全てを失った少年は失ったものを再び一から手に入れる

きい

1話 ‟裏切りの英雄”の真実


 魔法という兵器によって戦争が行われ、いつまた戦争が起きてもおかしくないような時代、戦争の最前線では常に魔法闘士「ストライカー」が闘っていた
 魔法闘士ストライカーは普段、“武器収納用硬貨ルーン・ヴァッフェ”と呼ばれる特殊なコインに武器ヴァッフェを収納し、必要な時に呼び出してそれを戦闘に用いる、いわば奇術師集団
 しかしそんな魔法闘士の中にも戦闘を嫌い、自分の意思とは裏腹に死んでいったものも少なくない
 そんな中月島 幻舞つきしまげんぶは、先祖が初代理事長だったという意味不明な理由で、危険でかつ残酷な魔法闘士の世界へ飛び込む為の登竜門であるここ魔法闘士育成第1機関「月島学園」に入学試験を受けに来ていた


 ー入学試験当日ー


(あれ、おかしいなー体育館こっちのはずなんだけどなー)テクテク キョロキョロ

「あのー、お困りでしょうか?」

(どこだろう)テクテク キョロキョロ

「聞こえてないのかな? すいません」トントン

「っ!」ビクッ

(あれっ?そんなにおどろかしちゃったかな?) 

「すいません、そんなに驚くとは思わなくて」

(ん?なんかカバンあさってる)

 すると、カバンからはノートとペンが出てきた。そして何かを書き始めた

「ん?あの、どうしたんですか?」

(これで良しっと!)

 そしてノートとペンが渡された

『僕、耳が聞こえないのでこの紙書いていただけませんか?すいません』カキカキ

「えっ、あーそれで!え?でも…あっ!」

『不快になられたら申し訳ありませんが、耳が聞こえないだけで声は出せないんですか?』カキカキ

『自分でも自分の声がわからないので気の許せる人以外にはちょっと…』

(ってことにしとくか…そもそも戦闘中は絶対普通に声出ちゃうし)

『お手数をかけてしまいますがこれでお願いします』

 うん、という無言の頷きとOKサインが返ってきた

『それでどうかしたんですか?』

『はい、体育館の場所を…


 ・


 ・


 ・


『ありがとうございました』オジギ テクテク

「ちょっと待って!」ウデツカミ

『君の名前は?』

(えっとーどうしよう)アセアセ

「ん?」

(どうしたんだろう)

『僕の名前は…幻舞です』

『えっ?名字は?』
(言いたくないいのかな?)

『…ツキシマデス』

『えっ!月島って、月島 広代つきしまこうだいと何か関係が?』

『えぇ…あ、は…僕の親父です』

『それはどうも…でもっ!』ペコリ ギロッ

だなんて、いくら息子さんでもを悪く言うのは許しませんよ!』イライラ

『そんなに思ってくれているなんて、すいません…それでも父は!』

『少し話が長くなりますのでついてきてくれますか?』    

 そして幻舞は、なぜか生徒会室に連れてこられていた

『これはお父さんから聞いた話なんだけど…


 ー十数年前ー


「我が軍は只今より大陸東軍へ向け進軍を開始する、我に続けー」

「「「おー ︎」」」


 ー進軍開始から数十分後ー


「将!すぐに戻りますので少し列を抜けてもよろしいでしょうか?」

「良いわけがなかろうすぐに持ち場に戻れ!」

「いえすいません急用ですので…すぐに戻りますから、それでは」

「おい、ふざけるな!尻尾巻いて逃げるつもりか!」イライラ

(あいつがそんなやつだとは思わないが、何を考えてるんだかさっぱりわからん)

いさむー!ちょっと抜けるわ、その間よろしく!」ニッコリ

 そう言って森の方へ一人で向かって行ったきり、闘いが終わっても広代は帰ってこなかった

…ここまでは知ってますね?』

「   」コクリ

『でもこの話には続きがあるんです!』

「ま、まさか」

 話に夢中になり、男は自分が声を出していることすら気づいていない様子だった


 ー闘い後の帰路ー


「いやー、相手はバカなのか?奇襲なしの正面衝突でこの軍おれたちに勝てるはずないのになー?」

「それにしても相手、なんか慌ててるようだったがもしかして奇襲組との連絡ミスか?」

「まーどちらにせよ相手がバカなおかげで俺たちの快勝だー!」アッハッハッ

「ま、どっかの裏切り者を除いてな!」イライラ</p>「ん?ちょっと待て、お前ら一回でも奇襲にあったか?」

「いや、一回も」

(どういうことだ?)

(俺たちが闘っているのを見れば、しかも仲間がピンチのとこをみれば合図どうこうではないはずだ!相手がただの腰抜けだったのならいいのだが、俺の予感通りだと広代がっ!)アセアセ

「お前たち、将にすぐ戻ると言っといてくれ!」

(くそっ!闘いの疲れが…もっと速く!もっと速く!なんで動かねーんだよ!)ハァハァ


 ー数分後、森の中ー


「こーだーい!」

「こーだーい!」

「いるんだろ?出てこいよ!」アセアセ

「こーdんっ!」

(ヤベー敵に)

「しっ!戦場で大声を出すな」

「広代!よかった生きてたのか」

「おいっ、だから声がでかい!」

「ほんと良かったぜ!にしてもおれたちが闘ってる間ずっと相手をしてたのか?なん人ぐらいだ?」ヒソヒソ

「ああ、今はもうだいぶやったからざっとあと2、30といったところかな」ハァハァ

「だいぶお疲れのようだな」ハァハァ

「お前もな!」

「それでこの戦場これからどうする?」

「一人頭15か…この状態だとちょっときついな」

「さっきまで一人で何十人も倒してたやつが言っても説得力ねぇな…でも、お前は10、いや、5でいいお前には索敵に集中してもらいたい…俺にはお前ほどの索敵能力がねーからな、そのせいでお前ばっかにやらせちまった…」

「その話は今は無しだ!とりあえず目の前の敵だ、俺が索敵に集中するのはいいが俺の判断でやばいと思ったら加わるぞ!」

「ああ頼む…それじゃあ行くかっ!」


 ー数分後ー


「ふー、終わった終わった。結局お前の出番はなかったな?」

「ああ、助かった」

「こちらこそ」

「じゃあそろそろ帰るか、将今頃カンカンだr、ン?っ!勇、避けろ!」

「あぁ?避けろって?」

「グサッ!」 ピタッ

(なんだ?今の音は?)

 相手の残党が放った矢は勇の前で止まった、広代の心臓を貫いて

「っておい!おい広代!」

「お…まえ…が…来な…けれガハッどちらにしろ…死ん…でた…最期に…仲間を救え…たんだ…我…ながら…いガハッ…死にざま…だ…った!お前…だ…け…でも…生…きて…帰…れ」グタッ

「くっそー!」

 それからは覚えていなく、ただ覚えているのは、血だらけになった刀と目の前で倒れている八つ裂きされた敵であろう男だけだった
 それから国に帰り、血だらけの姿に驚かれながら将に

「なぜこんなに遅い、なにがあった?」

と聞かれたが、話せる状態なわけがなく

「また、明日」

とおじぎして家へ帰った…当然家族にも驚かれたが、戦地に行けば当たり前なので追求はされなかった


 ー次の日ー


 昨夜は一睡もできず、ただただ考えていた“俺がもっとしっかりしていれば”から入り、どんどん自己嫌悪に浸って行った…でも、なぜか“広大の死”は受け入れられた、と言うよりも受け入れなければと少なからず上官上に立つ者としての使命感がそうさせた、さらにそれは鳳本家将の元へと足を運ばせた

「将、昨日のことで話を聞いてもらいたいのですがいいでしょうか?」

「ああいいが、その前にもう将はやめろ」

「分かりました、鳳 拳曹ちちうえそれではお話しします。」ハァ

 一息ついてから、勇は昨日のことを全て話した広代が死んだ後のことあのこと以外は…すると

は英雄だ!それとおまえもな、お前だけでも良く帰ってきてくれた」

と涙ながらに拳曹けんぞうは勇の頭を撫でた
 そしてすぐに、昨日の隊に真実を言おうと思ったが、もう遅かった、国中に号外で知らされてしまったのだ“月島 広代は裏切りの英雄”と…広代は、高い索敵能力と身体能力から前の対戦で勝利に大きく貢献したため“英雄”と呼ばれていたのだが、今回その高い能力からと呼ばれるようになってしまった</p>なんとも皮肉な話ですね…』

『そして話出てきた勇と言うのが私の父で、拳曹っていうのが祖父なの…だからあなたの父親は私の家族二人や多くの魔法闘士ストライカーを、たった一人で救った‟英雄”そして、あの隊やその家族わたしたちにとっての命の恩人なの!』

(そんなことが…)

『ありがとうございます、教えてくれて…そして父をそんなにまで思ってくれて』オジギ

『それで…って、鳳家ですよね?と言うことはあなたって…』

『そう、私は鳳家次期当主候補、そして月島学園このがっこうの現生徒会長の鳳 楓おおとりかえで、よろしくね』

「よろしくお願いします!それと、今までのご無礼をお許しください」オジギ

『いいよ全然、それに声出さなくてもいいよ本当の意味で出してくれたほうが嬉しいからね』ニコッ

『ところで随分話が長くなってしまって申し訳ないのだけど体育館目指していたのよね?ってことは入学試験に来てた?』

「あっ!」ポカーン

『まあでもこれは私に非があるので、生徒会長権限で特別に幻舞くん限定の入試を行えるようにしておきます…なので、さっき教えた通り体育館へ行っててください!』

「ありgあっ、

『ありがとうございます』オジギ

(親父、今まですまない…親父は戦場で思いっきり暴れまわって死んで行ったんだよな?じゃあ俺も残り少ない時間をこの学校俺なりの戦場で暴れまわって死んでやるよ)

 入試を目前に男は初めて“意志”を持った

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