聖女な妹を狙うやつは、魔王だろうと殴ります。
ここではない場所へ―1話
「―――というわけだ、『アルヴァーナ・ミラード』……貴様の妹を我に寄越せ」
「……は?」
深夜の魔王城……起きてるのは俺と『魔王』の2人だけだろう。
片目を眼帯で隠す銀髪の男と、見るからに禍々しい魔王のような雰囲気を放つ男が向かい合う……ただならぬ空気だ。
「……いや、言ってる意味がさっぱりわからねぇんだが?」
「はぁ……いいか?もう1度説明するぞ?」
俺と向かい合って座る魔王が、うんざりとしながら説明してくる。
「貴様には妹がいるな?」
「ああ……双子の妹がいる」
「……その妹は、『聖女』だな」
「……どこで聞いたんだよ、その情報」
ため息を吐き、机の上に置いてある水を飲む。
……俺には妹がいる。血を分けた、双子の妹が。
だが、普通の人間ではなかった―――妹は『聖女』と呼ばれる存在だったのだ。
そもそも『聖女』とは、何か。
1000年に1人しか現れない神にも等しい存在……と聞いたことがある。
曰く、『聖女』は慈愛に満ちている。曰く、『聖女』が祈れば傷が癒える。曰く―――『聖女』の伴侶になれば、不老不死の存在になる。
「……我の目的は知っているな?」
「ああ……世界を統一して、新しく世界を作り直す、だろ?」
「そうだ……だが、我にも寿命がある。命がある。限界がある……おそらく、その目的を達成する前に、我は死んでしまうだろう」
紅い両目が俺を睨む。
その射抜くような眼力に、思わず背筋が伸びてしまう。
「……その目的の達成を手伝うのが俺たちの―――『七つの大罪』の存在理由だろ?」
右手の甲を出し、そこに刻まれている異様な紋様を見せる。
これは『七つの大罪』に加入する時に刻まれた、『七つの大罪』である証……証明みたいなものだ。
「そうだ……しかし、貴様等がまともに働いている所など……見たことがない」
あれ?そうだったっけ?
おかしいなぁ、俺はそれなりに働いているような気がするんだが……
「確かに、貴様等は強い……だが、働いてくれないなら意味がない。だから……我が直々に戦場に出向く事にした」
「……それと俺の妹を欲しがるのと、どう関係するんだよ」
「貴様も聞いた事くらいはあるだろう……『聖女』の伴侶となる者は、不老不死になる、と」
そうだが……それはあくまで噂だ。
本当に不老不死になる保証など―――
「……おいちょっと待て……不老不死のために、俺の妹と結婚しようってのか?」
「そうだ」
―――さも当然のように言う魔王に、思わず掴みかかる。
「今のは許せねぇぞ……おい、人の妹を何だと思ってやがる」
「貴様にも利益のある話だ……貴様の妹が我の伴侶となれば、貴様は我の義弟になるのだ……我の弟になれば、世界を統一した後……貴様に国を1つか2つ任せるのも悪くない」
「ふざけんな、国欲しさに妹を差し出せってか?お前、『人族』をあんま舐めんじゃねぇ……!」
怒りのままに叫びたくなる衝動を無理に抑え、魔王を睨み付ける。
「ふむ……『能力』が発動しているぞ?」
「当たり前だろ……!今の話で、キレんなって方が無理な話だ……!」
「『憤怒の上昇』か……本当に、厄介な能力だ……力で我と渡り合うのは、貴様と『暴食』だけだからな」
締め上げる力が上昇して行く―――このままならば、魔王を殺す事など容易いだろう。
だが、今ここで魔王を殺せば……他の『七つの大罪』が黙っちゃいない。
それに……魔王が抵抗しないわけがない。
「―――ふんっ」
「づっ……!」
掴む手を振り払われ、激痛に顔をしかめる。
「……お前に、妹は渡さない」
「ならば、力ずくでも奪わせてもらおうか」
挑発的に笑う魔王に舌打ちし、魔王の部屋を出る。
……どうしようか。
魔王が妹を狙ってるとわかった以上、この『魔国』には居られないだろう。
「……『人国』に行くかなぁ」
『人国』……そこには『人族』という人種が暮らしている。
俺と妹は、10歳までその国で暮らしていた。
あの女が、俺を『七つの大罪』に誘ってくるまで―――
『君、スゴい『能力』を持ってるね!……うん、君、『七つの大罪』に来ない?実は『憤怒』が空席で……あ、私は『七つの大罪』の『嫉妬』を司ってる『コキュートス』!どうぞ、よろしくね!』
―――7年前、そう言って『七つの大罪』に誘われた。
「……ゴメンな、コキュートス……お前の期待、裏切っちまった」
本人に聞こえるはずのない謝罪を口にし、俺は自宅を目指して走った。
―――――――――――――――――――――――――
「あ!『アル兄』お帰り!」
「……ただいま『シャル』。まだ寝てなかったのか?」
「うん。アル兄が魔王様に呼ばれた理由が聞きたくて眠れなかったの!」
俺の部屋、そこのベッドに座る金髪の少女―――妹だ。
『シャルロット・ミラード』……これが妹の名前。シャルっていうのは愛称だ。
妹は双子だから、俺と同い年なんだが……見た目は相当のロリだ。
「ねぇアル兄、なんで魔王様に呼ばれたの?クビ?解雇されたの?」
「なんでそんなにマイナスな事しか言わねぇんだよ……」
「えー?だってアル兄、全然働いてないじゃん」
あれー?おっかしいなー?俺的には、かなり働いてると思ってたんだけど……
「まぁそれはどうでもいいんだ……なぁシャル」
「んー?なーに?」
「……『人国』に行こうか」
「え……?『人国』……?」
突然の提案に、妹が首を傾げる。
そりゃそうだ。いきなり他の国に行こうって言えば、誰だって―――
「うん、いいよアル兄」
―――え?今、なんて?
「い、良いのかシャル?俺から言い出しとして何だが、いきなり他国に……ってか、母国に帰るって言ってるんだぞ?」
「うん。ちょっと驚いたけど……アル兄が言うなら、私はそれに付いていくよ?」
微笑み、飛び付いてくるシャルを抱き締める。
……根拠の無い信託、理由の無い信頼……ああ、こんな可愛い妹を、あんな魔王に渡すわけにはいかない。
「時刻は午前の1時か……シャル、今から行こうかと思うんだが、大丈夫か?」
「うん!アル兄となら、どこへでも!」
「……そうか」
早速、身支度を始める。
金をポケットに入れ、大きな袋に寝袋を詰め込む。
たまに魔王から森の調査とか頼まれて、森で野宿する事とかあったからな……サバイバルの道具は最低限揃ってる。
「よし……行くぞ、シャル」
「うん!アル兄!」
こうして、俺が妹を守る―――いや、『憤怒』を司る『大罪人』が『聖女』を守る物語が動き始めた―――
「……は?」
深夜の魔王城……起きてるのは俺と『魔王』の2人だけだろう。
片目を眼帯で隠す銀髪の男と、見るからに禍々しい魔王のような雰囲気を放つ男が向かい合う……ただならぬ空気だ。
「……いや、言ってる意味がさっぱりわからねぇんだが?」
「はぁ……いいか?もう1度説明するぞ?」
俺と向かい合って座る魔王が、うんざりとしながら説明してくる。
「貴様には妹がいるな?」
「ああ……双子の妹がいる」
「……その妹は、『聖女』だな」
「……どこで聞いたんだよ、その情報」
ため息を吐き、机の上に置いてある水を飲む。
……俺には妹がいる。血を分けた、双子の妹が。
だが、普通の人間ではなかった―――妹は『聖女』と呼ばれる存在だったのだ。
そもそも『聖女』とは、何か。
1000年に1人しか現れない神にも等しい存在……と聞いたことがある。
曰く、『聖女』は慈愛に満ちている。曰く、『聖女』が祈れば傷が癒える。曰く―――『聖女』の伴侶になれば、不老不死の存在になる。
「……我の目的は知っているな?」
「ああ……世界を統一して、新しく世界を作り直す、だろ?」
「そうだ……だが、我にも寿命がある。命がある。限界がある……おそらく、その目的を達成する前に、我は死んでしまうだろう」
紅い両目が俺を睨む。
その射抜くような眼力に、思わず背筋が伸びてしまう。
「……その目的の達成を手伝うのが俺たちの―――『七つの大罪』の存在理由だろ?」
右手の甲を出し、そこに刻まれている異様な紋様を見せる。
これは『七つの大罪』に加入する時に刻まれた、『七つの大罪』である証……証明みたいなものだ。
「そうだ……しかし、貴様等がまともに働いている所など……見たことがない」
あれ?そうだったっけ?
おかしいなぁ、俺はそれなりに働いているような気がするんだが……
「確かに、貴様等は強い……だが、働いてくれないなら意味がない。だから……我が直々に戦場に出向く事にした」
「……それと俺の妹を欲しがるのと、どう関係するんだよ」
「貴様も聞いた事くらいはあるだろう……『聖女』の伴侶となる者は、不老不死になる、と」
そうだが……それはあくまで噂だ。
本当に不老不死になる保証など―――
「……おいちょっと待て……不老不死のために、俺の妹と結婚しようってのか?」
「そうだ」
―――さも当然のように言う魔王に、思わず掴みかかる。
「今のは許せねぇぞ……おい、人の妹を何だと思ってやがる」
「貴様にも利益のある話だ……貴様の妹が我の伴侶となれば、貴様は我の義弟になるのだ……我の弟になれば、世界を統一した後……貴様に国を1つか2つ任せるのも悪くない」
「ふざけんな、国欲しさに妹を差し出せってか?お前、『人族』をあんま舐めんじゃねぇ……!」
怒りのままに叫びたくなる衝動を無理に抑え、魔王を睨み付ける。
「ふむ……『能力』が発動しているぞ?」
「当たり前だろ……!今の話で、キレんなって方が無理な話だ……!」
「『憤怒の上昇』か……本当に、厄介な能力だ……力で我と渡り合うのは、貴様と『暴食』だけだからな」
締め上げる力が上昇して行く―――このままならば、魔王を殺す事など容易いだろう。
だが、今ここで魔王を殺せば……他の『七つの大罪』が黙っちゃいない。
それに……魔王が抵抗しないわけがない。
「―――ふんっ」
「づっ……!」
掴む手を振り払われ、激痛に顔をしかめる。
「……お前に、妹は渡さない」
「ならば、力ずくでも奪わせてもらおうか」
挑発的に笑う魔王に舌打ちし、魔王の部屋を出る。
……どうしようか。
魔王が妹を狙ってるとわかった以上、この『魔国』には居られないだろう。
「……『人国』に行くかなぁ」
『人国』……そこには『人族』という人種が暮らしている。
俺と妹は、10歳までその国で暮らしていた。
あの女が、俺を『七つの大罪』に誘ってくるまで―――
『君、スゴい『能力』を持ってるね!……うん、君、『七つの大罪』に来ない?実は『憤怒』が空席で……あ、私は『七つの大罪』の『嫉妬』を司ってる『コキュートス』!どうぞ、よろしくね!』
―――7年前、そう言って『七つの大罪』に誘われた。
「……ゴメンな、コキュートス……お前の期待、裏切っちまった」
本人に聞こえるはずのない謝罪を口にし、俺は自宅を目指して走った。
―――――――――――――――――――――――――
「あ!『アル兄』お帰り!」
「……ただいま『シャル』。まだ寝てなかったのか?」
「うん。アル兄が魔王様に呼ばれた理由が聞きたくて眠れなかったの!」
俺の部屋、そこのベッドに座る金髪の少女―――妹だ。
『シャルロット・ミラード』……これが妹の名前。シャルっていうのは愛称だ。
妹は双子だから、俺と同い年なんだが……見た目は相当のロリだ。
「ねぇアル兄、なんで魔王様に呼ばれたの?クビ?解雇されたの?」
「なんでそんなにマイナスな事しか言わねぇんだよ……」
「えー?だってアル兄、全然働いてないじゃん」
あれー?おっかしいなー?俺的には、かなり働いてると思ってたんだけど……
「まぁそれはどうでもいいんだ……なぁシャル」
「んー?なーに?」
「……『人国』に行こうか」
「え……?『人国』……?」
突然の提案に、妹が首を傾げる。
そりゃそうだ。いきなり他の国に行こうって言えば、誰だって―――
「うん、いいよアル兄」
―――え?今、なんて?
「い、良いのかシャル?俺から言い出しとして何だが、いきなり他国に……ってか、母国に帰るって言ってるんだぞ?」
「うん。ちょっと驚いたけど……アル兄が言うなら、私はそれに付いていくよ?」
微笑み、飛び付いてくるシャルを抱き締める。
……根拠の無い信託、理由の無い信頼……ああ、こんな可愛い妹を、あんな魔王に渡すわけにはいかない。
「時刻は午前の1時か……シャル、今から行こうかと思うんだが、大丈夫か?」
「うん!アル兄となら、どこへでも!」
「……そうか」
早速、身支度を始める。
金をポケットに入れ、大きな袋に寝袋を詰め込む。
たまに魔王から森の調査とか頼まれて、森で野宿する事とかあったからな……サバイバルの道具は最低限揃ってる。
「よし……行くぞ、シャル」
「うん!アル兄!」
こうして、俺が妹を守る―――いや、『憤怒』を司る『大罪人』が『聖女』を守る物語が動き始めた―――
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