スクールクエスト!

キズミ ズミ

14話 『空間に干渉する能力』




 ーーー戦慄、していた。

 人事部に入り、魔物と関わってから既に1年が経過している。最近では魔物という存在に恐怖することもなくなり、一端いっぱしを気取っていたことも認めよう。

 それなのに、あの魔物の規格外さ加減は何だと言うのだ。

 腕を振っただけで地平線まで全てを真っ平らにする破壊力は、今までで2番目。

 そして夕暮れ時の空を真っ二つに分断するその巨大さは、今まででダントツ1位である。

 トンボがけされたのではと思うほどキレイに更地にされた世界は夕陽が満遍まんべんなく注がれていて、美しくも、しかし恐ろしかった。

「ーーーッ!!『乾坤一擲けんこんいってきーーー鬼颪おにおろし』ーーーッ!」

 ブオッと瞬時に二の腕まで、いや、焦りがでたのだろうか、頬のあたりまで黒鬼に侵食されたナタツカは張り詰めた鬼気を解き放たんと巨塔を見据え、大ナタを構えた。

「待てッ!ナタツカ!!」

「ーーーッッ!」

 オレの声が震えていたのかは分からない。しかしナタツカは今にも振りかざさんとしていた大ナタをピタリと止め、辺りに満ちた鬼気もみるみる霧散していく様だった。

「何で止めるんスか!?ノブセン!」

「下手に攻撃してあの魔物を刺激させたらどうなるか、まだ分からないからだ」

「でも、自分とノブセンでヒットアンドアウェイすればどんな魔物だって倒せますよ!あの魔物でも!」

「倒せるかは問題じゃない・・・ッ!」

「え・・・?」

「見たところ地平線まで修整世界が広がっている。だったら間違いなくオレらの学校まで『修整』されているって事だ。見た目には分からなかったけどな」

 現実世界から修整世界に変わったのは、おそらくイヅルハと別れてから。ずっと修整世界だったわけじゃない。

「修整世界の大きさが、その魔物の強さに比例するってのは1つの説だ」

「今の攻撃は幸い学校の方向とは真逆に放たれたから良かったものの、もし学校の側に今のバカみたいな威力の攻撃が当たったら、巻き込まれた人事部員は、何も知らないまま死ぬことになる」

「たしかに、そうっス・・・!!」

 虚実織り交ぜた話だが、ナタツカは納得した様だった。本音を言えば、ナタツカにSOSを使って欲しくないというだけだったのだが。

「だろ?だから今、お前がやるべきなのは学校に戻って1年生を修整世界の外に出してやること。それと2年生と引退した3年生をここに連れてこい。あ、あとシーバも連れてきてくれ」

 1年生はまだ実戦経験が無い。それなのにあんな魔物と戦わせるのはあまりに酷すぎる。

 引退した3年生を引っ張り出すのも心苦しいが、しかし2年だけであの魔物に挑んで勝利する公算はきわめて低いだろう。


 ーーー勝利の絶対条件は、誰も死なない事なのだから。


「シーバってあの生徒会長の皇后崎こうがさき椎原しいばさんっスか!?」

「そうだ。あいつも1年の時は人事部だったからな。しかも、超強い。だからーーー早く行けっ!手遅れになる前に!!」

「ーーーッ!うっス!!!」

 迅疾じんしつの如く駆け出したナタツカは一瞬でその姿を消し、学校へと向かっていった。

 荒野に残されたのはオレ一人。オレはまた、前方にそびえる巨塔を振り仰いだ。

「しっかし、超でけえなぁ、あの魔物・・・」

 嘆息たんそく混じりの言葉を漏らして、世界を知覚する。

 寂寞せきばくとしてしまった大地も、太陽の恩恵を受けた夕空も、逆光で黒いシルエットしか見えない巨大な魔物だって、全部この世界の一部だった。

「敗けるわけには、いかないよなぁ・・・」

 恐ろしくたって、構わない。ただ、勝たなければいけない。そうでなければ、この世界にひずみが生まれることを知ってるから。

 想像もつかないような激戦になるだろう。でも、誰一人死なせない。その為に、オレはオレで在るのだから。

 一人、決意を改めていると、その時ーーー。


 ギャリイィィィィッッッッ!!!!


「つぅッ!うるさ!!」

 ガラスを同時に何百枚も割ったかのような騒々そうぞうしい破砕音が、空気を破った。

 ふと見てみると、魔物の腰から胸のところにかけて、『空間』に、亀裂が入っていた。

 それはまさしく常外の一撃。空間すら、世界すら断裂せしめる、一人の少女が放った一撃だった。

「はは・・・、そうだったな。お前が居たんだ。何だよ、ビビって損したぜ」

 誰が聞いたって分かる強がりを独りごちると、言い知れぬ安堵が胸に湧出ゆうしゅつした。


『ウオォォォオォォオオオオオッッ!!!!』


 空間と一緒に、2つに分断された魔物は、しかし大気を鳴動させて大きく吼える。態勢が崩れる間際、魔物は再び大仰に手を振った。

 苛虐かぎゃくを帯びる空間、このまま地平線までその暴虐が進むと思ったがーーー。

 相対するは歪曲わいきょくする空間だった。

 世界を変革させ、物理法則を冒涜して全てに干渉するSOS。その一端いったんが、巨塔の一撃を完全に封殺した。

「・・・・・・ッッ!!!」

 瞠目どうもくしたのは、他でもない。目の前に少女が現れたからだ。青みがかった髪の毛に小柄な体。ネコミミのキャスケット帽を被って、美しい碧眼へきがんは巨塔を見据えている。

 これも、この瞬間移動も、この少女のSOSだと知っていながら、オレはそれでも彼女の異質さに目を剥かざるを得なかった。


 ーーー人事部部長、千年ちとせ真秀まほ


 マホは地上3メートルくらいのところを滞空し、自然な動作で手を突き出した。

 世界はマホの行動に恭順きょうじゅんして、マホの腕のリーチと同じだけの空間が歪み、きしみ、壊れて拡がる。


 ーーー有するSOSは、『空間に干渉する能力』。


 樹形図状に延びた空間断絶は遠方の魔物を蹂躙じゅうりんして、黒く、弾けさせた。








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