剣聖と呼ばれた少年、願いを叶えるためにダンジョン攻略~最強がチートスキルで更に最強に~
第三話 『魔法』
――パチパチパチパチ
フィンにパンチを入れたのと同時に、ギルド入り口の辺りから拍手の音が聞こえてきた。
見ると、白いスラっとした衣装に身を包んだ銀髪ポニーテールのお姉さんがいつの間にかそこにいた。
「やるじゃない、フィンに一発入れるなんて」
「おい、アイシャ! 俺はまだやれるぜ」
「いや、そこまでよフィン。せっかくの有望株を壊れ物にされては困るんでね」
「ちっ、やられっぱなしで終わりかよ……」
いきなり試合が終わってしまい呆然と突っ立っている俺の元に、お姉さんが歩み寄ってにこっと笑った。その切れ長の目は、凛々しさと美しさが上手く融合されていて彫刻のようだ。
「私はギルドマスターのアイシャよ。よろしく頼むわね、新人君」
アイシャから手を差し出されたので、握手を交わした。
「俺は柊司。みんなからは司って言われてます」
「ツカサ君ね。その若さで体術をそこまで鍛えているなんてすごいじゃない」
「はいっ……! ありがとうございます」
なんだか素直に褒められると照れくさい。こんな美人から言われたとなると尚更だ。
自分の頬が少し紅潮しているのに気付きながらも、気付かないふりをして会話を続ける。
「その、ここに来れば魔法を教えてもらえるとのことで来たんですが……」
「……ツカサ君はどのくらい魔法の事を知っているのかな?」
「ツカサさんはですね~、私が召喚で呼んだ人なので魔法については何も知らないのですよ」
シャロロがカウンターからひょっこりと顔を出して俺の代わりに説明をしてくれた。
「へぇ……。シャロロの召喚で呼ばれたのか。その強さも納得ね」
何かを考えるように顎に手を当ててからアイシャは説明を始める。
「魔法は大別すると三種類に分けられてね、一つ目は攻撃術式――火の玉や氷の粒を飛ばしたりして、魔法で直接攻撃するのが主な役割なの。二つ目は回復術式――治癒能力を促進させ、怪我を治すのが主な役割ね。そして最後が支援術式――装備に属性を付与したり、身体能力を向上させたりすることができるわ。魔法剣士ギルドで教えることが出来るのはこの支援術式になるわね」
アイシャは先ほど俺が投げ飛ばした摸擬刀を拾い上げ、「フッ」と力を込めると摸擬刀は稲妻を帯びた。
「これが支援術式の一番基本となる付与。武器に付与できる属性は先天的に一つに決まっているのよ。私の場合は雷、さっき君と戦ったフィンの場合は火といった具合にね」
「それじゃあ俺の場合は……?」
「それはやってみてのお楽しみよ。でも君の場合はまず魔法回路を開かないといけない――魔法回路っていうのは人が魔法を生み出すエネルギー源のことね。早いのと楽なのどっちが良い?」
「――早いので!」
即答するとアイシャは目を糸のように細くして喜んだ。
「君ならそう言ってくれると思ったわ、さあ両手を出して」
言われるがままに両手を前に出すと、アイシャはそれを握りこむ形でギュッと掴んだ。
何をされるんだろう、なんだかドキドキしてしまう。
「アイシャさん……? ――うっ!?」
その時、全身にスタンガンを浴びたような鋭い痛みが走った。
「ぐっ、がっ! うわぁぁぁぁぁぁ!!」
突然の痛みに言葉にならない呻きをあげてしまった。
「ちょっと声が大きいわよ。痛いのが好きなんでしょ?」
「ち、違っ! 早いのって言っただけ――うっ、うがぁぁぁ!」
「早いも痛いも同じことよ。早く物事を習得しようって時には苦痛が伴うの、ふふっ」
なんという無茶苦茶な理論……。
俺が苦しんでいるのを見てアイシャはやけに楽しそうだ。
この人もしかして、ドSなんじゃないだろうか。
「せ、せめて今の状況の説明を……」
「魔法回路の開き方は二種類あってね、一つは瞑想を繰り返し少しずつ閉じている魔法回路を解放していく方法。ただ、これだと最低でも一か月はかかるのよ。もう一つは今やっている方法。強制的に誰かの魔法の刺激を受けることで、一気に解放させるの。これなら一時間もかからないわ」
「い、一時間だって!? ぐっ、がぁぁぁぁ!!」
この痛みを一時間も受け続けたら廃人にでもなってしまいそうだ。
「せ、せめて手心をっ!」
「だめっ! 手加減してやったんじゃ開ける回路も開けなくなってしまうわ。我慢するのよ、そしてもっと私を楽しませて頂戴!」
あ、この人やっぱりただのドSだ……。
俺はこの地獄のような苦しみを味わい続ける覚悟を決めた。
◇ ◆ ◇ ◆
「お疲れツカサ君。よく頑張ったわね!」
突っ伏した姿勢の俺に、アイシャはとてもスッキリした顔でねぎらいの言葉をかける。
アイシャの責め苦を受ける途中、俺は考えるのをやめて痛みという感覚をどうにか頭の隅っこに追いやろうと必死に頑張った。だけれども結局意味はなく、一時間悶え苦しんでアイシャの加虐欲を満たすことになってしまった。
「ここまで辛いなら楽なプランを選ぶんだった……」
「無事終わったんだからいいじゃないの。さて、早速付与をやってみましょうか」
ボロボロに痛めつけられた体に鞭打ちながら、なんとか摸擬刀を拾い立ち上がった。これで念願の魔法が使えるようになったのだろうか。
「いいわね。君の体の声をよく聞いてみて。昨日までとは全く違う何かが聞こえるはずよ」
俺は剣を構えて目をつぶった。確かに今までにない得体のしれない力が体の底から湧き上がってくるのを感じられる。
「体中に沸いてくる魔力を感じた? その魔力を手に持っている剣に流し込む様イメージしてみて」
この感覚が魔力か。未知の体験に気持ちが高ぶってきた。
魔力を体の中心に持っていき、それから腕へ、手へ、指先へ、そして――――武器へ
そこまでイメージしたところで、俺の持っている摸擬刀に変化が生じた。
――炎
――雷
――氷
摸擬刀に三つの元素が渦巻く異様な光景が目の前に映し出された。
それを目の当たりにしたアイシャが声を上げる。
「――こ、これは!? 複属性!? しかも三つ!?」
「どういうことですか、アイシャさん?」
「属性は先天的に一つに決まると言ったのは覚えている? ただ、ごくまれに二つの属性を操れる人がいるのよ。割合にすると一万人に一人程。それでも三つの属性を操れる人なんてのは聞いたことがないわ! 前人未踏の領域に足を踏み入れているのよ、君は!」
興奮した様子でまくし立てると、アイシャは目をキラキラと輝かせながら俺の手をギュッと掴んだ。さっきまでの拷問――ではなく魔法回路解放の儀式を思い出してヒヤッと嫌な汗が滴る。
「歓迎するわ! 君は魔法戦士ギルドのエースになれる存在よ! 私達と一緒に天の大樹の頂点を目指しましょう!」
「勿論そのつもりできました」
「言うじゃねえかヒイラギツカサ! 俺を殴った分はしっかりと働いてもらうぜ! おい、新しいギルドメンバーが入ったんだ、さっさと宴の準備を始めろ!」
フィンがその大きい腕を目いっぱいに伸ばして指示を出すと、肉や酒がこれでもかというくらいに運ばれてきた。
「あ、あの。俺未成年だから酒は飲めないんですけど……?」
「ツカサさんの国では禁止だったのかもしれませんが、ここはアールグリフですから大丈夫ですよ~! せっかくなので楽しんじゃいましょう! 親睦は大事ですからね~!」
俺が三属性を操れると知ってから、特にシャロロは喜んでいる。
シャロロや他のみんなの期待にこたえられるように、頑張ろうと改めて思った。
料理が全員に行き渡ったところでアイシャが音頭を取り始める。
「それでは期待の新人ヒイラギツカサ君の加入を祝って、乾杯!」
「「「かんぱ~い!」」」
こうして俺の新世界での生活は始まったのであった。
フィンにパンチを入れたのと同時に、ギルド入り口の辺りから拍手の音が聞こえてきた。
見ると、白いスラっとした衣装に身を包んだ銀髪ポニーテールのお姉さんがいつの間にかそこにいた。
「やるじゃない、フィンに一発入れるなんて」
「おい、アイシャ! 俺はまだやれるぜ」
「いや、そこまでよフィン。せっかくの有望株を壊れ物にされては困るんでね」
「ちっ、やられっぱなしで終わりかよ……」
いきなり試合が終わってしまい呆然と突っ立っている俺の元に、お姉さんが歩み寄ってにこっと笑った。その切れ長の目は、凛々しさと美しさが上手く融合されていて彫刻のようだ。
「私はギルドマスターのアイシャよ。よろしく頼むわね、新人君」
アイシャから手を差し出されたので、握手を交わした。
「俺は柊司。みんなからは司って言われてます」
「ツカサ君ね。その若さで体術をそこまで鍛えているなんてすごいじゃない」
「はいっ……! ありがとうございます」
なんだか素直に褒められると照れくさい。こんな美人から言われたとなると尚更だ。
自分の頬が少し紅潮しているのに気付きながらも、気付かないふりをして会話を続ける。
「その、ここに来れば魔法を教えてもらえるとのことで来たんですが……」
「……ツカサ君はどのくらい魔法の事を知っているのかな?」
「ツカサさんはですね~、私が召喚で呼んだ人なので魔法については何も知らないのですよ」
シャロロがカウンターからひょっこりと顔を出して俺の代わりに説明をしてくれた。
「へぇ……。シャロロの召喚で呼ばれたのか。その強さも納得ね」
何かを考えるように顎に手を当ててからアイシャは説明を始める。
「魔法は大別すると三種類に分けられてね、一つ目は攻撃術式――火の玉や氷の粒を飛ばしたりして、魔法で直接攻撃するのが主な役割なの。二つ目は回復術式――治癒能力を促進させ、怪我を治すのが主な役割ね。そして最後が支援術式――装備に属性を付与したり、身体能力を向上させたりすることができるわ。魔法剣士ギルドで教えることが出来るのはこの支援術式になるわね」
アイシャは先ほど俺が投げ飛ばした摸擬刀を拾い上げ、「フッ」と力を込めると摸擬刀は稲妻を帯びた。
「これが支援術式の一番基本となる付与。武器に付与できる属性は先天的に一つに決まっているのよ。私の場合は雷、さっき君と戦ったフィンの場合は火といった具合にね」
「それじゃあ俺の場合は……?」
「それはやってみてのお楽しみよ。でも君の場合はまず魔法回路を開かないといけない――魔法回路っていうのは人が魔法を生み出すエネルギー源のことね。早いのと楽なのどっちが良い?」
「――早いので!」
即答するとアイシャは目を糸のように細くして喜んだ。
「君ならそう言ってくれると思ったわ、さあ両手を出して」
言われるがままに両手を前に出すと、アイシャはそれを握りこむ形でギュッと掴んだ。
何をされるんだろう、なんだかドキドキしてしまう。
「アイシャさん……? ――うっ!?」
その時、全身にスタンガンを浴びたような鋭い痛みが走った。
「ぐっ、がっ! うわぁぁぁぁぁぁ!!」
突然の痛みに言葉にならない呻きをあげてしまった。
「ちょっと声が大きいわよ。痛いのが好きなんでしょ?」
「ち、違っ! 早いのって言っただけ――うっ、うがぁぁぁ!」
「早いも痛いも同じことよ。早く物事を習得しようって時には苦痛が伴うの、ふふっ」
なんという無茶苦茶な理論……。
俺が苦しんでいるのを見てアイシャはやけに楽しそうだ。
この人もしかして、ドSなんじゃないだろうか。
「せ、せめて今の状況の説明を……」
「魔法回路の開き方は二種類あってね、一つは瞑想を繰り返し少しずつ閉じている魔法回路を解放していく方法。ただ、これだと最低でも一か月はかかるのよ。もう一つは今やっている方法。強制的に誰かの魔法の刺激を受けることで、一気に解放させるの。これなら一時間もかからないわ」
「い、一時間だって!? ぐっ、がぁぁぁぁ!!」
この痛みを一時間も受け続けたら廃人にでもなってしまいそうだ。
「せ、せめて手心をっ!」
「だめっ! 手加減してやったんじゃ開ける回路も開けなくなってしまうわ。我慢するのよ、そしてもっと私を楽しませて頂戴!」
あ、この人やっぱりただのドSだ……。
俺はこの地獄のような苦しみを味わい続ける覚悟を決めた。
◇ ◆ ◇ ◆
「お疲れツカサ君。よく頑張ったわね!」
突っ伏した姿勢の俺に、アイシャはとてもスッキリした顔でねぎらいの言葉をかける。
アイシャの責め苦を受ける途中、俺は考えるのをやめて痛みという感覚をどうにか頭の隅っこに追いやろうと必死に頑張った。だけれども結局意味はなく、一時間悶え苦しんでアイシャの加虐欲を満たすことになってしまった。
「ここまで辛いなら楽なプランを選ぶんだった……」
「無事終わったんだからいいじゃないの。さて、早速付与をやってみましょうか」
ボロボロに痛めつけられた体に鞭打ちながら、なんとか摸擬刀を拾い立ち上がった。これで念願の魔法が使えるようになったのだろうか。
「いいわね。君の体の声をよく聞いてみて。昨日までとは全く違う何かが聞こえるはずよ」
俺は剣を構えて目をつぶった。確かに今までにない得体のしれない力が体の底から湧き上がってくるのを感じられる。
「体中に沸いてくる魔力を感じた? その魔力を手に持っている剣に流し込む様イメージしてみて」
この感覚が魔力か。未知の体験に気持ちが高ぶってきた。
魔力を体の中心に持っていき、それから腕へ、手へ、指先へ、そして――――武器へ
そこまでイメージしたところで、俺の持っている摸擬刀に変化が生じた。
――炎
――雷
――氷
摸擬刀に三つの元素が渦巻く異様な光景が目の前に映し出された。
それを目の当たりにしたアイシャが声を上げる。
「――こ、これは!? 複属性!? しかも三つ!?」
「どういうことですか、アイシャさん?」
「属性は先天的に一つに決まると言ったのは覚えている? ただ、ごくまれに二つの属性を操れる人がいるのよ。割合にすると一万人に一人程。それでも三つの属性を操れる人なんてのは聞いたことがないわ! 前人未踏の領域に足を踏み入れているのよ、君は!」
興奮した様子でまくし立てると、アイシャは目をキラキラと輝かせながら俺の手をギュッと掴んだ。さっきまでの拷問――ではなく魔法回路解放の儀式を思い出してヒヤッと嫌な汗が滴る。
「歓迎するわ! 君は魔法戦士ギルドのエースになれる存在よ! 私達と一緒に天の大樹の頂点を目指しましょう!」
「勿論そのつもりできました」
「言うじゃねえかヒイラギツカサ! 俺を殴った分はしっかりと働いてもらうぜ! おい、新しいギルドメンバーが入ったんだ、さっさと宴の準備を始めろ!」
フィンがその大きい腕を目いっぱいに伸ばして指示を出すと、肉や酒がこれでもかというくらいに運ばれてきた。
「あ、あの。俺未成年だから酒は飲めないんですけど……?」
「ツカサさんの国では禁止だったのかもしれませんが、ここはアールグリフですから大丈夫ですよ~! せっかくなので楽しんじゃいましょう! 親睦は大事ですからね~!」
俺が三属性を操れると知ってから、特にシャロロは喜んでいる。
シャロロや他のみんなの期待にこたえられるように、頑張ろうと改めて思った。
料理が全員に行き渡ったところでアイシャが音頭を取り始める。
「それでは期待の新人ヒイラギツカサ君の加入を祝って、乾杯!」
「「「かんぱ~い!」」」
こうして俺の新世界での生活は始まったのであった。
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コメント
春風 めると
主人公のチート感がいいですねえええ!更新楽しみにしてます!