中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

35.冒険者編 真雫の戦い

「相手してもらうぞ、駄龍その一」

 そう言い放って、ノアは右の驪龍を蹴り飛ばし、後を追って行った。その場に残るのは、私と驪龍その二だけ。

 緊迫した空間が、私とヤツの間に流れる。

 刹那、ヤツが私の視界から消える。咄嗟に防御壁マウアーを発動する。

 ヤツの拳が、私の防御壁マウアーにぶつかる。ゴウッ、と衝撃波が周囲の空気を抉った。

 ノアが言っていた通り、こいつは強い……!

 ヤツが続けざまに私の防御壁マウアーを攻撃する。防御壁マウアーが徐々に悲鳴を上げてきているのが分かる。このままではジリ貧だ。

 タイミングを見計らい、防御壁マウアー衝波ショックウェルを使う。ヤツは大きく吹き飛ばされた。

 ……やった?

 そんな私の心情をいざ知らず、ヤツは立ち上がり、また殴りかかってきた。

 ガキンガキン!と防御壁マウアーと拳の交じり合う音が響く。心做しか、ヤツの体が大きくなっている気がする。

 防御壁マウアーに亀裂が入った。そんな、今まで1度も亀裂なんて入ったことがないのに……!?

 私の内心の驚きを知ってか知らずか、ヤツの頬がつり上がった。

 音を立てて、防御壁マウアーが崩れていく。ヤツの腕が私に向かってくる。

 思い切り飛び退いて緊急離脱!私のいた場所には、旋風が巻き起こった。

 攻撃系の魔法が少ない私には、この敵を倒すのは困難かもしれない。でも、やらないと。私はもう、ノアの重りになりたくない。足でまといになりたくない!!

 初めて使う【並行思考】で、足場を確認しながら、ヤツの攻撃を避ける。私の基礎能力では、ギリギリ避けられるみたい。

 段々と、ヤツの攻撃速度が上がっていく。体が徐々に大きくなっているのは、もう間違いではない。多分、大きくなる事に、ヤツの能力は向上している。

 防御壁マウアーを張ったが、およそ10発で壊された。格段に強くなっている……!

 いつもより魔力を込めた防御壁マウアーで防ぐ。先程より硬くなった私の障壁に、ヤツは一瞬たじろいだ。よしっ、今だ──!

 ヤツの周囲に防御壁マウアーを張る。魔力をおよそ4分の1込めた特別製の。尋常ではない硬さの防御壁マウアーを、ヤツは自慢の腕力で壊そうとする。

 が、そう簡単にはさせない!!

「”圧縮コンプリミロン”!」

 防御壁マウアーが徐々に小さくなっていく。

 これが最近私の手に入れた新しい防御壁マウアーの技術。そのまま、防御壁マウアーを小さくするだけだ。

 前までの防御壁マウアーは、形を変えると強度が弱くなる。故にあまり戦闘向きではない。でも、今は強度を変えずに防御壁マウアーの大きさを変えられる。大きくすることも可能だ。限度はあるけど。

 このまま、ヤツを小さくして、勝つ……!

 ググッ、と力を入れ、防御壁マウアーを小さくするのに専念する。ヤツも尋常ではない強さで抵抗してきた。

 強い。負けてしまいそうだ。でも、負けるわけにはいかない。

 両者の力が交差する。このせめぎ合いを制したのは、私だった。

 力尽きたのか、急に障壁に対する力が弱くなった。チャンスとみて更に力を入れる。あっという間に、ヤツは防御壁マウアーに潰された。障壁の中に、血溜まりができる。

 私は目を逸らした。少しずつ殺すのに慣れてきた私に、嫌気が差してくる。でも、絶対に否定はしない。何故なら、殺しを完全否定してしまったら、ノアまで否定してしまうことになる気がするから。

 ノアが殺しを好まないのは知っている。でも、それでも怖くて、否定出来ない。

 先程のせめぎ合いが激しすぎて、私は力が抜けたのか、後ろにパタ、と倒れた。

 転移する時の音が聞こえる。顔だけ向けると、そこにはノアがいた。

「……何がどうなっているんだ?」

 良かった、ノアも無事だった。いや、無事とは言い難い。服が破けていて、見える肌から血が流れている。

「ノア!」
「おっと」

 飛び込んできた私を、ノアは優しく受け止めてくれた。彼の胸の中は、暖かかった。




 飛び込んできた真雫を受け止めて、状況を把握する。

 真雫は見た感じ無傷だ。対して、向こうに転がっている龍は、かのように傷だらけだ。

 まさか、これ全部真雫がやったのか……?

 俺でさえ、傷を負わずにはいられなかったのに、真雫は無傷で……。真雫が俺より強いことが判明した。

 地形が全く変わっていないということは、それほど大掛かりなことをやっていないのかもしれない。

「ノア、血が!」
「大丈夫大丈夫。ただのかすり傷だから」

 涙目で真雫が俺の心配をする。割とズキズキして痛いが、本当にかすり傷だ。行動に何ら障害はない。

「早くしないと、出血多量で──」
「だからかすり傷だ」
「うにゃ!?」

 テンパる真雫にチョップをして、落ち着かせる。心配してくれるのも嬉しいのだが、ほどほどにな?

「これ全部真雫がやったのか?」
「……うん」

 やはり、まだ完璧には殺しには慣れていないか。慣れさせたくもないが、邪神を封印しなければならない以上、しょうがない。

「さて、もう行くぞ?」
「……もう少し」
「?」
「まだ少し、このままで」

 なんじゃそりゃ。かすり傷だけど、俺血ィ流してますよ?先程言った言葉と正反対のことを頭に浮かべながら、暫し真雫がいいと言うまで待つことにした。

 数分後。

 真雫はスゥスゥ、と寝息を立てていた。寝るのかよ。この状況で寝るのかよ……。

 少し揺さぶったが、起きなかったので、背負って帰ることにした。帰ると言っても、転移だけどね。

 ギルドへの報告は、真雫が目覚めてからでいいか。

 そんなことを思いながら自室へ転移する。変わらずの風景が目に飛び込んだ。

 真雫をベッドに置いて、救急箱があるであろう場所に、救急箱を探しに行く。

 えっと、確かここらへんに……あったあった。木製の、蓋に十字架の飾ってある箱を取り出す。中には、確か回数制限がある回復魔法の術式が描かれた魔法道具があるはずだ。

 使い方は……体内に入れる服用性か。更に中に入っていた紙箱の中にある錠剤のようなものを取り出す。

 口の中に放り込むと、瞬く間に傷が癒えていった。およそ1分も経たずに傷が消える。魔法ってやっぱすげぇな。

 疲労回復効果はないようで、倦怠感は普通に残ったままだった。

 服もどうにかしないといけないな。ビリビリに敗れたやつを、いつまでも着るわけにはいくまい。新しいの買おう。

 とりあえず、埋め合わせにクローゼットに入っていた運動用の服に着替える。

 寝室に戻ると、真雫はまだスヤスヤと眠っていた。後3時間は眠っているな、この娘。

 真雫の顔にかかる髪を整えてあげる。ついでに軽く撫でておいた。真雫は、少しだけ擽ったそうような素振りを見せた。

 ふと、視界の端にベルトポーチとトートバッグが目に入る。そう言えば、今回出番が全くなかったな。昼はとっくに過ぎている。昼ご飯も食べていなかった。

 一瞬、先に食べようか、と思ったが、お腹が特に空いているわけでもないし、真雫が起きるのを待つことにした。

 それでも、少し暇だな。ギルドに報告する時の、適当な言い訳でも考えておこう。でないと、変に目立つかもしれない。

 そうして、俺はソファに座りながら、言い訳を考えるのに没頭した。




 ふと、目を開けると、部屋の光が目に差し込んできた。突然の明るさに目を細める。どうやら、寝入っていたようだ。

 そして、物理的に体が重い。嫌な予感が、脳を過る。

 予想通り、真雫がいた。物凄くほっとしたような顔で、俺の上で蹲っている。その姿はさながら猫のようだ。

 はぁ、と一息ついて、チョップ。

「うにゃ!?」

 猫のように飛び上がり、転げ落ちかける。ギリギリでそれを阻止した。

 そして、ニコッと爽やかな笑顔で、

「何している?」

 と問う。すると真雫は、

「……別に」

 と素っ気なく返した。なんだよ別にって。意味不明すぎてもう1回チョップしたくなってきたわ。

 結局何聞いても分からなそうだったので、諦めた。

 立ち上がり、外を見ると、日はすでに暮れていた。静かな街に、少しばかり見蕩れてしまう。やはりこの街は綺麗だ。

 時間は8時前。まだ大丈夫だな。ギルドに行こう。

「真雫、ギルドに報告に行くぞ」
「今から?」
「あぁ、さっさと終わらせる」

 早く終わらせた方が、クラーさんも安心すると思うしね。

 真雫と手を繋いで、転移する。行き先は言わずもがな、ギルドだ。

 静かなギルドに足を踏み入れる。クラーさんは、設置されているソファで真剣な面持ちで待っていた。

 俺達の足音が響くと同時に、彼女がクワッと俺達をその綺麗な瞳を鋭すぎる眼光で射抜いた。こ、怖ぇ。

 彼女は俺達が来たと分かった瞬間、勢いよくその場に立った。

「どうでしたか!?」

 俺は何を言わず、無言でサムズアップした。聞き耳を立てていた受付嬢達も、歓喜と驚きの表情を見せている。

「お二人のみで龍の討伐とは、流石転移者様です!歴史に残る偉業ですね!」

 その言葉に俺はかたまった。やはり、それほどまでに目立つことだったか……。

「パレードを開きましょう!国王陛下に頼んでみます!」
「へ?ちょ、ちょっとそれは……っておーい」

 俺が呼び止める前に、彼女は風のように去っていった。

 後に残ったのは、唖然として固まる俺達と、興奮気味にキャッキャウフフしている受付嬢だった。

 これは、まずいことになったかもしれない。というか、言い訳言うの忘れていた。

 そして、翌日。

 報酬の金庫に有り金を全て入れた。よし、これで見映えはいいだろう。前野はなんか変な感じがしていたからなぁ。

 そんな呑気なことを脳内の片隅で考えながらも、脳の大部分はとあることだった。そう、パレードのことである。

 あの後、オンケル国王陛下と連絡を取ったクラーさんは、まさかの国を挙げてのパレードを開きたいと申し出て、更にまさかの国王陛下がそれを了承したのだ。金も人員も全て国が負担するらしい。なんでそんなサービス精神旺盛なんだよ……。まぁ、目立ちたくない、というのは誰にも言っていないからしょうがない。

 実を言うと、クラーさんからパレードは開催しなくても良い、と後から言われたのだが、あのキッラキラした目を見てしまっては、断れるはずもなかった。

「ノア、どう?」
「なんでお前はやる気なんだ?」

 ひょこっと顔を出す真雫。彼女はドレスに身を包んでいた。可愛らしい、中世にありそうなドレスだ。以前は恥ずかしがっていたドレス姿も、今では慣れたらしい。順応性が高い。

「似合ってるよ」
「ありがと」

 眩しいくらいに綻んだ笑顔を見せた。可愛いな、相変わらず。

 かく言う俺も、礼服姿である。以前の舞踏会で着たものと同じだ。

「ノアも似合ってる」
「ありがとよ」

 真雫の感想に少し適当に答えて、時計を見る。あと少しで10時だ。集合時間は10時なので、少し急ごう。昨日のうちに設置した転移剣ウヴァーガンに転移する。

 そこには、既にスタッフや色々な方々が揃っていた。国王陛下や公爵が勢揃い。改めて、事の重大さを思い知る。やっちまったな……。

 スタンバイしてください、とどこかで見たような感じのチャラめの男の人に連れられ、馬車のところに来る。

 馬車は気品漂う高そうな馬車だった。きちんと魔法クーラーも付いているみたいだ。真雫の酔いは心配なさそうだな。

 はぁ、緊張するなぁ。パレードなんてしたことないし。ていうか、したことあるやついるのか?俺と同じ高校生で。そうそういないだろ?真雫も例外ではなく、頬を染めている。

 しかし、本当に昨日の今日でパレード開始だよ。この国どうなってんの?色々発展しているし、たしかに財政豊かな国とは思っていたけど、即日パレードができるとは。

 馬車がスタッフの指示で動き出す。

 パレードが、始まる……。

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