高校で幼馴染と俺を振った高嶺の花に再会した!
58. 高嶺の花〜藍田side1〜
私は、"高嶺の花"。
……ふざけた呼び名。
頼んだ訳じゃない。望んだ訳でもない。
でも高嶺の花として振る舞うのは、楽だった。
高嶺の花と周りから呼ばれ出したのは、いつからだっけ。
私は、普通とは少し違う家庭で育った。
桐生くんには「想像しているほど複雑な家庭じゃないよ」と言ったけど、普通と違うことは間違いない。
端的に言えば、お金持ち。
高校生である娘に高級マンションの一室を貸し与えるくらいに、両親は財を成している。
愛情が無く、お金だけの関係ということもなかった。
私はしっかり愛されていたと思う。
ただ、期待が重かった。
毎年集まる親戚の会は、親戚の一人の自宅である、立派な豪邸の広間で行われる。
その中で一際盛り上がるのが、子供の"近況報告会"だった。
エリート思考の強い親戚ならではの催し。
そこで私は、親戚から特別注目されていた。
理由は多分、私の容姿が親戚の中でも一際優れているから。
年の近い従兄弟は何人もいたけれど、近況報告のトリはいつも私だった。
「最後の締めは、奏ちゃんね」
そんな言葉を、一体何回聞いただろうか。
何回、嫌だなぁと思っただろうか。
それでも、最初のうちは大丈夫だった。
皆んな最初は同じような報告ばかりで、要領良く話すことが得意だった私の報告はいつも評判が良かった。
両親も私がハキハキと話す姿に喜んで、悪い気はしなかった。
それでも、時が経つごとに変わっていった。
従兄弟は皆んな何かしらの才能を持っていた。
絵のコンクールで入賞を繰り返す人。
サッカーでプロチームのユースに所属している人。
読書感想文で、大臣賞を受賞した人。
何も無いのは、私だけ。
せめて、勉強だけはと頑張った。
特別な才能は無いけれど、スポーツや創作物と違い、努力すれば必ず結果に出る。
だから私の報告は、いつもテストのことばかりだった。
テストで満点を取った。塾で一番の成績を残した。
でも、とてもじゃないが全国レベルには程遠い。
親戚は皆エリートで、勉強はできて当たり前という考え方。
勉強はできて当たり前だからこそ、勉強以外の才能に重きを置いていた。
多分、自分たちに無いものを欲していたんだろう。
そして私の従兄弟たちは、その欲求を満たす存在だった。
そんな中での私の近況報告は、空虚な響きを残して親戚の愛想笑いを促した。
そんな"近況報告会"が何年も続いた後、ついに私は叔父さんから言われてしまった。
「なんや奏ちゃんの報告、いつも同じでつまらんなぁ」
お酒の勢いで漏れたであろう言葉に、親戚一同は非難の目を向けた。
「本人の前で言っちゃ駄目でしょ!」
何処からか、そんな言葉も聞こえた。
その言葉は、私が裏でどんな風に言われているか、容易に想像させるものだった。
愛する一人娘を悪い様に言われて悔しかったのだろう。私は両親から様々な習い事を強要されるようになった。
でも実力に伸びそうになければ、すぐに見限られ、辞めさせられる。
「それくらいの成績なら、勉強さえすれば誰だって取れるんだ」
酒の勢いで嫌味な言葉を吐かれるようになってから暫くした後、私は積極的に愛想を振りまくようになった。
傷付いた本心は、仮面の下に。醜悪な親戚に決して悟られないように。
主に男性を中心に、私の献身的な態度は大いに効いたようだった。
それまで「面白くない」と言っていた叔父さん達は急変し、私を甘やかすようになった。
両親も一人娘が褒められるようになってから無闇に習い事を強要しなくなり、私のストレスは殆ど消えた。
──なんて便利なんだろう。
私は自分の整った顔立ちに、そんな感動を覚えた。
今まで辛かった空間が嘘のように私に味方してくれる。
それから私は、どんなコミュニティに置いても他人が望むような振る舞いをするようになった。
親戚にみたく、媚を売るわけじゃない。
"綺麗な人"はこうあって欲しいという曖昧な偶像に、私が当てはまるように。
学校では、男子とはあまり話さないように。
女子とは、当たり障りのない会話を。
自分の意見を押し殺すことで、周りは勝手に私を美化してくれる。
もしかしたら、勝手に美化させるということが、私に与えられた唯一の才能だったのかもしれない。
そんな振る舞いも、胸が膨らんできた頃にはすっかり板に付いていて、私を取り巻く環境はそれまでに比べてとても心地いいものになっていた。
直接嫌味を言われない。
直接嫌な顔をされない。
それだけで、私は満たされていた。
「虚しくない?」
初めて言われた。
相手は香坂理奈。
私の入学した中学で、トップクラスに人気の女子生徒。
一言で表せば天真爛漫。
私は彼女に憧れていた。
偶像に当てはめることでしか周りの評価を得られない私にとって、ありのままの振る舞いで信頼を得ている彼女はとても眩しく見えた。
そんな人に心に刺さる一言を貰い、憧れという感情は一転し、妬みとなった。
そう、私は香坂さんを妬んでいたんだ。
小学生の頃から自分を偽っていた私は、いつの間にか私が創った偶像という枠に閉じ込められてしまっていた。
どうやって抜け出せばいいのか分からない。
自分で創った偶像にそぐわないことを言ってしまったら、築き上げてきたものが無くなる気がして。
私を羨望する人は、小学生の頃からずっと積み上げてきたもののお陰か、中学入学当初から沢山いた。
それが益々重荷になって、私は自分を殺し続けた。
自分を殺すといっても、そこまで辛くはない。
学校というコミュニティから弾かれる人たちより、遥かに良い生活を送れているから。
ただ、香坂さんのような人間を疎ましく思うだけ。
それが、中学一年生の話。
私が"高嶺の花"と呼ばれ出したのは、それから間もなくのことだった。
……ふざけた呼び名。
頼んだ訳じゃない。望んだ訳でもない。
でも高嶺の花として振る舞うのは、楽だった。
高嶺の花と周りから呼ばれ出したのは、いつからだっけ。
私は、普通とは少し違う家庭で育った。
桐生くんには「想像しているほど複雑な家庭じゃないよ」と言ったけど、普通と違うことは間違いない。
端的に言えば、お金持ち。
高校生である娘に高級マンションの一室を貸し与えるくらいに、両親は財を成している。
愛情が無く、お金だけの関係ということもなかった。
私はしっかり愛されていたと思う。
ただ、期待が重かった。
毎年集まる親戚の会は、親戚の一人の自宅である、立派な豪邸の広間で行われる。
その中で一際盛り上がるのが、子供の"近況報告会"だった。
エリート思考の強い親戚ならではの催し。
そこで私は、親戚から特別注目されていた。
理由は多分、私の容姿が親戚の中でも一際優れているから。
年の近い従兄弟は何人もいたけれど、近況報告のトリはいつも私だった。
「最後の締めは、奏ちゃんね」
そんな言葉を、一体何回聞いただろうか。
何回、嫌だなぁと思っただろうか。
それでも、最初のうちは大丈夫だった。
皆んな最初は同じような報告ばかりで、要領良く話すことが得意だった私の報告はいつも評判が良かった。
両親も私がハキハキと話す姿に喜んで、悪い気はしなかった。
それでも、時が経つごとに変わっていった。
従兄弟は皆んな何かしらの才能を持っていた。
絵のコンクールで入賞を繰り返す人。
サッカーでプロチームのユースに所属している人。
読書感想文で、大臣賞を受賞した人。
何も無いのは、私だけ。
せめて、勉強だけはと頑張った。
特別な才能は無いけれど、スポーツや創作物と違い、努力すれば必ず結果に出る。
だから私の報告は、いつもテストのことばかりだった。
テストで満点を取った。塾で一番の成績を残した。
でも、とてもじゃないが全国レベルには程遠い。
親戚は皆エリートで、勉強はできて当たり前という考え方。
勉強はできて当たり前だからこそ、勉強以外の才能に重きを置いていた。
多分、自分たちに無いものを欲していたんだろう。
そして私の従兄弟たちは、その欲求を満たす存在だった。
そんな中での私の近況報告は、空虚な響きを残して親戚の愛想笑いを促した。
そんな"近況報告会"が何年も続いた後、ついに私は叔父さんから言われてしまった。
「なんや奏ちゃんの報告、いつも同じでつまらんなぁ」
お酒の勢いで漏れたであろう言葉に、親戚一同は非難の目を向けた。
「本人の前で言っちゃ駄目でしょ!」
何処からか、そんな言葉も聞こえた。
その言葉は、私が裏でどんな風に言われているか、容易に想像させるものだった。
愛する一人娘を悪い様に言われて悔しかったのだろう。私は両親から様々な習い事を強要されるようになった。
でも実力に伸びそうになければ、すぐに見限られ、辞めさせられる。
「それくらいの成績なら、勉強さえすれば誰だって取れるんだ」
酒の勢いで嫌味な言葉を吐かれるようになってから暫くした後、私は積極的に愛想を振りまくようになった。
傷付いた本心は、仮面の下に。醜悪な親戚に決して悟られないように。
主に男性を中心に、私の献身的な態度は大いに効いたようだった。
それまで「面白くない」と言っていた叔父さん達は急変し、私を甘やかすようになった。
両親も一人娘が褒められるようになってから無闇に習い事を強要しなくなり、私のストレスは殆ど消えた。
──なんて便利なんだろう。
私は自分の整った顔立ちに、そんな感動を覚えた。
今まで辛かった空間が嘘のように私に味方してくれる。
それから私は、どんなコミュニティに置いても他人が望むような振る舞いをするようになった。
親戚にみたく、媚を売るわけじゃない。
"綺麗な人"はこうあって欲しいという曖昧な偶像に、私が当てはまるように。
学校では、男子とはあまり話さないように。
女子とは、当たり障りのない会話を。
自分の意見を押し殺すことで、周りは勝手に私を美化してくれる。
もしかしたら、勝手に美化させるということが、私に与えられた唯一の才能だったのかもしれない。
そんな振る舞いも、胸が膨らんできた頃にはすっかり板に付いていて、私を取り巻く環境はそれまでに比べてとても心地いいものになっていた。
直接嫌味を言われない。
直接嫌な顔をされない。
それだけで、私は満たされていた。
「虚しくない?」
初めて言われた。
相手は香坂理奈。
私の入学した中学で、トップクラスに人気の女子生徒。
一言で表せば天真爛漫。
私は彼女に憧れていた。
偶像に当てはめることでしか周りの評価を得られない私にとって、ありのままの振る舞いで信頼を得ている彼女はとても眩しく見えた。
そんな人に心に刺さる一言を貰い、憧れという感情は一転し、妬みとなった。
そう、私は香坂さんを妬んでいたんだ。
小学生の頃から自分を偽っていた私は、いつの間にか私が創った偶像という枠に閉じ込められてしまっていた。
どうやって抜け出せばいいのか分からない。
自分で創った偶像にそぐわないことを言ってしまったら、築き上げてきたものが無くなる気がして。
私を羨望する人は、小学生の頃からずっと積み上げてきたもののお陰か、中学入学当初から沢山いた。
それが益々重荷になって、私は自分を殺し続けた。
自分を殺すといっても、そこまで辛くはない。
学校というコミュニティから弾かれる人たちより、遥かに良い生活を送れているから。
ただ、香坂さんのような人間を疎ましく思うだけ。
それが、中学一年生の話。
私が"高嶺の花"と呼ばれ出したのは、それから間もなくのことだった。
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