してませんでしたね」

「じゃあなぜ<突風>を発動できたんだ!?」

「それは彼に聞いたらどうですか?彼の許可なしに僕が話せることじゃないですし」

「それはそうだよな、すまん…」

「いえ、別に構いませんよ…それよりもそろそろ次が始まりそうですよ」

「あぁ、次は…」


(椎名先輩、あれ・・はまだ使わないのか、出し惜しみしてるんかな?それとも椎名一族隠蔽を受け継ぐ者さがなのか…それはさておきまさかアステカを持ってるとはな、誰の差し金だ?あの武器ヴァッフェ本来の闘い方使い方をされてたらまずかったな…何を企んでるか知らないがこの試験の裏で動いてる奴がいるな、そいつをとっとと始末しないと、ただ事じゃない何かが起こりそうな気がする)

「続いて第二回戦の組み合わせは…27番津内 柊蒔つだいしゅうじvs353番楠木 夜蛛くすのきやく!両者準備を…」

「「く、楠木!?」」

「幻舞…」

「えぇ、おそらく魅鵜瑠に関係があるでしょうね…確かにこの試験の規約に受験地の指定はないが、わざわざ愛知から北海道まで来るとは相当恨まれたもんだな」

「5年前に“上位一族”を退いたとは言え“中位一族”では間違いなく1、2を争う実力を持つ楠木一族に、たとえ“クーウィル一族”の血が流れてなくても教えを習ってるだけでまさに鬼に金棒だ、この試験では敵無しだろうな…となるとやっぱり狙いは幻舞か?」

「今の所はわかりませんが用心したほうが良さそうですね、あの夜蛛とか言う奴だけでなくここにいる受験者全員に…」

「ああ…一応この建物を囲むように結界を張ってはあるがこっちも別で何かやったほうが良さそうだな」

「勇さん結界作れるんですか?」

「もし俺が結界生成をできたら魔法闘士なんかやらずに魔工具技術師ルーンエンジニアになってただろうな…俺には擬似的な結界を作るのがやっとだよ」

 この世界において完璧な結界生成を行える者は、一つの国の中でも数えるほどしかいないと言う、それは他の星であろうと例外ではない、しかし小さな日本という国においても全て軍の施設で結界を張ることができるのはなぜか、当たり前だがそれらの施設に一人ずつ結界生成を行える人物がいるわけではない、ではなぜできるのか、それは魔工具ルーンによるものである 魔工具とは、魔力の内容に限らず発動できるように改良された魔法が組み込まれた工具で、これは“SOS”の一種である“記述変更”で使用する魔力の制限を解き、“魔法収納”によって魔工具内に入れることで出来るのだ、結界生成だけでも出来る人数は限られているというのに、それプラスこれほどの技術を扱える者など一国に一人いればいい方だろう

「それこそお前はどうなんだ?」

「僕も勇さんと同じように擬似的な結界しかできませんが、たとえできたとしてもそれでも僕は魔法闘士になったでしょうね…」

「悪かったな腰抜けで!」

「いえ、それが普通だと思います、自分から死にに行くような人なんているわけありませんよ…」

 幻舞の言葉にはどこか重みがあり、勇は安直な返答をできずに黙って聞くことしかできなかった

「なんか暗い話してすいません…って、話してる間に終わっちゃってましたね」

「そ、そうみたいだな…当たり前だが楠木の勝ちか、奴にとっちゃ幻舞とやる前の消化試合としか思ってないんだろうな」

「あ、圧倒的ね…」

「はい…」

「おぉ…」

「…さ、さあ次の組み合わせは…」

「ち、千鹿ちゃん…」

 ピピピピという機械音が止まった時、モニターに映った『6番鳳 楓おおとりかえでvs10番風早 千鹿かざはやちか』の文字に、楓はもちろんのこと皆驚き各々が楓の方を見たり千鹿の方を見たりはたまた両方を見てる者もいたが、ただ一人千鹿だけは集中を切らすことなく静かにモニターからフィールドの方に目を移していた

「会長…私は大丈夫です、準備してください」

「わかった、やろう千鹿ちゃん!」

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