聖女な妹を狙うやつは、魔王だろうと殴ります。
遠い日の追憶―1話
「―――お父様、お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「うん?どうしたんだいシャルロット?」
紳士的な服に身を包む男と、6歳程度の幼い女の子が並んで立っている。
「……なんでお兄様は、お母様と戦っているのですか?」
問いかける少女……窓を挟んだ向こう側には、幼い少年と女性が正面から戦っていた。
……いや、戦いにすらなっていない。体格の差、技術の差、経験の差……あらゆる面で女性の方が有利に見える。
それは幼い少女ですらわかった。
「お兄様……毎日毎日お母様と戦って……」
「可哀想だ、と言いたいのか?」
少女の父親が、声音を低くして問い返す。
それに対し、少女は無言で頷いた。
「……シャルロット、お前は『聖女』だ」
真っ直ぐに見つめる眼に、息を呑む。
『聖女』―――1000年に1度現れる、伝説の存在。
少女は齢3歳にして、己の運命を知った。
彼女が『聖女』である証拠―――現在、外で戦っている兄が、2年前怪我をした事がある。
兄は『魔眼』の持ち主だ。
兄の『魔眼』は視界に入るありとあらゆる魔法を消滅させてしまう『消魔の魔眼』。
故に―――兄は魔法が使えない。そして魔法が効かない。
だから『回復魔法』を使おうとすれば、簡単に無効化されてしまう。
しかし……彼女が祈ると、兄の傷は跡形もなく癒えたのだ。
そこで知った……自分が『聖女』だという事を。
「『聖女』の力はとてもスゴい……だが、それを悪い人が使おうとしたら、どうなる?」
「大変な事になってしまいます」
「そうだ……もしシャルロットの事を、悪い大人が連れ去ろうとしたら、抵抗できるか?」
「……いいえ」
「だからアルヴァーナを育てている……シャルロットを守る戦士にするために」
眼前で繰り広げられる戦い……大体、2年ほど前から行われている、『日常』だ。
……これは、自分のために行われている?
「……そ、そんなの―――」
「頼んでいない、か?」
「う……」
出鼻を挫かれ、返答が詰まる。
……私はお兄様が大好きだ。
優しくて、カッコ良くて……兄妹以上の感情を持っている事を、自分でも理解している。
「……お前には話しておこうか、シャルロット」
「何をですか?」
「お前たち双子の……真実を」
双子の……真実?
幼い女の子には、実の父親が何を言っているのか理解できなかった。
故に―――直後に聞いた父の言葉は、自分の耳を疑わざるを得なかった。
「アルヴァーナ・ミラード、そしてシャルロット・ミラード……お前たちは双子ではない。そもそも血が繋がっていないのだ」
「……え?」
血が繋がっていない……って事は、家族じゃない、という事だろうか?
「アルヴァーナは……伝説の騎士の家系『ペンドラゴン家』から譲り受けた、養子だ」
「『ペンドラゴン家』……?!」
「うむ……ああ、シャルロットとアルヴァーナの誕生日は同じ日だぞ?たまたま同じ日に生まれた、赤の他人だ」
ペンドラゴン家……幼い少女ですら聞いたことがある、有名な騎士の家系。
王の側近『アーサー・ペンドラゴン』……兄は、その人の息子なのだろうか?
「で、でも……何故ですか?」
「何がだ?」
「私が『聖女』だと発覚したのは、今から2年前……でも、お兄様とは生まれた日から共に時間を過ごしています」
「……何が言いたい?」
兄を騎士にする理由は、私を守るため……私を守るのは、私の『聖女』の力を悪人に悪用されないようにするため。
でも……そんなの、私が『聖女』として生まれる事がわかっていないと、兄を養子として譲り受けたりはしない。
となると、順番がバラバラだ。
兄と私は双子→4歳の私が『聖女』と発覚する→兄を騎士として育て始める。これならわかるが……私と兄は双子ではない、となると……?
「もしかしてお父様は……私が『聖女』として生まれる事を、知っていたのですか?」
問い掛けに、無言を返される。
……何秒間、父の顔を見ていただろうか。
大きく溜め息を吐き、父が外の日常に目を向ける。
「アルヴァーナを譲り受けた理由は……単純に、シャルロットの遊び相手が欲しかったからだ」
「……遊び相手……?」
「そうだ。別にシャルロットが『聖女』として生まれるなど、まったくの予想外だったがな」
「……お兄様は、その事を知っているのですか?」
「お前たちが双子じゃないという事か?教えていないから知らないと思うぞ」
兄は、何も知らされていない……という事は?
「……お父様。お兄様は、騎士になるために戦っている事を知らないのですか?」
「ああ……だから今のアルヴァーナは、何故母さんと戦っているかがわからないだろうな……しかし、今は耐えてもらわなければならない」
そう言うお父様の目は、どこか遠くを見ていた。
―――――――――――――――――――――――――
深夜、1人の部屋で考える。
「お兄様……」
なんて、残酷なのだろうか。
お父様もお母様も、お兄様を騎士に育てようとしている。
だが……当の兄がその事実を知らなければ、お母様のそれはただの暴力になる。
「……私が『聖女』として生まれたせいで……?」
『聖女』として生まれなければ、兄が厳しい訓練を行うことも、お母様と毎日稽古をする必要もなく、2年前のように平和な日々を送れていたのだろうか。
「……私だけは、お兄様の味方でいなければ」
父と母は、これからも兄に厳しく稽古をつけるだろう。
疲れた兄に優しくするのは……妹である、自分の仕事だ。
血が繋がっていないとか、『聖女』だからとか関係ない。アルヴァーナは大好きな兄なのだ。
「……おっ、シャル。珍しいな、お前がこの時間まで起きてるなんて」
暗い廊下を照らすような笑み……アルヴァーナだ。
今の今まで訓練していたのだろう……体は傷だらけの泥だらけの姿だった。
「……お兄様……ううん。アル兄ーーー!」
「うおっと……いきなりどうしたんだよ、俺泥だらけだから汚いぞ?」
「えへへ!今日も訓練お疲れさまー!」
「お、おう……ありがとな」
兄に抱きつき、頭を撫でられる感覚に安心感を覚える。
ああ、やっぱり私は兄が大好きだ。
「……『癒しよ』」
「お……シャル?」
「私ができる、精一杯の応援……頑張ってね?」
「……ありがとよ。疲れも吹っ飛んだぜ……んじゃ、俺風呂に行くから」
そう言って、廊下の奥へと消えて行く。
……これでいい。
兄が疲れで壊れないように、私が癒す。身体も心も。
「うん?どうしたんだいシャルロット?」
紳士的な服に身を包む男と、6歳程度の幼い女の子が並んで立っている。
「……なんでお兄様は、お母様と戦っているのですか?」
問いかける少女……窓を挟んだ向こう側には、幼い少年と女性が正面から戦っていた。
……いや、戦いにすらなっていない。体格の差、技術の差、経験の差……あらゆる面で女性の方が有利に見える。
それは幼い少女ですらわかった。
「お兄様……毎日毎日お母様と戦って……」
「可哀想だ、と言いたいのか?」
少女の父親が、声音を低くして問い返す。
それに対し、少女は無言で頷いた。
「……シャルロット、お前は『聖女』だ」
真っ直ぐに見つめる眼に、息を呑む。
『聖女』―――1000年に1度現れる、伝説の存在。
少女は齢3歳にして、己の運命を知った。
彼女が『聖女』である証拠―――現在、外で戦っている兄が、2年前怪我をした事がある。
兄は『魔眼』の持ち主だ。
兄の『魔眼』は視界に入るありとあらゆる魔法を消滅させてしまう『消魔の魔眼』。
故に―――兄は魔法が使えない。そして魔法が効かない。
だから『回復魔法』を使おうとすれば、簡単に無効化されてしまう。
しかし……彼女が祈ると、兄の傷は跡形もなく癒えたのだ。
そこで知った……自分が『聖女』だという事を。
「『聖女』の力はとてもスゴい……だが、それを悪い人が使おうとしたら、どうなる?」
「大変な事になってしまいます」
「そうだ……もしシャルロットの事を、悪い大人が連れ去ろうとしたら、抵抗できるか?」
「……いいえ」
「だからアルヴァーナを育てている……シャルロットを守る戦士にするために」
眼前で繰り広げられる戦い……大体、2年ほど前から行われている、『日常』だ。
……これは、自分のために行われている?
「……そ、そんなの―――」
「頼んでいない、か?」
「う……」
出鼻を挫かれ、返答が詰まる。
……私はお兄様が大好きだ。
優しくて、カッコ良くて……兄妹以上の感情を持っている事を、自分でも理解している。
「……お前には話しておこうか、シャルロット」
「何をですか?」
「お前たち双子の……真実を」
双子の……真実?
幼い女の子には、実の父親が何を言っているのか理解できなかった。
故に―――直後に聞いた父の言葉は、自分の耳を疑わざるを得なかった。
「アルヴァーナ・ミラード、そしてシャルロット・ミラード……お前たちは双子ではない。そもそも血が繋がっていないのだ」
「……え?」
血が繋がっていない……って事は、家族じゃない、という事だろうか?
「アルヴァーナは……伝説の騎士の家系『ペンドラゴン家』から譲り受けた、養子だ」
「『ペンドラゴン家』……?!」
「うむ……ああ、シャルロットとアルヴァーナの誕生日は同じ日だぞ?たまたま同じ日に生まれた、赤の他人だ」
ペンドラゴン家……幼い少女ですら聞いたことがある、有名な騎士の家系。
王の側近『アーサー・ペンドラゴン』……兄は、その人の息子なのだろうか?
「で、でも……何故ですか?」
「何がだ?」
「私が『聖女』だと発覚したのは、今から2年前……でも、お兄様とは生まれた日から共に時間を過ごしています」
「……何が言いたい?」
兄を騎士にする理由は、私を守るため……私を守るのは、私の『聖女』の力を悪人に悪用されないようにするため。
でも……そんなの、私が『聖女』として生まれる事がわかっていないと、兄を養子として譲り受けたりはしない。
となると、順番がバラバラだ。
兄と私は双子→4歳の私が『聖女』と発覚する→兄を騎士として育て始める。これならわかるが……私と兄は双子ではない、となると……?
「もしかしてお父様は……私が『聖女』として生まれる事を、知っていたのですか?」
問い掛けに、無言を返される。
……何秒間、父の顔を見ていただろうか。
大きく溜め息を吐き、父が外の日常に目を向ける。
「アルヴァーナを譲り受けた理由は……単純に、シャルロットの遊び相手が欲しかったからだ」
「……遊び相手……?」
「そうだ。別にシャルロットが『聖女』として生まれるなど、まったくの予想外だったがな」
「……お兄様は、その事を知っているのですか?」
「お前たちが双子じゃないという事か?教えていないから知らないと思うぞ」
兄は、何も知らされていない……という事は?
「……お父様。お兄様は、騎士になるために戦っている事を知らないのですか?」
「ああ……だから今のアルヴァーナは、何故母さんと戦っているかがわからないだろうな……しかし、今は耐えてもらわなければならない」
そう言うお父様の目は、どこか遠くを見ていた。
―――――――――――――――――――――――――
深夜、1人の部屋で考える。
「お兄様……」
なんて、残酷なのだろうか。
お父様もお母様も、お兄様を騎士に育てようとしている。
だが……当の兄がその事実を知らなければ、お母様のそれはただの暴力になる。
「……私が『聖女』として生まれたせいで……?」
『聖女』として生まれなければ、兄が厳しい訓練を行うことも、お母様と毎日稽古をする必要もなく、2年前のように平和な日々を送れていたのだろうか。
「……私だけは、お兄様の味方でいなければ」
父と母は、これからも兄に厳しく稽古をつけるだろう。
疲れた兄に優しくするのは……妹である、自分の仕事だ。
血が繋がっていないとか、『聖女』だからとか関係ない。アルヴァーナは大好きな兄なのだ。
「……おっ、シャル。珍しいな、お前がこの時間まで起きてるなんて」
暗い廊下を照らすような笑み……アルヴァーナだ。
今の今まで訓練していたのだろう……体は傷だらけの泥だらけの姿だった。
「……お兄様……ううん。アル兄ーーー!」
「うおっと……いきなりどうしたんだよ、俺泥だらけだから汚いぞ?」
「えへへ!今日も訓練お疲れさまー!」
「お、おう……ありがとな」
兄に抱きつき、頭を撫でられる感覚に安心感を覚える。
ああ、やっぱり私は兄が大好きだ。
「……『癒しよ』」
「お……シャル?」
「私ができる、精一杯の応援……頑張ってね?」
「……ありがとよ。疲れも吹っ飛んだぜ……んじゃ、俺風呂に行くから」
そう言って、廊下の奥へと消えて行く。
……これでいい。
兄が疲れで壊れないように、私が癒す。身体も心も。
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2064
なんていい子だ
くとぅるふ
めっちゃ良い子やぁ、、、、