スクールクエスト!
6話 『人事部の鬼才たち』
「このクソ野郎ども」
 
部室に持ち込んだ赤いエッグチェアに座り、長くしなやかな足を組んでいるギャル風の少女は、突き放す様にそう言った。
彼女の目は下の方、床で土下座しているオレとナタツカを見下ろしている。
「い、いや、そうは言ってもな、イヅルハ、正直な話、『アレ』はなかなかだぞ。むしろこの場合どちらも被害者というか・・・」
「ああ?」
「誠に申し訳御座いませんでした。全面的にオレが悪かったです」
怖っ!イヅルハ怖っ!高身長のパリッとした美人にドスをきかされるともう謝罪しか出てこなくなる。
イヅルハは豊満な胸の前で交差した細い腕を解くとマニキュアやラメでキラキラした爪で長机をコツコツ叩いた。
「あのね、アタシに謝っても意味ないでしょ?どうすんのよ、マホッチまたヘソ曲げて自分一人でクエストクリアしようとか考え出すわよ」
「・・・っ!それはダメだ!アイツにそれをさせちゃいけないんだ!」
「・・・うるっさいわね。もう少し声を抑えなさいよ。だったらやることは一つでしょ。座りなさい」
イヅルハはエッグチェアを扇子型に回して長机に向き直るとオレとナタツカにも着席を促した。
「部長は居ないけど、いつも通り始めるわよ。クエストを」
ーーーーーーーーー
オレの通う私立慶稜学園には、創立から連綿と続く伝統ある部活がある。
その名も、人事部。
活動理念はもっぱら人助けであり、設立当初からあり得ないほどの人気を誇っている。
その理由は数多ほどある。
まず、活動が実利に結び付く事だ。
有り体に言って、この部活はその貢献度次第で県から金銭を支給される。
その支給額は時として高校生が貰っていい額を軽く超え、ある人は高校在学中に1財産を築いて海外へ放浪の旅に出た。
また、この学校の生徒は人事部に所属している、と言うだけで他の生徒とは一線を画すほどの好待遇を受ける。
無論、貢献度の多寡と定期テストでの結果にもよるが、人事部の生徒は授業に出なくてもいい。
人事部は部活の内容的に時と場合を選ばずクエストが飛び込んでくるのでいつでも出動出来るように、と言う学校側からの救済措置である。
ーーーが、ココ最近はそこまで火急のクエストは起きていないのでこの制度は形骸化し、一部の不真面目な人事部のヤツらがサボりのために使う口上になりつつある。
全くいけない事だと思うが、そう言えばオレもそのサボタージュの常習犯だったわ。テヘッ。
さて、ここまで高校の部活の中ではかなりの異質さを紹介してきた人事部であるが、勿論誰でも入れると言うことは決してない。
人事部には特定の条件を満たした、いわゆる『選ばれし者』以外は入部できない。
その入部条件は明示されておらず、厳格な情報統制のもと、入部希望者は入部試験、つまりはトライアウトを受ける。
高校の履修範囲を遥かにオーバーしたペーパーテストや鉄人レースばりの体力テスト、瞬発力や状況判断力などを三回にわたる面接で見定められ、ようやく入部を許可される。
さて、ここで厳選されまくった『選ばれし者』の中で、さらにとりわけ頭角を表す『五つの明星』と呼ばれる人事部の首脳陣が存在する。
ーーー前置きが長くなった。つまりは6話目にして自己紹介をしようと思うのだ。
まずはオレのそばで肩を落としているこの少年から。
投刀塚出水、入部時体力テスト満点、ペーパーテストも非凡な点数で入部。
慶稜学園中等部からの持ち上がり組であり、生徒からの信頼も厚い。
2年の人材不足もあるが、一年生にして50人を統べる人事部実働部隊の隊長であり、フットワークは非常に軽い。
余談だが何をしててもアホみたいに絵になる爽やかイケメンであり、いつか鼻フックして全国のお茶の間にその醜態を晒してやりたいやつランキング1位である(オレの脳内ランキングでは)。
次いで、ビーズやら何やらでデコられまくったスマホの液晶を忙しくフリックしているこの少女。
出ル羽百道、入部時体力テスト、ペーパーテスト共に及第点だったが面接でそのカリスマ性を見出されて入部。
慶稜学園には自己推薦で入学し、次の日には彼女の名を知らぬ者は学園でも極少数派になった。
イヅルハについて特筆すべきは、複数のSNSを駆使してのその情報拡散力、および収拾量が校内ブッチギリの一位だと言うことだ。
彼女のSNS上での呟きはそのまま民意に姿を変えて樹形図的に拡散され、世界の裏側まで広がっていく。
人事部、情報処理部隊、兼特別技術工作部隊隊長、二年生、出ル羽百道。
彼女はこの学校で最も怒らせてはいけない人物に入学以来君臨し続けている。
さて、こうもそうそうたるメンツの中、オレは一体どういう立ち位置なのだろう。
恥ずかしながら自己紹介をさせてもらう。
オレはーーー
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