中二病たちの異世界英雄譚
3.魔法
「いやはや、恐れ入った。今周期の転移者は別格だね」
ほとほと感心したようにする国王陛下。隣ではサイスさんが神に祈るポーズをしている。関わったら面倒臭そうなので、無視することにしよう。
「あの、何か凄いんですか?」
「常時発動魔法は普通1人につきひとつと呼ばれる魔法なのだけどね。でも、君たちは複数持っている。非常に稀なんだ。今までの転移者も、多くて2つだったんだ」
それはすごい……のか?もっといても良さそうだけど。
「それはそうと、試したくないかい?」
「魔法を、ですか?」
「あぁ、近くに訓練場がある。今は使われていないはずだから、付いて来てくれ」
真雫も特に異論はないようで、俺より先に行ってしまった。少し遅れて俺もついていく。ついでにサイズさんはまだ何か感慨に耽っていた。ほっといておくか。
「よし、ここだ」
少しして着いたのは、コロッセオを彷彿とさせるような場所だった。本当に闘技会でも行われるのか、観客席もある。
「あったあった、これだ」
俺たちが訓練場の中を見惚れている間、いつの間にかいなくなった国王陛下が、奥から大きい灰色の木造りの人形を持ってきた。人間の等身大のデッサン人形のようなものだ。これから何をするかは大体想像つく。
「これで試してくれ。アイズンボーンというこの世界で1番硬い木から作られた特注品だから、遠慮なく攻撃していいから」
そう言って、約10m先にデッサン人形が置かれる。魔力を通すと動く、という訳でもなさそうだ。
「ノア、こうして」
真雫が謎のポーズをとって俺に指示する。中二病らしすぎるポーズだ。そして真雫のやりたいことが分かってしまう俺も俺だ。
「はいはい、分かったよ。分かったから服を引っ張るな」
真雫に引っ張られて、デッサン人形の正面に立つ。そしてデッサン人形に左側面を見せて真雫と背中合わせ。阿吽の呼吸で詠唱を始める。
「「”我が身に眠りし真実の魔眼/虚構の魔眼よ」」
そして、またも阿吽の呼吸で俺は左手を左に、真雫は右手を右に出し、お互いの手を重ね、繋ぐ。
「「ここにその力を示し……」」
俺たちはデッサン人形の方を同時に向いて……。
「「我が力の糧となれ!”」」
直後、俺らの足元に七芒星の書かれた黄色の魔法陣が浮き出てきた。突然のことに俺は肩をビクッとさせてしまったが、真雫は動じた様子がない。さすがは、現在進行形中二病。
3秒程で魔法陣が消えた。でも、左目に少し違和感があるだけで、何も変化していない。
「えっと?何も起きないんですが?」
「自分たちの顔をよく見てごらん」
すると、国王陛下はどこから出したのか、手に手鏡を持って、俺たちに見せた。覗き込めば、左目の瞳が青に変わった俺、右目の瞳が赤に変わった真雫が映った。
「おお!魔眼だ!カッコイイ!!」
真雫がかつてないほどの興奮を見せる。そして手鏡を持って、毎秒右目にピースを当てたり、右目を手で覆ったりと、中二病ポーズを取っていた。よくそんなに思いつくな。
「”防御壁、展・開!!”」
何故ドイツ語なんだ。普通に防御壁でいいだろう。脳内でツッコミを入れたのと同時に、半透明の壁が出てきた。これが防御壁か。さっきの魔法陣は驚いたのに、防御壁には驚かない自分にびっくり。
「ノア、これに攻撃して!」
「え?ああ、ちょっと待ってくれ」
俺も試さなければ。詠唱でもした方がいいのか?そっちの方がカッコイイし。ドイツ語でいいよね。さっきの真雫へのツッコミを棚に上げて、詠唱を開始する。
「”武器・召喚:不壊剣”」
さっきの黄色の魔法陣とは打って変わって、今度は青い魔法陣が手元に現れる。その魔法陣が急に動いたと思ったら、剣の形を形作り、徐々に本格的な剣へと変わっていった。出来たのは、漆黒の長剣。魔法陣が剣になるまで、0.5秒も経っていないのにも関わらずここまで鮮明に分かるのは、きっと【身体強化】のお陰だろう。
ちなみにこの剣は、かの有名な英雄、ローランが使いし名剣、デュランダルを想像して作った。想像し、呪文を詠唱するだけで作れるとは、便利な魔法だな。
試しに真雫の作った防御壁を切ってみる。予想通り、剣が弾かれた。双方傷ついていない。
「ノアー、もっとこう、バーンッ、て武器、ない?」
「うーん、じゃあ”武器・召喚:自動剣”」
空中に現れた青い魔法陣が形を変え、浮遊した剣になる。こういう非常識すぎるものも作れるのか。ついでに加速魔法陣も使ってみよう。
「”加速魔法陣、展開”」
   次は先程とは違い、白い魔法陣が二重に重なって現れた。テンプレだとこの魔法陣の中を通すと加速を実現できるはずだが……物は試しだ。
まず、自動剣を動かす。使い方は、創造した時になんとなく分かっていたので、難なく動かせた。少し助走をつけるため、魔法陣の後方約5mに待機させる。
「行くぞー、念の為避けといてー」
「了解」
ザッザッ、と音を立てて当たらないであろう場所に移動する。真雫、変なポーズ付けなくていいから、早くどきなさい。
漸く真雫が移動し終えたので、1度緩んだ気を引き締める。
集中し、自動剣を最高速度で加速魔法陣の中を通す。通り抜けた瞬間、目で追うのすら難しい爆発的な加速を生んだ。防御壁に大きな音を立ててぶつかる。凄まじいスピードのお陰で砂埃が舞って、よく見えない。剣を回収しに、防御壁の近くまで行く。が、行っても行っても壁が見つからない。さっきの衝撃で破壊されたのだろうか?
不意にカラン、と足に金属片が当たる。よく見れば、それは自動剣の刃先だ。さっきの衝撃で、防御壁と同時に粉々になったか。魔法で作った剣も、万能ではないみたいだ。
「流石は転移者だね。なら次は、あの人形で試してほしいかな」
すっかり忘れていた。折角用意したのに使わないのは勿体無い……と言いたいところだが、特注品みたいだし、高いだろうからあまり壊したくない。壊せるかどうかは別として。
「ノア、共鳴、しよ?」
隣の真雫が、上目遣いで俺に懇願するように言う。魔眼共鳴のことか?確かに気になるけど、プレートの説明が少なすぎて、イマイチ容量を得ない。どうやるのかは、おおよそ分かる
んだけどね。
「しょうがないな。よし、やるぞ!」
「うん!」
俺は右手を右に、真雫は左手を左に突き出し、互いの手を掴む。
「「魔眼共鳴!」」
またあの黄色い魔法陣が足元に出現する。先程はそのまま消えたが、今回は違った。魔法陣が俺らを包むように上昇する。3秒程で俺らを通り抜けると、空に溶け込むように消えた。最初とは違い、今度は確実に身体の変化を感じた。身体の中の何かが……増えた?
「おぉ!魔力が共鳴した!」
真雫は中二病的直感で、魔力が共鳴したと感じたらしい。共鳴って、そういうことかよ。ちなみに、手を離しても、共鳴状態は続くようだ。ずっと続けなくても良くて何より。いくら幼馴染でも手を繋ぎ続けるのは、恥ずい。
試しに、また自動剣を創造。先程より抵抗みたいなものが減った感覚があった。これも共鳴の効果か?
国王陛下が少し五月蝿いので、デッサン人形に自動剣で攻撃する。あっさり切れた。脆すぎだろ。
「真雫、もう一度防御壁を出してくれ」
「了解。防御壁、展・開!」
あのデッサン人形では少し物足りなかったので、真雫に再度防御壁を出すようお願いする。先程よりも、より大きい防御壁が出現した。加速魔法陣を出し、さっきと同じ要領で、防御壁を攻撃する。
前とは比較にならないぐらいの砂埃を撒き散らして、防御壁と自動剣が衝突する。轟音が耳をつんざいた。少し痛い。
今度は自動剣と防御壁は無傷だった。共鳴には強化効果があるみたいだ。
「うぅ……」
あまりの爆音に、真雫が耳を塞いでしゃがみこんでいた。次にやるときは、自重しよう。
「いやはや、すごいすごい。本当に歴代最強だね」
国王陛下も、耳を少し痛そうにしながら歩み寄ってきた。
「ところで、君たち。自分の魔力量を知りたくないかい?」
何故か、国王陛下が不敵な笑みを浮かべた。
「分かるんですか?」
「あぁ、少々ここから遠い場所にあるけどね」
ここから少し遠いのか。めんどくさいことはあまり好きではないのだが、今後のために自分のことは知っていた方がいいだろう。
歩み出した国王陛下に、俺たちは急ぐようについて行った。
ほとほと感心したようにする国王陛下。隣ではサイスさんが神に祈るポーズをしている。関わったら面倒臭そうなので、無視することにしよう。
「あの、何か凄いんですか?」
「常時発動魔法は普通1人につきひとつと呼ばれる魔法なのだけどね。でも、君たちは複数持っている。非常に稀なんだ。今までの転移者も、多くて2つだったんだ」
それはすごい……のか?もっといても良さそうだけど。
「それはそうと、試したくないかい?」
「魔法を、ですか?」
「あぁ、近くに訓練場がある。今は使われていないはずだから、付いて来てくれ」
真雫も特に異論はないようで、俺より先に行ってしまった。少し遅れて俺もついていく。ついでにサイズさんはまだ何か感慨に耽っていた。ほっといておくか。
「よし、ここだ」
少しして着いたのは、コロッセオを彷彿とさせるような場所だった。本当に闘技会でも行われるのか、観客席もある。
「あったあった、これだ」
俺たちが訓練場の中を見惚れている間、いつの間にかいなくなった国王陛下が、奥から大きい灰色の木造りの人形を持ってきた。人間の等身大のデッサン人形のようなものだ。これから何をするかは大体想像つく。
「これで試してくれ。アイズンボーンというこの世界で1番硬い木から作られた特注品だから、遠慮なく攻撃していいから」
そう言って、約10m先にデッサン人形が置かれる。魔力を通すと動く、という訳でもなさそうだ。
「ノア、こうして」
真雫が謎のポーズをとって俺に指示する。中二病らしすぎるポーズだ。そして真雫のやりたいことが分かってしまう俺も俺だ。
「はいはい、分かったよ。分かったから服を引っ張るな」
真雫に引っ張られて、デッサン人形の正面に立つ。そしてデッサン人形に左側面を見せて真雫と背中合わせ。阿吽の呼吸で詠唱を始める。
「「”我が身に眠りし真実の魔眼/虚構の魔眼よ」」
そして、またも阿吽の呼吸で俺は左手を左に、真雫は右手を右に出し、お互いの手を重ね、繋ぐ。
「「ここにその力を示し……」」
俺たちはデッサン人形の方を同時に向いて……。
「「我が力の糧となれ!”」」
直後、俺らの足元に七芒星の書かれた黄色の魔法陣が浮き出てきた。突然のことに俺は肩をビクッとさせてしまったが、真雫は動じた様子がない。さすがは、現在進行形中二病。
3秒程で魔法陣が消えた。でも、左目に少し違和感があるだけで、何も変化していない。
「えっと?何も起きないんですが?」
「自分たちの顔をよく見てごらん」
すると、国王陛下はどこから出したのか、手に手鏡を持って、俺たちに見せた。覗き込めば、左目の瞳が青に変わった俺、右目の瞳が赤に変わった真雫が映った。
「おお!魔眼だ!カッコイイ!!」
真雫がかつてないほどの興奮を見せる。そして手鏡を持って、毎秒右目にピースを当てたり、右目を手で覆ったりと、中二病ポーズを取っていた。よくそんなに思いつくな。
「”防御壁、展・開!!”」
何故ドイツ語なんだ。普通に防御壁でいいだろう。脳内でツッコミを入れたのと同時に、半透明の壁が出てきた。これが防御壁か。さっきの魔法陣は驚いたのに、防御壁には驚かない自分にびっくり。
「ノア、これに攻撃して!」
「え?ああ、ちょっと待ってくれ」
俺も試さなければ。詠唱でもした方がいいのか?そっちの方がカッコイイし。ドイツ語でいいよね。さっきの真雫へのツッコミを棚に上げて、詠唱を開始する。
「”武器・召喚:不壊剣”」
さっきの黄色の魔法陣とは打って変わって、今度は青い魔法陣が手元に現れる。その魔法陣が急に動いたと思ったら、剣の形を形作り、徐々に本格的な剣へと変わっていった。出来たのは、漆黒の長剣。魔法陣が剣になるまで、0.5秒も経っていないのにも関わらずここまで鮮明に分かるのは、きっと【身体強化】のお陰だろう。
ちなみにこの剣は、かの有名な英雄、ローランが使いし名剣、デュランダルを想像して作った。想像し、呪文を詠唱するだけで作れるとは、便利な魔法だな。
試しに真雫の作った防御壁を切ってみる。予想通り、剣が弾かれた。双方傷ついていない。
「ノアー、もっとこう、バーンッ、て武器、ない?」
「うーん、じゃあ”武器・召喚:自動剣”」
空中に現れた青い魔法陣が形を変え、浮遊した剣になる。こういう非常識すぎるものも作れるのか。ついでに加速魔法陣も使ってみよう。
「”加速魔法陣、展開”」
   次は先程とは違い、白い魔法陣が二重に重なって現れた。テンプレだとこの魔法陣の中を通すと加速を実現できるはずだが……物は試しだ。
まず、自動剣を動かす。使い方は、創造した時になんとなく分かっていたので、難なく動かせた。少し助走をつけるため、魔法陣の後方約5mに待機させる。
「行くぞー、念の為避けといてー」
「了解」
ザッザッ、と音を立てて当たらないであろう場所に移動する。真雫、変なポーズ付けなくていいから、早くどきなさい。
漸く真雫が移動し終えたので、1度緩んだ気を引き締める。
集中し、自動剣を最高速度で加速魔法陣の中を通す。通り抜けた瞬間、目で追うのすら難しい爆発的な加速を生んだ。防御壁に大きな音を立ててぶつかる。凄まじいスピードのお陰で砂埃が舞って、よく見えない。剣を回収しに、防御壁の近くまで行く。が、行っても行っても壁が見つからない。さっきの衝撃で破壊されたのだろうか?
不意にカラン、と足に金属片が当たる。よく見れば、それは自動剣の刃先だ。さっきの衝撃で、防御壁と同時に粉々になったか。魔法で作った剣も、万能ではないみたいだ。
「流石は転移者だね。なら次は、あの人形で試してほしいかな」
すっかり忘れていた。折角用意したのに使わないのは勿体無い……と言いたいところだが、特注品みたいだし、高いだろうからあまり壊したくない。壊せるかどうかは別として。
「ノア、共鳴、しよ?」
隣の真雫が、上目遣いで俺に懇願するように言う。魔眼共鳴のことか?確かに気になるけど、プレートの説明が少なすぎて、イマイチ容量を得ない。どうやるのかは、おおよそ分かる
んだけどね。
「しょうがないな。よし、やるぞ!」
「うん!」
俺は右手を右に、真雫は左手を左に突き出し、互いの手を掴む。
「「魔眼共鳴!」」
またあの黄色い魔法陣が足元に出現する。先程はそのまま消えたが、今回は違った。魔法陣が俺らを包むように上昇する。3秒程で俺らを通り抜けると、空に溶け込むように消えた。最初とは違い、今度は確実に身体の変化を感じた。身体の中の何かが……増えた?
「おぉ!魔力が共鳴した!」
真雫は中二病的直感で、魔力が共鳴したと感じたらしい。共鳴って、そういうことかよ。ちなみに、手を離しても、共鳴状態は続くようだ。ずっと続けなくても良くて何より。いくら幼馴染でも手を繋ぎ続けるのは、恥ずい。
試しに、また自動剣を創造。先程より抵抗みたいなものが減った感覚があった。これも共鳴の効果か?
国王陛下が少し五月蝿いので、デッサン人形に自動剣で攻撃する。あっさり切れた。脆すぎだろ。
「真雫、もう一度防御壁を出してくれ」
「了解。防御壁、展・開!」
あのデッサン人形では少し物足りなかったので、真雫に再度防御壁を出すようお願いする。先程よりも、より大きい防御壁が出現した。加速魔法陣を出し、さっきと同じ要領で、防御壁を攻撃する。
前とは比較にならないぐらいの砂埃を撒き散らして、防御壁と自動剣が衝突する。轟音が耳をつんざいた。少し痛い。
今度は自動剣と防御壁は無傷だった。共鳴には強化効果があるみたいだ。
「うぅ……」
あまりの爆音に、真雫が耳を塞いでしゃがみこんでいた。次にやるときは、自重しよう。
「いやはや、すごいすごい。本当に歴代最強だね」
国王陛下も、耳を少し痛そうにしながら歩み寄ってきた。
「ところで、君たち。自分の魔力量を知りたくないかい?」
何故か、国王陛下が不敵な笑みを浮かべた。
「分かるんですか?」
「あぁ、少々ここから遠い場所にあるけどね」
ここから少し遠いのか。めんどくさいことはあまり好きではないのだが、今後のために自分のことは知っていた方がいいだろう。
歩み出した国王陛下に、俺たちは急ぐようについて行った。
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