スクールクエスト!

キズミ ズミ

9話 『自称忍者のKY女子高生』



 部室は静寂せいじゃく。スライド式のドアは閉まっているし、窓だって開けられていない。

 だから、そう、ヌルッと、その人は突如そこに存在した。

 オレの背後に、存在したーーー。

「お呼びでしょうか。我が主人、モリツネ様」

 吐息がかかる程に近い場所で、凛とした声音が鼓膜に響く。

「ズアアアぁぁぁぁっっっ!!!?」

 図らずも悲鳴をあげた。虚を突かれたなんてもんじゃない。

 座っていたイスから反射的に飛びのいて、危うく後輩であるナタツカに抱きつきそうになる。

 振り返りざま、恍惚こうこつな笑みを浮かべるシラヌイ先輩が居て、オレは早くも後悔していた。

「・・・ッ!!いつからオレの影に隠れてたんですか、シラヌイ先輩!」

 いつも通り、黒っぽい衣装に身を包んでいるシラヌイ先輩は桃色の唇をわずかにほころばせた。

「ふふ、面白い事を聞きますね、モリツネ様。主人の影に潜むは忍びのつとめ」

「ーーーなればこそ、拙者はいつもいつでもあなたにつきまとって良い、と云うことになります!あ、なるでござる!」

「良いわけあるかぁ!!」

 久々に会ったと思ったらコレだよ!あっち側からしてみたら全然久しぶりじゃ無かったっぽいけど!!

 不知火しらぬい神影みかげ慶稜けいりょう学園三年生。自称、忍者の末裔。

 腰のところまで長く伸びた黒髪はツヤめいていて美しく、毅然きぜんとした表情がデフォルトのその顔ははた目に見ても美少女である。

 ただ、色々と残念なところは多く、とりわけて彼女は、変態だった。

「いやいや実際のところ、ストーキングしてたのは授業が終わってからでござるよ」

「オレさっきまで外周走ってたんだけど・・・もしかしてーーー」

 つーか今この人ハッキリとストーキングって言ったな。自分の罪を認めたよね。

「あぁ、モリツネ様の着替えシーンはキチンとこのカメラに記録してありますよ」

「ただちに消去しろォーーーッ!!」

 男女逆なら裁判沙汰だぞ!いや、逆じゃなくても訴えたら勝てるだろこれ。

 オレはシラヌイ先輩に飛びかかるも、ヒョイとかわされ顔面をバスケットボールの様に掴まれた。

「まぁまぁ、誰かに二次配布したりはしませんので、ご安心を。あくまでも自己観賞用ですから。ちがう、でござるから」

 ちなみに、シラヌイ先輩はキャラ付けで忍者っぽく「〜でござる」を語尾につけるが頻繁に忘れる。

「どっちにしてもNGですから!か、え、せ〜・・・ッ!」

「成る程。つまりモリツネ様は裸体を見せたんだからお前も裸体を見せろ、と言いたいんですね。道理にかなっています。いいでしょう脱ぎましょうとも!靴下は残すのがお好みですか?」

「どんだけハッピーな脳みそしてんだアンタ!?」

 据え膳食わぬは男の恥なんて言葉があるが、この人に限ってそれは絶対に有り得ない。

 普通に怖いわっ!ていうかシラヌイ先輩の場合オレに嫌がられる事もご褒美とか思ってそうでマジ怖い。

 さらに言えばこの人がオレの元上司とかいう事実がもうヤバい。

「・・・・・・『電光エレクトロ』」

 かしましくオレとシラヌイ先輩が言い争っている横で、ウンザリしたような声が聞こえて、弾けた。

「ザガガアアァァァ!!?」

「きゃあぁぁぁぁぁっ!!?」

 突如浴びせられた電撃に体がビクンっ、と反応して都合二人分の悲鳴が重なった。

「アンタらねいつまでやってんのよ。先輩も、自重して下さい。何のために人事部を引退したんですか」

 責めるでもなく自省を促すようなイヅルハの言葉に、シラヌイ先輩はバツの悪そうな顔で口を尖らせる、

「じゅ、受験勉強のためです・・・」

「で、やる事が後輩のストーキングですか。はぁ」

「・・・・・・すいません」

 シラヌイ先輩は基本的に内弁慶というか、気心の知れた人にはグイグイくるがそれ以外の人にはこのようにしおらしくなってしまう。

 オレにしても少し身につまされるものがあるので、先輩に助け舟を出してやる事にした。

「ーーーイヅルハ、話が脱線したのは悪かったが、この世界でSOS・・・を使うのは禁止って言っただろ」

「なによ。一度この先輩にはビシッと言ってあげなきゃいけないでしょ」

「その意見については全面的に同意だが、一年生もいる前で三年生が二年生に正座させられて怒られてるのを見るのは忍びないだろ・・・」

「まぁ拙者は忍びですけど。ぷふ・・・!」

「・・・・・・・・・・・・」

 この先輩、とことん空気よめてねぇ・・・。

 イヅルハは口を引き結ぶと開いた手の中に小さな火花が舞った。


ーーーーーーーーーー



「ーーーごめんなさいでした」

 体操服姿で綺麗な土下座をかましたのは自称忍者のKY女子高生、シラヌイ先輩だった。

 ちなみにさっきまで着ていた黒っぽい衣装はイヅルハが燃やしてしまったので影も形もなくなった。

「で、やっと本題なんですけど。マホッチが居なくなりました。探してください」

 頼みごとのはずなのに、申し訳なさは一片も見当たらない。

 当たり前だ、と言わんばかりにイヅルハは威風堂々としていた。

「あ、いや〜、その事なんですけど・・・ござる」

「なんですか」

「とっくに見つけてるでござる」

「・・・っ!?はぁ!?」















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