スクールクエスト!
10話 『様変わりした世界で』
「ーーー外山3丁目、そこにマホちゃんは居るでござる」
「本当ですか?つか、いつの間に・・・」
疑いたくは無いが、しかしそういう目で見てしまう。シラヌイ先輩はここに来てまだ歪んだ性癖しか発表していないからだ。
「モリツネ様に呼ばれる前、話は聞いていたので念のため子飼いの烏を飛ばしてました」
シラヌイ先輩が態勢を正座に戻して窓の方を指差す。
示した先には網戸を隔てたその向こう側にカラスが木に止まり、カァカァと鳴いていた。
「・・・・・・!!」
なんというか、流石だった。
普段はあけすけなダメ人間を晒しているシラヌイ先輩だが、その手腕は未だ健在。
人事部元情報収集部隊隊長の名は伊達じゃない。
「・・・今度は役に立てて良かった」
オレたちが舌を巻いていると、シラヌイ先輩はそう呟いた。
「今度は・・・?」
「あ!もしかしてーーー」
オレが首をひねっていると、イヅルハがポンと手を打って閃いたそぶりを見せる。
「アタシたちが今まで知らなかっただけで、今までもこんな風に私たちを助けようとしてた・・・とか?」
「・・・・・・」
押し黙るシラヌイ先輩はどこか面映そうに唇をむにゅむにゅしている。
「し、シラヌイ先輩・・・!!」
オレの心に言い知れぬ感情が湧いて来て、視線が交錯する。
「・・・ヒマ何ですか?」
「グフゥ・・・っ!!」
てっきり褒められるかと思っていたシラヌイ先輩は予想外のボディーブローを食らったかのように苦鳴を漏らし、肩を落とした。
ーーーーーーーーー
6時間目が終わって何時間か経っているが、6月の屋外はまだ太陽が輝いていた。
部室棟の手前にある鶏舎の中には学校で飼っているニワトリたちに夜ご飯を与えている生徒が目に付いた。
「結構時間くっちまった。外山3丁目までどんくらいかかる?」
小走りで校門にむかう傍ら、オレは隣のナタツカに問うた。
「ガチで走れば10分くらいっス。ってか大丈夫なんスか?クエストを受けるのがオレとノブセン、あとイヅルハ先輩だけで」
「状況が状況だから仕方ないわよ。マホッチが一年の頃ならまだご愛嬌だったけど、今やマホッチは部長だもの」
「人事部を束ねるボスがヘソを曲げて自分から規則を破った、なんて知れたら人事部の指揮が下がる可能性大だしな。それにーーー」
足はせわしなく動かしたまま、オレは口の端を緩めた。
「もし魔物とエンカウントってなってもオレらなら万が一にも無事だろう」
「はっ、アンタが言うと説得力あるわね。悪い意味で」
「・・・そりゃどうも。助けてやんないぞ、このやろう」
通り過ぎる人が聞いてもおおよそ首を傾げる話題で言葉を交わしていると、既に目的地に着いていた。
「ーーーめぼしい場所を当たってみよう。ここら辺の地理はそこそこ知ってるしな」
この時間、外山3丁目は商店街で買い物をするマダムやら下校中の慶稜学園の生徒やらで割と人通りが多い。
またこの場所は再開発地区としても最近有名であり、あちらこちらでビルの建設が行われている。
オレもそこまで詳しいわけでは無いが、この外山3丁目で人目につきにくく、カツアゲが問題なく行える場所といえばそこまで多くはないはずだ。
これらの情報を鑑みて、弾き出したポイントはーーー
「居たぞっ!カツアゲ犯だ!」
開発中のビルとビルの隙間。奥へ行くごとに暗闇が増していくその場所で、果たして、目標の人物はカツアゲの真っ最中だった。
「・・・っ!なんだァ、アイツら!!」
染めたような不自然な色の茶髪を無造作に乱してラフな格好をした二十代くらいの男はオレたちを見ると頓狂な声を上げて暗闇の奥へと逃げていく。
「逃すかよ!ナタツカ、頼む!」
「うっス!!」
オレの横を颯爽と抜けて真っ直ぐ、ためらいもなくナタツカは風を切った。
ギュンギュンと詰めていく両者の距離。
ほどなくしてナタツカはカツアゲ犯の襟をムンズと掴むと急停止する。
「グエ・・・ッ!!」
慣性の法則が停止した体を前向きに引っ張ったのだろう。必然、男の首は締まり、苦しそうな声を漏らした。
「・・・クエスト完了、っスかね」
「・・・っっっ!!調子にのんじゃねぇぞクソガキがァッ!!」
カツアゲ犯は歯をむき出しにして激昂する。
振り向きざま、ナタツカに繰り出される拳を体を捻ることでかわしたナタツカは直後、チカッとカツアゲ犯の口内が輝くのを確認した。
「ーーー死ねや」
収束される光にナタツカは目を細め、その危険性をいち早く直感したその瞬間ーーー
「死ぬのはお前だっつの」
既にナタツカの側まで来ていたオレは右手をカツアゲ犯の口の中に突っ込んだ。
ーーーボゥンッ!!
鋭い光が暗闇多きビルの隙間道を無遠慮に照らし、見たくもないカツアゲ犯の脳漿が辺りに飛び散った。
「ぁ・・・、ぁ・・・」
頭部を半分以上失ったカツアゲ犯の肉体は力なくべちゃりと倒れて、重い静寂が訪れる。
「知っちゃいましたけど、結構キツいっスね」
言葉と裏腹に、ナタツカはどこか余裕ある声音で横たわるカツアゲ犯を一瞥した。
「・・・なんつーか、我ながらものっ凄いグロテスクに討伐しちったなぁ。ゲロ吐きそ」
「アレ相手、多分ビームしようとしてきたんスよね。まともに当たったらちょっとヤバかったっス」
はたから見て、死体が横たわっている近くで冷静に会話しているオレたちは大分異常なのだろう。
ただーーー異常はこれだけじゃない。人事部の本当の目的は、本懐は、この後に存在する。
「そろそろ来るぞ・・・!」
突如、カツアゲ犯の死体がビクンッと大きく痙攣し、弾けた。
形を失った肉体。しかし赤い液体が辺りに弾け飛ぶでもなく、場の空気だけが四方八方を別のものに変えていく。
先ほどまで太陽が西に傾き、鮮やかな赤を流し込んだような空は蒼天に染まり、直上の太陽はギラギラと真夏日以上に熱波を発している。
世界が大きく変貌し、『修整』されていくと同時に、オレもまた世界に馴染み、常外の力が満ちていくのを感じていた。
「ナタツカ、気ィ引き締めていけ。相手は怪物。初心者だって容赦はしてくれない。修整世界は、そういう所だーーー」
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