Lv.1の英雄

さささくら

第7話 少年、王都へ

「それは本当かッ!!」
「うむ、間違いなく水晶クリスタルには【英雄】の仕事ジョブを得ているライの姿があった」

いち早くロン婆の言葉の意味を理解し、最初に反応したのは王国騎士だった。片方の騎士は興奮しているのか、食い入る様にロン婆へと事実を確認した。
その王国騎士は納得した様に頷くと、隣にいたもう一人の騎士にこう言った。

「ジェラート、騎士団長へ早急に報告を頼む。恐らくこの少年は我が騎士団の救世主になると伝えてくれ」
「了解しました!」

ジェラートと呼ばれた騎士は敬礼をすると、広場から小走りで出て行った。


ライは焦った。
【歩兵】という最弱仕事ジョブせいで悲しい目を向けられ、無意識に、【英雄】の仕事ジョブを得たと強がってしまったからだ。それがLv.1であるにもかかわらず。
最初は『あ、やべ、⋯⋯まいっか』くらいに思っていたのだが、今の状況を察するに、ライは王都へと連れて行かれるのだろう。
ライは額に汗を浮かべて王国騎士の元へ駆け寄る。

「あのー、騎士さん騎士さ⋯⋯」
「いや、君の様な才能の持ち主がいるとは、本当に驚きだ、我が軍の主戦力となり多くの人と国を救ってくれると信じているよ」
「そうではなくてですね、実は僕のジョ⋯⋯」
「それにしても【英雄】か⋯⋯聞いたことのない仕事ジョブだが、我らタニア王国の救世主になるのは間違いないな。明日には出発して、3日後には王都だ。私の出世は決まったも同然。本当に君には感謝するよ」
「すいません、聴いてま⋯⋯」
「出世祝いに久しぶりの家族旅行でも行こう。質のいい馬車を借りて、ナタリア海の方まで行きたいな。いや、流石にナタリア海は遠いから近くのミリミ湖にして別荘を借りるのもなかなか乙なか⋯⋯」
「あの、仕事ジョブがLv.1なんです!!」

耐えきれなくなったライは騎士の話を遮り、耳元で叫んだ。騎士はもちろん周りにも聞こえてたらしく、村の広場には静寂が訪れた。
ライの叫び声が寂しく木霊する。

「えっとー、少年、今なんと?」
「や、あの、申し上げにくいんですが⋯⋯仕事ジョブのレベルが[1]なんです」
「⋯⋯我ら王国騎士が心待ちにしてたであろう君の仕事ジョブである【英雄】のレベルが、[1]と」
「⋯⋯その貴方達が心待ちにしてたであろう僕の仕事ジョブである【英雄】のレベルが、[1]です」

再び静寂が訪れた。もはやこの空気を破れるものなどここには存在しない。

「小隊長、騎士団長への連絡終わりました」

いや、いた。
全くこちらへ意識を向けていなかったもう一人の騎士である。

「ジェラートぉ!今すぐその連絡を訂正しろおぉ!」
「あ、すいません、既に『それは楽しみだ。早速、明日王都へと出発してくれ。君たちの帰還を心より待っている』との返信ありです」

小隊長の必死の抵抗も実を結ばず、ガックリとうなだれてその場にしゃがみ込んでしまった。

「ほんと、すません⋯⋯」

大戦犯ライ
村にはその後、こんな仕事ジョブが生まれたとか生まれなかったとか。



翌日。
空は雲ひとつなく、遠くまで澄み渡っていた。池の水面は朝日が反射して、キラキラと輝いている。絶好の旅日和である。ライ達の気分も爽快だ⋯⋯ただ、一人を除いてはだが。

「はぁ⋯⋯死にたい」
「本当にごめんなさい、子供の出来心ってやつです。ごめんなさい」
「小隊長もいつまでもクヨクヨしてないで早く出発しましょうよ、帰還が遅れたらそれこそ首飛びますよ?」

部下のジェラートに最もなことを言われた小隊長ダニエルは渋々といった様子で立ち上がった。
昨夜は酒にその身を委ねたダニエルが荒れに荒れてジェラートもダニエルへ向ける視線が尊敬の眼差しから軽蔑の眼差しへと変わってしまっていた。

「よし、行くか。ジェラート、最終確認を頼む。少年は家族との挨拶を済ませてこい⋯⋯まぁ、すぐに帰ってくることになるとは思うが」

そう言われ、ライは家族の元へと向かった。
家の近くまで来ると、バローダとレイナ、そしてリアナが待っていた。

「お、やっと出発か。せっかくの王都だ、いろんなもの見てこいよ」
「そうね、間違い⋯⋯とはいえ騎士団長直々に呼ばれるのだし、母さんも自慢に思うわ」

バローダとレイナは元々ライの心配をしてないのか、挨拶も端的だ。

「⋯⋯お兄ちゃん、帰って来るよね?」
「ああ、もちろん、すぐに帰って来るさ」
「⋯⋯本当に?絶対早く帰ってきてよ」
「おう、任せとけ」

普段は強気なリアナもライとのしばしの別れは悲しいようだ。ライは優しくリアナの頭を撫で

「行ってきます」

そう言って王国騎士の元へと戻り、村を出た。



村を出て2日が経った。
今の所、特に何事も起こらず、順調に王都へと向かっていた。
ダニエルの精神も安定し、村に来た頃に戻っていた。

「そういえば、俺の友達はなんで連れてこなかったんだ?」
「⋯⋯君が少々特殊すぎて、すっかり忘れていたよ、【傭兵】Lv.27を忘れるなんてそれこそ騎士団長になんて言われるか」

ダニエルがまたもや負の連鎖に落ちそうになったので慌ててライとジェラートがなだめた。
部下と子供が隊長の面倒を見る、なんとも不思議な構図である。


しばらく歩くと、突然ダニエルが足を止めた。ジェスチャーで草むらに隠れろとライとジェラートに伝える。
ライはすぐに草むらへと身を隠し、元いた場所へ視線を向けた。するとそこにはFランクの魔物であるゴブリンの姿が数匹見えた。

「六匹か、私一人で充分だな、ライ、ジェラート、そのまま隠れていろ」

ダニエルが視線をゴブリンに固定したまま支持を出し、ライとジェラートは静かに頷いた。それを視界の端で確認したダニエルは腰の剣へと手をかけた。

ーーー刹那、三匹のゴブリンの胴が真っ二つに分かれた。

「早いッ、全く見えなかった」
「そりゃあの人のは実力だけで言えば中隊長クラスだ。小隊長に止まってるのは⋯⋯多分あの酒癖の悪さだ」
「なるほど、そんなに強いんですか。ちなみにジェラートさんはダニエル隊長の動き見えるんですか?」
「俺は【伝達人でんたつにん】が仕事ジョブだから全く見えないよ。元々前線で後方との連絡手段として起用されてるからね。でも戦闘職で、ある程度のレベルになると見えて来るらしいよ」

そんな話をしている間に、ダニエルは六匹のゴブリンをなんの苦労もなく倒した。
魔物を狩ったときは、魔石を取り出して、いらない部分は燃やすが常識らしいので、ライもそれに従いゴブリンの解体をダニエルに教わりながら行った。
ゴブリンの魔石は額にはめ込まれるようについていて、魔石を探すのに苦労する、という心配はしなくても良さそうだった。

ゴブリンとの一戦を終え、一同はタニア王国へと再度、進行を開始した。



ーーーそして村を出てから3日後の昼過ぎ、ライは遂にタニア王国の王都に到着した。

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コメント

  • 水野真紀

    読みやすいっす文章の構造の仕方とか
    自分も真似できるような作品作りたいっす
    読んでくれるとあざすー?

    0
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