新しい世界で生きるには

パロす

代わりの人生

  ヤトは突然視界が赤く染まり、顔に液体が付くことに何も感じなかった。それは目の前に空気があるようにそれと同じ物と受け入れていたからだ。

   だがそんなものはナニカが落ちた音ですぐに消える。そして、嫌でも視界に入る見慣れた大きな身体が力なく肩から手がずり落ち、倒れるの夢うつつな気持ちで見ていた。だが、それを気に留めることもなくヤトは顔に付着した液体を撫でるように触り、掌を見て紅くもあり黒くもあるそれを顔の前に持ってきてしまう。

「あっ、あぁ……」

   震え、気の抜けた声が自分から出るのすら気付かぬまま足が崩れ落ち、吐瀉物をぶちまける。涙目になりながら地面に倒れている大きな身体をみると首から小さな水溜りをつくっているのが見えた。

「や、、だ……いやだ……あぁぁ……そんなぁ……」

   しかしそんな言葉は関係ないと言わんばかりに首から血は止まらない。

「ぐがぁぁ、ぁぁあぁぁ……」

    意識してもいないのに声が出てしまう。そんな声を出しながらヤトは目を血塗れた手で抑える。涙が溢れて止まらない。罪悪感、それが心を支配している。

「あ、あ゙ぁ゙ぁぁ!!!!!   俺のッ……!   俺のせいでクラスタがぁぁッ!!!!」

   森は卑怯だ。嗚咽混じりに泣き叫び、唾が飛び散りながらもまだ叫ぶ、そんな声が反響する。

「ごべんなざい゙ッ……!   ごべんなさいッ!
あ゙ぁ゙ぁぁぁ!!!   クラスタぁ゙ぁ゙ぁ!」

   クラスタに許しを乞うがどんなに叫ぼうとそんな声など届くはずがない。クラスタはこの世には居らずこの森には誰もいないのだから。
しかし、その誰も居ないはずの森で声が頭の中に響いてしまう。それは誘惑だった。甘い誘惑。子供にはその誘惑が強すぎた。罪からは誰もが逃げたいのだから。

《ヤト、君は悪くないよ。だってクラスタが自分で起こした不注意が原因だよ?》

   その声はいつも面白い話してルームメイカーのような存在のレイシーだった。
だが、それは死んだ筈だった。
しかし、ヤトはそんなことはどうでも良かった。

   自分が起こしたと思っていたことを否定され、心が軽くなる。だが、そんな自分が許せない。
実際はそう言ってくれるならその言葉に縋り付いてでもこの現状から逃げたい。
だが、その言葉を否定する。

「違う!   俺が殺したんだよッ!!!   俺がクラスタの気を引いたから!!!   俺がクラスタに話しかけなければッ!!!   それさえしなければ警戒を緩めるはずもなかったんだ!!!」

   自分を責めて、折角垂らしてくれた糸を払い除ける。けど、そうしなければ……それ以外に罪を償うことはできないと思ったからだ。

《違うよ。それは冒険者としての意識が足りないだけだったんだよ。
一流の冒険者はどんな時でも隙を見せず、警戒しているんだ。だから、クラスタは成りたかったs級冒険者に成れなかったんだね》

   そう言いながらレイシーは笑う。

「は……?   レイシィィ!!!   クラスタを馬鹿にするのはやめろッ!!!   謝れよ!!   おいッ!」

    レイシーが何を言ったのか理解できなかったが、段々と言葉が分かった。

   そう、今クラスタを馬鹿にしたのだ。俺とクラスタは一緒に居た時間は短かった。しかし、その間は濃密でとても楽しくて、優しくて……とても信頼していた。

   転移した俺を保護してくれて、スキルの使い方も教えてくれて、だけどスキルのことになると馬鹿みたいに熱中して……だけど、もう居ない。

   そして殺したのは俺だ。

   叫んでいる最中に思う。俺が殺したのになんで怒っているのか?   筋違いもいい所だ……と。
そんな自分が嫌で嫌で仕方が無い。気持ち悪い。怒鳴りたいのはクラスタの方だろう。他人に注意を逸らされて死ぬ。
冒険者ならば一体一で殺されることが本望だろう。

    そう考えると、自分という奴がどれ程に酷いことをして、どれ程に生きる価値のない奴だと思いしらさせる。
その時にレイシーは口を開く

《ヤト、君は気持ち悪いね》

「は?」

   唐突にレイシーに語りかけられマイナスの思考の海から引き出される。

《君は気持ち悪いと言ったんだ。うじうじしていつまでも引っ張る。》

   だって仕方が無いだろう、引き取ってくれてそしてそれを無下にする所か、殺したのだから。

《償うには一生引きずろうとか思ってるんでしょ?   って言っても思考読めるから分かるんだけどね》

   そう戯てみせるレイシーがうざくて仕方がなかった。だったらなんだって言うんだ。それ以外にあるはずもない。

《さっきも言ったけどあれはクラスタの不注意だからね?   でもそんなに償いたいなら他にもあるんじゃないかな?》

   そんなことを言うレイシーに少し心が軽くなる。やはりクラスタも少し悪いのではないかという気持ちが大きくなってしまうからだ。
だが、そんな気持ちがやはり許せない。

「他に、他にあるはずがないだろ!」

   感情的になりながら叫ぶが、こんなに叫んでいると白々しく感じてしまう。

《クラスタの夢を叶えてあげればいいじゃないか。
そんなこの事を引っ張り続けて人生を無駄にするのなら、クラスタの夢を叶えて人生を無駄にした方が断然いいと思うけどなぁ》

「クラスタの夢を……」

   ヤトはそう呟きながら、落ちている首を見る。
目は見開き、虚空を永遠と見つめている。そんな目に責められている気がして怖くて瞼を塞ぐ。

《そうさ、沢山スキルを見つけて、世界一強い冒険者になる。その為には他のs級冒険者を殺さないとね。強奪して、魔王を殺して勇者を殺して、こっちの方が有意義だと思わないかい?》

   あぁ、確かにそっちの方がクラスタが喜びそうだ。クラスタの好きなスキルを俺が沢山見つけて……きっと天国で喜んでくれる。絶対に喜ぶはずだ。
 
   《さぁ、その為には目の前で固まってる黒いトカゲから全てを奪おうよ》

   勿論だ。こいつがクラスタを殺した張本人だ。俺も殺したが、実際に殺したのとは違うよね。
こいつが悪い。一番悪い。

《発動句を唱えて。代償なんて恐れないで》

   勿論だ、クラスタの復讐の為なら代償なんていくらでも払ってやる。
喰えよ。

「クラスタ……これで喜んでくれるかな。『略奪者(プリュンダラー)』」

【『略奪者』の代償発生《感覚麻痺》】

   その声がした時、今までにない感覚に襲われた。
全ての指先から感覚が失われていく。指先から手首、手首から肘、肩から首へと。何もかもが動かなくなっていく。だが、口が動かなくなったと思った瞬間、身体が動くようになった。

   それが何故かは分からない。そして、頭に声が流れる。それはレイシーではなくまた、世界の言葉だ。

【『略奪者』の代償が何者かによって阻害されました。
代償の質が低下しました。
代償が変化し《常時感情低下》が発生しました。】

   世界の言葉が淡々と読み上げるようにいうその言葉に俺は流し聞く事しかできなかった。
どうでも良かったからだ。

   クラスタの復讐が出来た。その証拠に前に目を向けるとグリーヴァスドラゴンがぐったりとして動いていない。その事になんとも形容しがたい感覚に酔いしれていた。酔いしれていた筈なのに暗い感情が押し寄せて止まない。
その事の方が寧ろ問題だった。

   しかしそんなヤトを置いて世界の言葉喋り出す。

【グリーヴァスドラゴンから
ユニークスキル、スキル、そのほかのステータスを強奪しました。

無属性魔法、ステータスを使い確認してください。ステータスの使い方は自分の力を知りたいと念じれば使えます。】

   今度は世界の言葉を聞き流さずしっかりと聞く。そして、ステータスの魔法の話が出た時クラスタが結局教えてくれなかったな、など暗い事を考えてしまう。やっぱり気持ち悪いな。

   試しに念じてみる。世界の言葉が言うには自分の力を知りたいと念じればいいはずだ。

   念じるとすぐに目の前に巻物のようなものが現れた。ヤトはそれを手に取り少し訝しみながらも開いた。するとこんなことが書いてあった。



名前:ヤト

年齢:9


スキル
鋼爪 飛爪 浮遊 ブレス『腐食』 飛び蹴り 

ユニークスキル
讓渡 逆転  同情  同化『自然』 空間断絶  

ユニークパッシブスキル
マナ貯蔵庫『∞』 適応  共有  
魔法攻撃軽減『特大』



   ヤトは自分のステータスを見て何故クラスタがグリーヴァスドラゴンに気づかなかったのか理解した気がする。実際には警戒を怠っていたわけではなかったのだ。『同化【自然】』これにやられたのだと決めつけた。そしてそれを持っている自分が皮肉だなと思う。

   そして分からないことが一つだけあった。
それは物理攻撃を無効にしていたのに何故そのスキルがないのか……と。別に略奪に失敗した理由では無さそうだ。もししていたなら世界の言葉が報告するはずだから。

   しかしその事を考えてもいつまで経っても出てこないので考えることをやめた。

   そして別のことを考える。今はスキルよりもこの死体をどうするかだ。

   クラスタは武器と一緒にここに埋めるとして、グリーヴァスドラゴンはどうしようか。こいつは食べる気にもならない。

   だがヤトは一つ思いついた。それは『カタストロフィ』の試し打ちだ。

   そう考えると話は早い。考えたら即実行だ。

   しかし、形で少し悩んでしまう。だが球体にすることにした。

   形が決まり、もう悩む必要も無い。そう考えてスキルを発動させるために発動句を唱える。

「『破滅よ』!!!」

   ヤトが発動句を唱えると掌にこの世には存在してはいけないと思う程に黒い球体が現れた。しかし、大きさはゴルフボール程だった。

   ヤトは思ったよりも小さいことに少し驚きそれと逆に戦慄も覚える。
何故ならばこの程度の大きさで、グリーヴァスドラゴンを屠れるからだ。
このグリーヴァスドラゴンは10mは余裕で超えている。そんな巨体をゴルフボールの大きさで消し炭に出来るのだ。最も炭すらも消えてしまえば嬉しいが。

そんなことを思いながらグリーヴァスドラゴンに目を向ける。しかし、ヤトはグリーヴァスドラゴンの顔を見て固まる。何故ならば
グリーヴァスドラゴンが笑ったまま死んでいるからだ。
ヤトが強奪する前にレイシーがこいつを止めた筈だ。
こいつはもしかしてクラスタのことを殺して笑っていたのか?

   そう考えると止めどない怒りが沸いてくる、しかしこいつはもう死んでいる。復讐は済んでいる。だが、これ以上痛めつけることが出来ないと分かると歯痒くなり、歯を食いしばる。

   ヤトは顔を歪ませながら歩き、近づいて掌に少し浮いている球を転がすようにして頭に落とした。

   カタストロフィは軽いのか羽根が落ちるような速度で、しかしそれは風に揺れることなく真下に落ちてゆく。

  グリーヴァスドラゴンにカタストロフィが当たった瞬間、グリーヴァスドラゴンの死体はカタストロフィが当たった所から崩れ、滅んでいく。まるで固まった砂のようになり、風に当たり灰のように飛んでいく。

   それは何よりも美しかった。だが、灰となり飛んでいったグリーヴァスドラゴンはこの世界に留まるということになる。
そう考えるとヤトは苛立ちを覚えた。カタストロフィは確かに強力だ。だが、完全に消すことはできないのだと。

   だが今はそれを考えるべきじゃないと頭を振ってその考えを消そうとする。 

   次にすることはクラスタの埋葬をすることだ。

   グリーヴァスドラゴンを先にやってクラスタを後にしたのが申し訳ないと思う。

   ヤトは手に入れたスキル『鋼爪』を使い、土を掘る。
この時、ヤトは適応のユニークパッシブスキルがあるから使えているのだが、そんなことを知る術もなかった。

   スキルを使うと爪は伸び、鋼のように固くなり、身体能力狂化も相まって土が豆腐のようにサクサクと掘れた。

   人が二人分入れるスペースを掘り終えたヤトはクラスタの遺体を運ぶ。その際に武器は全て外してから先に穴に入れた。

   途中、胃液を吐き出しそうになるが我慢して首もしっかりと穴に入れる。

   遺体を運び終わったあと武器を入れようとするが、ヤトは遺品の一つ刀身が黒く、持つ所は少し青い武器を勝手に盗ってしまった。クラスタの形見が欲しかったのだ。

   その後ヤトはクラスタを埋めて、前に教えて貰ったゾンビにならないように略奪者の力を行使してクラスタの周りの空間を強奪し、マナを全てその空間から吐き出させる。これでクラスタの埋葬は終わりだ。

   ヤトはクラスタを埋めた場所にそこら辺に落ちている少し長く太い木をクラスタの埋まっている手前に刺した。そしてさらにそこを覆うようにして空間を強奪した。

   誰にも触れられないように、奪わせないように。

   ヤトはしっかりと空間を強奪出来たこと満足そうに頷く。そして、墓の前で膝をつき手を合わせる。

   クラスタ、これからは貴方の夢を叶えます。
それでもきっと貴方は私を許さないでしょう。
しかしこれはただの自己満足です。
貴方の夢を叶えて悦楽に浸りたい。
ただのエゴです。
そんな私を見守ってくれるなら……幸いです。

   そんな自分勝手なことを墓の前で頭に浮かべながら祈るようにして膝をついていた。


    どれくらい経ったのかは分からない。だが、ヤトは少し吹っ切れたような気持ちになった。それは新たな目標が明確に見えたからに違いはないだろう。ヤトは少しだけ晴れやかな気持ちになりクラスタの作った家へと向かうことを決める。

   辺りを見回すと木が折れており、まるで巨大な砲丸が突き抜けたようにして道が出来ていた。きっと無我夢中で走り抜けたせいだろう。

   クラスタの作った家の前に戻ると、空間を強奪して誰にも触れられないようにした。これで思い出は永遠と残り続ける。そうして安堵した。安心して緊張のようなものが解けたのだろう、突然睡魔が襲ってきた。それもそうだ、今日は色々とありすぎた。別に今日からクラスタの夢の為にすることは無い、明日からでもできる。

   これがこの家で最後に寝ることになると思うと無性に辛くなる。だが、クラスタの夢を叶えるんだ。ヤトは強奪した空間に入り、家に上がってベッドに倒れるようにして眠った。






凍氷の魔剣

黒炎の魔剣との双子の魔剣
魔力を流すことにより使用者には無害な絶対零度の氷刃を創り出す。
この氷刃で傷つけられたものは身体の自由が奪われる

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