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聖女な妹を狙うやつは、魔王だろうと殴ります。

ibis

ここではない場所へ―3話

「……おかしい」

 やっと森を抜けた……それは良いのだが。
 ……森の中で、モンスターに遭遇しなかった……というより、いなかった。
 まるで、全員存在を消されたような―――

「まさか……ラプターの仕業か?」

 ―――確証はない……だが、モンスターに1度も出会わなかったのは、絶対におかしい。

「はっ……余計なお世話をありがとよ、ラプター」

 背後の森に言葉を投げ、平和な平原に足を踏み入れる。

「ん、んん……?アルにぃ……?」
「起きたかシャル……体調はどうだ?変な感じとかしないか?」
「……特に何もないよ」

 良かった。
 シャルは野宿に慣れていないだろうから……もしかしたらストレスで何か異変を起こすかも、と心配していたのだが……何か無いなら良かった。

「……アル兄」
「どうした?」
「……お腹、空いた」

 上目遣うわめづかいでこちらを見上げるシャルに、思わず吹き出してしまう。
 ……可愛いやつだ、本当に。

「そんじゃ……野営食でも食うか?」
「うん!食べる!」

 乾パンを渡し、嬉々として食べ始めるシャルの姿に頬が緩む。

 ……かなり歩いたつもりだが……まだ着かないのか?
 いや……遠くに、うっすらとだが国のようなものが見える。
 見間違えるわけがない……あれは『人国』だ。俺と妹が幼少期を過ごした、母国だ。

「……シャル、もう少しで『人国』に着きそうだ。頑張れるか?」
「もっちろーん!」

 乾パンのクズを口の周りに付け、元気に歩き始める。

「……右手の紋様は、隠しといた方が良いかな」

 これ見られたら、すぐ『七つの大罪』だってバレるし。

「確か手袋を持ってきたはずだが……あったあった」

 指先が出た黒い手袋……盗賊とかが使ってそうな手袋だ。
 手袋を深く付け、シャルの後を追いかける。

「シャル、あんまり遠くに行くな。はぐれるぞ」
「はーい!」

 返事はするものの、シャルは更に遠くへ進んで行く。
 ……視界の範囲内には、モンスターの姿は見当たらない。
 視界の範囲内には、な。

「え―――きゃ?!」

 突如、地面が盛り上がり、そこから巨大な虫が現れる。

「だーから言っただろ。あんまり遠くには行くなって」
「あ、アル兄。ありがとう……」

 シャルを抱え、巨大な虫から距離を取る。
 『ジャイアントアント』……って名前のモンスターだった気がする。

「……シャル、ちょっと離れてろ。危ないかもしれないからな」
「わ、わかった!」

 シャルが遠くに行くのを確認し、俺は『能力』を発動させる。
 ―――『憤怒の上昇アングリー・アップ』……俺の『能力』の名前だ。
 怒り、憤り、激怒……その他『憤怒』と認識される感情を抱けば、力が上昇する……という単純な『能力』……なのだが。

「……別に今、怒るような事も無いしな」

 そう。『憤怒』を感じる事が無ければ、俺の『能力』は発動されない……単純、故に扱いにくい『能力』だ。
 まあでも、俺は元『七つの大罪』、『憤怒』を司っていた者……怒りを増幅させる事など、造作もない。

 例えば……そうだな。『理不尽な怒りを抱く』とか。
 目の前のモンスターに対し、理不尽な怒りを抱く……『見た目が気持ちわりぃんだよ!』ってな。

 もう1つは……『過去の怒りを蘇らせる』だな。
 過去に起きた出来事を思い出し、それを怒りに変換する……正直、こっちの方が簡単だ。

 ……俺に暴力を振るっていた母親……その様子を黙って見ていた父親……ふざけた事を言う魔王……怒りで体が熱くなっていく。まるで血が沸騰しているかのようだ。

「キシャァアアアアアアアッ!」
「やかましいッ!」
「カッ―――」

 迫る顎に、拳をねじ込む。
 体の表面を覆う甲殻がひび割れ、そこから亀裂が全身へと広がり―――

「……きたねぇな」

 ―――ジャイアントアントの体は、弾け飛んだ。

「アル兄強ーい!」
「はっはっは……そんじゃ、早く行こうぜ」
「はーい!」

 腕に抱き付くシャルと共に、『人国』を目指した。

―――――――――――――――――――――――――

「ん……着いたぞ、シャル」
「あ、ひ……つか、疲れた……」
「……まあ、運動苦手なシャルにゃ、ちょっと辛かったかな」

 『人国』の門前……ヘロヘロになったシャルを連れ、門番に話し掛ける。

「え、と……すんません」
「む、『人族』か。国に入るには身分証明が必要だが、身分証明ができる物はあるか?」
「身分証明か……これでいいかな?」

 小さな名刺のような物を取り出し、門番に差し出す。

「おっ、『冒険者カード』か……ん?これ……いつ製作してもらった?」
「10歳……いや、もう少し前の時だったか?」
「……今お前は何歳だ?」
「17だ」
「7年も前じゃないか!もういい、国内の『ギルド』で早く新しい『冒険者カード』を作ってもらえ!」

 早く行けとかす門番の言われるがまま、『人国』へと足を踏み入れる。

「アル、兄……ちょっと、待って……!」
「まだヘバッてたのか……ほら、背中乗りな」
「うん……ありがと……」

 シャルを背負い、近くのギルドを目指す。
 ……7年前の『冒険者カード』が使えて良かった。
 『冒険者カード』というのは……簡単に言うなら、モンスターを討伐する冒険者が所有する身分証明みたいな物だ。

「……ヤバイな……7年も前だと、何がどこにあるかサッパリだ」
「ん、アル兄!あっちにギルドあるよ!」
「おっ……シャルは目が良いな」
「えへへー♪」

 シャルの指さす建物に近づく。
 ギルドか……7年前と同じなら、かなり物騒な所だが……さすがに7年も経ってるからな!ギルドの中も落ち着いてるだろうな!

「……行くぞ、シャル」
「うん。アル兄となら、どこへでも!」
「なんかそれ、昨日も聞いたような気がするんだけど……」

 背中のシャルを下ろし、木製の扉の前に立つ。
 意を決し、俺は扉を開けた―――

「んだてめえ!ヤンのかおらぁああ?!」
「上等だごらあ!表出ろやてめえ!」

 ―――うん。7年前と変わってないみたいだ。
 ゴツいおっさんとイカツイおっさんが睨み合い、罵声を浴びせあっている。

「はぁ……相変わらず物騒だな」
「表に出る前に、これでも喰らっとけやぁ!」

 ゴツいおっさんの手からジョッキが投じられ―――何故か俺たちの方に飛んでくる。

「―――シャルっ!」
「ひゃっ?!」

 飛んでくるジョッキを拳で粉砕。
 そんな俺たちに気づいていないのか、おっさんたちは喧嘩を続けている。
 ……再び、身体中の血が、沸騰したかのように熱くなる。

「……シャル、怪我はないか?」
「うん……でも、アル兄の手から血が……」

 ジョッキの破片で切ったのか、左手から血が流れ出す。
 だが、そんなの気にならない。

 ―――こいつら……シャルを危ない目に遭わせた事に気づいてないのか?
 なるほど……重罪だな。

「……悪い、ちょっと待っててくれ」
「あ、アル兄……?」

 心配そうに俺を見上げるシャルの頭を撫で、ギルドの中に入る。
 何人か、俺の出す殺気に気づいてこちらを見るが……おっさんたちや、その周りのヤジウマ共は気づいていないみたいだ。

「―――てめぇこらぁああああッ!どこに向かって物を投げてんだぁああああッ?!俺の可愛い妹が怪我したらどうしてくれんだボケェエエエエエエエッ!」

 突如響いた叫び声に、ギルド内全員の視線が俺に集まった。

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