中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

43.妹、誕生せし編 証拠(1)

「何がどうしてこうなった……?」

 あれから、なんやかんや探したが、結局俺が休ませてもらう部屋は見つからなかった。だから、仕方なく近くにあったメイド室に訪ねてみると。

 1人は短剣を。また、1人は鉤爪を。更には何故か聖書を。それぞれ恐らく武器であろうものを持って俺を囲んでいた。

「これは、なんの冗談ですか?」

 苦笑いをしながら、彼女らに問う。しかし、返ってくるのは睨みだけ。

 さて、これはどうしたものか……?

 とりあえず、殺気を放って全員気絶させる。俺に武器を向けた時から強さは分かっていたので、手加減はできた。

 ……あ、1人ぐらい残しておくべきだったか。まぁ、気絶だから、起きてから聞くとしよう。

 それはともかく、この人達はどうしよう?この人達が気絶している以上、多分この館は機能しないのでは?……一応、公爵に言っておこう。面倒くさいことになりかねない。

 そう思い、またしも公爵の所へ向かうのだった。




 公爵に報告後、俺は転移で真雫かリーベのところに行けば良かったことに気付き、真雫の部屋に転移した。メイドさんのことは、兎にも角にも起きてからとのこと。また、今の時間だと、ほとんどのメイドは仕事を終えているので、メイドがほとんどいなくなったところで損害はないらしい。

 とりあえず、他に先程のメイド達のようなやつがいないか確認したが、見つからなかった。いないと見ても良さそうだ。

「まぁ、それはいいんだが、俺の部屋は?」
「……?ここ」

 いや、他人の家でも、俺は真雫と寝なきゃいけないの……?外聞が悪いんだけど。

 そして、部屋にあるソファに視線を転じる。

 ソファには、リーベが可愛らしく寝息を立てていた。涎が垂れているので、拭いてやる。

「……なんでリーベもいるんだ?」
「……?ノアの妹なら、当たり前」

 いや、それは偏見だ、多分。血が繋がっていたとしても、一緒の部屋では寝ないだろう。これも偏見かもしれないが。

 公爵に他の部屋が余ってないか聞くにしても、寝てるらしいんだよなぁ。リーベも寝てるから無理だし、この流れだと公爵夫人も寝ているだろう。メイドは俺が全員意識を飛ばしちゃったし、執事もこの時間は買い出しらしいし。やっぱり自室に戻ろうかな、とも思ったが、真雫に何故か止められたし。逃げ道がないじゃん。

 風邪をひきそうなので、リーベを抱えて、ベッドへと移動させる。……ソファが空いたことだし、俺はソファで寝ようかな。【身体強化】があるし、風邪はひかないと思うから。確証はないが。

「ダメ」
「心を読むな、と言いたい」

 最近の真雫がマジで怖い。心をこうも容易く読まれたら、無理もないと思うが。

「とりあえず、ほら」

 真雫がポンポンとベッドを叩く。真雫とリーベの間の部分を。それって男がやる仕草じゃないのか?

「やめとく、とは言わせない」
「逃げ道を塞ぐな」

 これ、男なら願ったりの状況だろうけど、色々あったあとの心労を考えると、ねぇ?

「……今ならリーベ付き」
「何言ってんだよ……?」

 ったく、この娘は……。……もういいか、慣れてるし。改めて思う。慣れって怖いな。

 とりあえず、本を読真雫達が寝るのむためにを待つためにこの部屋に置かれていた本に目を通す。

 置いてあったのは勿論『二人の英雄の夢想曲トロイメライ』ではなく、「死神の鎌」という題名の、冒険譚だった。内容と題名が全く合っていない。面白いかどうかといえば、面白いが。

 簡潔に内容を説明すると、蔑まれている主人公が、ある日世界で起きたとんでもないことに巻き込まれて、幼馴染や友達を失いながらも、残った仲間と世界を救う冒険に出る、という話だ。

 日本ならありがちと言えばありがちなのだが、久しぶりにラノベみたいなものを読めて、楽しかった。まぁ、俺達は今ラノベのような体験をしているのだが。

 3時間かけて読み終わる。まさかのシリーズだったことにビックリだ。話の終わりはもう続かないだろうなって感じなのに、巻末に「次巻に続く」と書いてあったので、今度次の巻を見たら読んでみよう。『二人の英雄の夢想曲トロイメライ』はシリーズじゃないからなぁ。

「……ん、ノア、読み終わった?」
「なんちゅータイミングで起きやがんだよ……」

 そのままソファで寝ようとしていたのに、真雫がまさかのタイミングで起きてきた。折角逃げ道を確保したというのに、思わぬ落石が……。

「ん、来て」
「……はぁ。はいはい」

 もう流石に諦めて、真雫とリーベの2人の間に入る。ん?これもなんかおかしくね?気にするだけ薮蛇だろうけどさ。

「……ノア。撫でて」
「なんでだよ……?子供じゃあるまいし」
「…………」
「分かった、分かったからその目やめろ」

 真雫のガン見に耐えきれず、頭を撫でてやる。真雫は至極幸せそうな顔をした。ったく、何がしたいんだか。

 ほんの5分ほどで、真雫が眠りの世界に意識を持っていく。

 ふと、リーベの方へ顔を向ける。また涎を垂らしていたので、優しく拭いてやる。

 この娘、今日から妹になったんだよな……。なんか複雑だ。初めて会った時は、友達だったのに、今では妹とか。本当、何がどうなったんだか。

 ある意味身内だから、今後危険があったらこの娘を優先的に守ってしまうかもな。真雫と同等には守ってしまいそうだ。

 なんとなく、リーベの頬をつつく。や、柔らかい……。

「……ぅん?」
「あ、ごめん。起こしちゃった」

 うっかり起こしてしまった。あまりの頬の柔らかさに我を忘れてしまったみたいだ。

 でも、起き方も可愛いな。女の子って感じがする。真雫も、いつもこんな感じだしな。

「フフッ」
「?どうした?」
「いや、お兄ちゃん、ずっと私を見ていましたから」
「あぁ、ごめん。ボーッとしてた」
「別に謝らなくていいですよ。お兄ちゃん」

 うん、リーベのお兄ちゃん呼びは、まだ違和感が抜けないな。猛烈に違和感がある。悪い気はしないが。

「……今日は色々ありがとうございます、お兄ちゃん」
「どういたしまして。ほら、寝ろ。もう遅いから」
「ふぁい」

 欠伸をひとつして、目を閉じ、リーベらまた眠った。早っ。目を閉じて10秒もなかったんだけど。

 布団を2人にしっかりかけて、天井を見る。白い天井だ。

 さて、明日は多分、証拠探しを手伝わされるだろう。メイドの話も聞いておきたいし、もう寝るとするか。そうして、俺も意識を眠りの底に沈めた。




「おはようございます」
「あぁ、おはよう、ノアさん」

 すれ違った公爵に軽く会釈をしながら挨拶を交わす。

「あの、メイドさん達は……?」
「まだ起きてはいないよ」
「……そうですか」
「そう悲観したものでもないよ?わかったこともある」
「何が分かったのですか?」
「魔法の痕跡が見つかったんだ。精神魔法の」
「……それはつまり、メイドさん達を操っていた人がいると?」
「さぁ、そこまでは分からない。でも、もしやすると、証拠になりうる可能性がある」

 それでさらに誰がかけたか分かれば、リーベを攫ったであろうラウト公爵家を追い詰める一手になりうるだろう。調べ尽くす価値はありそうだ。

「私は、色々とすることがある。ノアさん。頼みたいことがあるのだが……」
「はい。証拠探しですね?」
「物分りが良くて助かる。頼めるか?」
「分かりました。ただ、リーベも同行させてもらいます」
「……一応理由を聞こう」
「リーベなら、あの牢獄に捕われていたわけですので、何か彼女が証拠に近づくことを思い出すかもしれません」
「分かった。なら同行を許そう」
「ありがとうございます」

 リーベには怖い思いをさせるかもしれないが、今回は我慢してもらおう。俺は意外と執念深いんだ。

 とりあえず、メイドさん達の話は戻ってから聞こう。目を覚ますまで待つ時間が勿体ないしね。念の為、極小の転移剣ウヴァーガンを彼女らの内の数人に付けておこう。逃げ出したとしても、すぐに捕まえに行けるはずだ。バレなければの話に限るが。

 昨日の部屋にいる2人のところへ向かう。2人は今頃何か指遊びをしているのだろう。

 部屋に入ると案の定指遊びをしていた。前もやっていた『指戦』だ。ハマっているのだろう。

「あ、ノア。どうするの?」
「あぁ、証拠を探しに行くことになった。急遽だけど、リーベも来てくれ」
「分かりました。お兄ちゃん」
「私は?」
「真雫も来て欲しい」
「了解」

 真雫はもとより連れていく気だったからな。真雫もそれは多分分かっていたはずだが……。考えても意味無いか。

 あの牢獄には、念の為転移剣ウヴァーガンを設置してあるので、移動されてない限り、転移できるはずだ。

「よし、行くぞ──転移ファシーベン

 視界がガラッと変わり、またあの牢獄に転移する。【感覚強化】で分かる範囲では、ここには人はいない。まだこの牢獄が機能しているのなら、今がチャンスだ。

「とりあえず、証拠を探そう。見つけ次第、報告して。リーベは何か思い出したら言って」
「了解」
「了解です。お兄ちゃん」

 こういう時は望みが薄い場所から探すのが、俺の癖である。俺の場合、これの方が探し物は見つけやすいんだよね。

 リーベをあられもない姿にした男が倒れていた場所へ向かう。男の姿はそこにはなかった。帰ったのだろう。

 牢屋の外の隅に、何かが光った。近づいてみると、何やらメダルのようなものだった。表面には、なんかの魔物のレリーフが刻まれている。何のやつだろうか?

 知ってそうなリーベに聞いてみる。

「これは……ラウト公爵家の紋章ですね」
「本当?」
「えぇ、間違いないです。魔物をレリーフに使っているのはラウト公爵家だけですから」

 そりゃそうだろうな。魔物なんて、あまり好まれないし。

 しかし、これは、本当に証拠か……?

「真雫、どう思う?」
「多分、誰かが故意的に落としたものだと思う」
「だよな。俺もそう思う」

 こんなわかりやすいミス、本当にするのだろうか。そもそも、家を確定させるものは基本持ち運ばないと思うし。

 これは保留だな。証拠の可能性がゼロではない。ベルトポーチにメダルを入れ、再び証拠を探す。

 そのまま2時間近く、俺達は証拠を探し続けた。

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