スクールクエスト!
8話 『こう、影からヌッと出た』
「通信制限!?じゃ、今スマホが使えないってことか!?」
「今月ちょっと使いすぎちゃってねぇ。人事部のホムペ開くのにもアホみたいに時間かかったのよ」
「ま、マジか・・・・・・」
ガクリと、肩どころか気持ちの一切合切がダウナーな音を奏でながら急降下した。
「どうにか出来ないのか・・・?時間はかかるにしても、たかがツイート1つ、たいしてーーー」
「無理よ、無理無理。アタシのツイートに一体何百件リプライがくると思ってるの。いちいち読み込んでたら来月までかかるわよ」
「ダメかー・・・・・・」
「あ、1つ手があるわ。他人のスマホでもアタシのツイッターのパスワードを打ちこんでログインすればちゃんとツイートも出来るわね」
閃いたとばかりに、イヅルハはその大きな胸の前で手を打った。で、気がついた。
「オレはツイッターとかやってないけどな」
「自分はそもそもガラケーなんで」
「そうだったわね・・・。時代に取り残されたサルどもが・・・!」
「クチ悪っ!」
イヅルハが苦み走ったような目をこちらに向けてきた。まぁ、仕方ないね。今日びSNSやってない高校生とかそこそこレアだからね!
いや、でも乗っ取りとか怖いじゃん?それにほら、イイねが欲しくてとんでもない行動しちゃう輩もいるし・・・。
ちなみにSNSをやってる学生は勉強を疎かにするとか言われてるけど多分なんの関係もない。ソースはオレ。
テスト期間ってどう云うわけか部屋の掃除に集中しちゃう。タオルにセスキ炭酸ソーダ水をかけて網戸をピカピカにしてたら一日が終わってる。オレは家事えもんかっつーの。
「ぐぐ・・・!八方ふさがりか・・・」
文字通り、頭を抱えた。なにせ、イヅルハの情報収集チートが使えないとなると、残す方法はあと1つしかない。
しかしそれは紛れもなく最終手段。奥の手中の奥の手。
あの人を呼ぶのは、それだけは、個人的に絶対嫌だ・・・!!
ーーーと、そんな葛藤もつゆ知らず、ナタツカが小さく手を挙げた。
「あの、ちょっといいっスか?クエストのとこに場所がハッキリ書かれていないなら、マホッチ先輩も分からないんじゃないっスか?何もそんなに急いで探さなくてもーーー」
「・・・・・・・・・」
「そうなんだけど、そうじゃないのよ」
オレが黙していたので、イヅルハはオレの代わりにナタツカの言葉を中途で切った。
なるほど、ご意見ごもっともなナタツカの発言。
先輩に対してどこか遠慮がちな一面もあるナタツカは、ともすればもっと早くからその疑問を抱いていたのかもしれない。
ーーーしかし、それは違う。一年生の、人事部に入ったばかりのナタツカは知り得る筈がない。
千年真秀と云う少女の特異さを。異質さを。
「・・・あの子がそのクエストに関わろうとするだけで良いの。それだけで、クエストの方からあの子に寄ってくる」
「ーーーどう云うことっスか?」
ナタツカは眉をひそめて、長机に身を乗り出した。年季ものの机が重力に押されてギィっ、と鳴る音が静謐な空間内でヤケに響いた。
「・・・よーするに、マホには天性の人助けの才能があるんだよ。あー、いや、その才能『も』ある。って感じか」
「・・・はぁ。なるほどっス」
ナタツカは賢いヤツだ。自分の理解より部の緊急性を優先したのだろう。オレが玉虫色の説明しかしなかったにもかかわらず、それ以上言及することはしなかった。
「で、話を戻すけど、ノブナガ」
細い人差し指で長机をコツリと叩いたイヅルハはアイシャドウなんかで強調された大きな瞳をこちらに向けた。
「あんた、不知火先輩のこと黙ってるでしょ。この状況なのよ。呼びなさい」
「ギクゥ・・・!?」
心臓がバクンっ!と脈打った。
「い、嫌だ・・・!!」
「呼べ」
断固、固辞する姿勢を保とうと決意したのもつかの間、オレはイヅルハ刺すような視線に耐えきれず、手を二回、叩いた。
パンッ、パンッ!
静かな部室内に乾いた音が響き渡って、微弱な振動は尾を引いて少しの間とどまっていた。
ーーーそして、
「お呼びですか?我が主人、モリツネ様」
オレの影からヌッと出てきた少女ーーー不知火神影に、オレはありったけの悲鳴をあげた。
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