加速スキルの使い方!〜少年は最速で最強を目指す〜

海月13

変わった日常

父さんと母さんが王都に向かって1週間が経過していた。あれから俺は毎日欠かさずスキルの可能性を模索すべく、魔力切れギリギリまでスキルを使い続けての特訓をしている。他にも、基礎身体能力をあげるための訓練も欠かさない。
父さんが出発する前にあの謎のドリンクを置いて行ったので、渋々訓練後に飲んでる。ちなみにコーサに飲ませたら吐いた。

でもそのドリンクの効果はてきめんで、ステータスも結構上がっていた。見た目にもしっかり筋肉がついてきている。

「なんか最近イクス体格良くなったね。少し背も伸びたんじゃない?」

「ん?そう?」

朝食のパンを齧りながら向かい側に座るフィアが話しかけてきた。

「なんていうかこう、ガシッとしてきた感じ」

「確かに、兄さんお父さんとの訓練の前より体格が良くなってます。腕もしなやかな筋肉がついてきましたし」

そう言いながら横に座るティアが俺の腕を触ってくる。そう言われるとなんか恥ずかしいな。

「むぅ.........イクス、私にも腕触らせて」

「え、そうなると俺飯食べられないんだが」

「じゃあ私が食べさせてあげる。はい、あーん」

「い、いやいや!今じゃなくてもいいだろ!普通に食べさせてくれ!」

フィアが食べさせてくれるのは嬉しいが、横にティアもいるし恥ずかしいので勘弁してほしい。おまけにフィアのお母さんの、カーサおばさんが「あらあら」って生暖かい目で見てくるし。

「わかった!わかったから!あとで触らせてやるから普通に食べさせてくれ!!」

結局、朝食後腕の筋肉を触らせるという条件で、俺は平穏な朝食を手にした。











「どうしたイクス?なんかテンション低いな、よっと」

「朝からフィアとティアが筋肉を巡ってもめてな、よっと」

「は?筋肉?」

朝の農作業の手伝いで畑を耕している。今日はコーサの家の畑の手伝い。コーサの家の野菜を良くもらってるからその恩返しだ。

「そういえばお前なんか腕とか肩とか筋肉ついてきたな?」

「触らせないからな」

「お前にいったい何があったんだよ」

コーサが哀れな目でこっちを見てくる。

「まぁ、いいや。昼までには終わらせて、昼からはスキル練習しようぜ」

「そうだな。ところでフィアとティアちゃんは?」

「あいつらは今カーサおばさんに頼まれて、自警団の詰所にお弁当とデニッシュ持って行ってるよ」

「いいな〜。カーサおばさんのデニッシュすげー美味いし。いいよなイクスは。フィアの家泊まってるから毎日デニッシュ食べ放題じゃん。羨ましい」

「あぁ、毎日食べ放題だよ........フィアのな」

「.........すまん。羨ましいなんて言って悪かった。災難だったなお前」

カーサおばさんの作るリンゴのデニッシュはすごく美味しいんだが、フィアのデニッシュはハッキリ言って兵器だ。

フィアは料理が下手なわけじゃなく、むしろすごく上手いのだが、お菓子や特にデニッシュは兵器と呼んでいいほど酷いのだ。一度ティアが食べて気絶したことがある。

本人に言おうとしたことは今まで何度もあったが、フィアの感想を求める笑顔を見ると言えず、結局そのままだ。昨晩もフィアがクッキーを焼いてきたが、あれはヤバかった。あともう一枚でも食べていたら確実に気絶していただろう。ティアはクッキーの焼ける匂いがしてきたらさっさと寝た。

「もしかして俺たちの昼飯にフィアのデニッシュはないよな?」

「安心しろ。昨日までに俺が色々と菓子を作って材料を消費済みだ。今日のおばさんのデニッシュで最後だ」

「良くやった」

コーサがグッとやってくるので、俺もグッで返す。しばらく雑談しながら二人で畑を耕す。

すると、道の向こうから会いたくない奴がやってきた。

「ハハッ!朝から呑気に農作業か?いいねぇ〜クズスキルは練習する必要もないからな」

「へへ、全くだぜ」

皮肉たっぷりの笑みでゴーデンとフェスタが俺たちを見て鼻で笑う。ゴーデンは手に木剣、フェスタは木の槍を持っている。ゴーデンは【剣術A】でフェスタは【槍術B】だから二人揃ってスキルの練習をしに行くのだろう。

「テメェら、いい加減に.....!」

「いいってコーサほっとけ。飽きたらさっさとどっか行くだろ。俺たちはさっさと作業を済ませよう」

こういったことに時間を割くのはバカらしい。それにこういうときは言わせておけばいいって父さんも言ってたし。

そう言って俺はコーサを連れて奥に行こうとする。けど、それがゴーデンには気に食わなかったみたいで、

「何テメェ無視してん、だっ!!」

「イクス!」

ゴーデンが固めた土塊を俺に向かって投げてきた。土塊の速度はそこまででもないが、後ろを向いていたので反応が遅れた。

だけど、

(ーーー【走馬灯】)

心の中でスキルを念じた瞬間、世界がスローになる。通常より少しゆっくり流れる世界の中で、俺は迫る土塊を捉え、その直線上にクワを振り上げる。

パァアンッ!!

クワと土塊が衝突し、土塊がバラバラに砕けて辺りに散った。

その光景にゴーデンたちはもちろん、コーサも固まっている。
だが今の俺には別にどうという事はない。父さんの斬撃に比べたらあくびが出るほど遅すぎる。父さんの攻撃は【走馬灯】を使っても視認できなかったほどだ。

「ほら、さっさと続きしようぜ。早く終わらせて、フィアの作った、弁当を食べよう」

「お、おう」

そう言って俺はその場を後にする。わざとフィアの手作りを強調したのは、ちょっとしたお返しのつもり。
事実ゴーデンは俺に攻撃を防がれたことと、フィアの手作りと聞いて、顔を真っ赤にしてその場から去っていった。ざまぁみろ。

「イクス、今の攻撃良く防げたな?」

「【走馬灯】っていうスキルのおかげさ。もっとも、反射的に使ったけど、意外と遅かったし使う必要なかったかもな」

「すげぇ.........俺らの中で後天性スキルを身につけたのイクスが最初だしな。どんだけキツイ訓練したんだ?」

「1万回死にかける拷問」

「え..........」

若干引き気味のコーサ。でも本当に死にかけたんだからそれ以外に言いようないし。

「兄さ〜ん!コーサさ〜ん!」
「お昼持ってきたよ〜!」

ちょうど休憩を入れようと思ったところで、ティアとフィアがお昼の入ったバスケットを持って来た。少し早いけど、お昼にしよう。それで、昼からはスキルの練習だ。











お昼を食べて、コーサの手伝いも終わったら、ようやくスキルの練習だ。
いつも練習する森に向かう。この間父さんが伐採した木々があるので、もう少し深いところまで行って練習する。

「まずは、【走馬灯】の練習をするか」

そう言って俺は森の中に立つ。周りには吊るされた木の幹がいくつもぶら下がっている。
 
俺はそれを一つづつ木剣で弾いて行く。すると木の幹が俺に向けて戻ってくる。それを左にかわすと、今度は左から木の幹が飛んでくる。

左からの幹を今度は木剣を使って強引に進路を変える。そして後ろから迫る幹を右に避けてかわす。

これは父さんが教えてくれた反射神経と状況判断能力を鍛える訓練で、次々と襲いかかる木の幹を【走馬灯】を瞬間的に使ってかわす訓練だ。

戻ってくる速度が遅くなれば、また木剣で弾いて速くする。ゴウッ!!と横を掠めて行く木の幹に冷や汗を掻きながらも、冷静に避ける、避ける。

ただ避けるだけではこの攻撃は躱せない。一つ一つの攻撃を回避するのではなく、回避動作を次の回避動作に繋げることが大事だ。

右に移動しながらしゃがんで頭部への攻撃を避け、前方に転がり真横からの攻撃も避ける。そこから更に跳ね起き、左右同時に迫る幹に、右は回転して回避して、左は木剣で打ち払う。前の俺ならすでにやられていたが、【走馬灯】にも慣れてきた今なら対処できる。

だが、徐々にスピードは増していき、いい加減【走馬灯】の効果も役に立たなくなってくる。威力ももろに当たれば成人男性の蹴りくらいの威力はあるだろう。

「グッ!!」

そうこうしているうちに、避けるタイミングを失敗し、右側から木の幹が襲いかかった。
ギリギリ回避したが、腕を掠めてバランスを崩した。

だが危うい均衡を保っていた状況で、少しでもミスすればどうなるか。バランスを崩したところへ、左右前方から木の幹が飛んできた。

「まず、いっ!」

焦る思考の中、それでも幹は無慈悲に迫る。バランスを崩したこの状況で、三つ同時に対処は不可能。

そうなれば、残された手段はただ一つ。

「【加速】ッ!!」

加速のキーワードと共に、俺の身体がグッと引っ張られるように加速する。加速して回避したのは、後方。回避した後、先程まで俺がいた場所で、三つの幹が派手な音を立てて衝突。
なんとか間一髪間に合った。

「はぁ......!はぁ.......っ!あ、危なかった.......。あれ以上の速度は辛いな.......」

ギリギリ自分が反応できる速度がこれだ。父さんなら目を瞑ってでも回避できる。実際に目を瞑っての見本も見せてもらったし。バケモノめ。

「昨日よりかは若干上がってきてはいるな。でも、魔力の消費が予想より多いな.....」

スキルは魔力によって発動する。だから必要なタイミングでのスキル発動は魔力を管理する上で重要なのだ。俺の【加速】はほとんど魔力を使わないが、【走馬灯】はそこそこ魔力を使う。だから【走馬灯】を瞬間的に使って魔力の消費を少しでも抑えるんだ。

「ふぅ.......少し休憩したら今度は【加速】スキルの練習をしよう。てゆうか【恐怖耐性】スキルをどうやって練習しようかな〜.........帰ったら父さんに聞いてみよ」

切り株に座って休息をとる。もう少ししたら今度は【加速】スキルを発動しながら森を走ろう。

そうして俺は腰を上げ、更に森に入っていった。



けど、その時俺は帰っていればよかったと、あとで思った。























夕焼けが森を赤く照らし、木々の木漏れ日が俺を照らした。

「そろそろ夜になるし、帰ってカーサおばさんの手伝いでもしよう」

日が暮れると森は一気に危険度が増す。この森にはそこまで強力なモンスターはでないけど、熊なんかは出たりもする。

木剣を鞘に入れて腰に下げ、荷物をまとめてカバンに入れる。
あと、訓練中に木にぶつかって落ちてきた鳥も抱える。結構大きな鳥で、すぐに血抜きもしたから臭いも残らない。いやー運がいいな。

「よっし、忘れ物はないな。はぁ〜腹減った.......この鳥でカーサおばさんに焼き鳥でも作ってもらおっと」

今晩の夕食は少し豪華になるなぁ〜なんて思いながら帰路に着く。だいぶ深いところまで来たから帰るのが少し大変だ。

「やべ、思ったより長くいたんだな。日が沈む前に森を抜けないと」

森の中が少し暗くなり始めた。少し速足で帰る。

行く手を阻む木々を避けながら走ると、だんだんと森の出口が近づいてきた。

そして森を抜け、そこにはーーーー


「ーーーえ?」


俺はその光景に、持っていた鳥とカバンをその場に落とした。

俺の見つめる先では、村が赤く染まっていた。それは、夕日によるものではなく、






ーーー炎によって。






夕日が村を赤く照らす中、村のあちこちから火の手が上がり、それが更に村を赤く染めている。

「な、なんだよ.....これ........一体、何が.........っ」

呆然と立ち尽くす。それでもなお炎は勢いをあげ、それに混じって人の悲鳴と金属がぶつかる音・・・・・・・・・・・・・が微かに聞こえた。それに良く見ると、いくつかの炎の塊が動いているのが見える。




そう、村が襲われているのだ。




「ーーーッ!!フィア!ティア!コーサ!」

そう理解した瞬間、俺は弾かれるように村に向かって駆け出した。

今もなお燃える村に向かって、みんなの名前を叫びながら。


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