キミイロ日記、優しい嘘。

雪村 ましろ

9,紗瑠都残恋。ーしゃるつのこいー

「シャルツは雨の降る日に恋をするんだ。まぁ、その恋が叶うことはなかったけどね。」

「それは…悲しいですね。」

あまり本を読まないけど、恋が叶わない。
そう聞いただけで、悲しい話だということはわかった。

「そうだね。けど、君…じゃなくて、冷恋が似てるのは、容姿だよ。」

顔を赤くしながら名前を呼ぶもんだから、こっちまで照れる。

「黒く長い髪、瑠璃色の瞳、桜色の頬。どこか寂しそうな顔をしながら独り道をゆく。…ね、似てるでしょ?」

彼はいきいきと本の世界を、シャルツを語る。


彼女の世界はきっとモノクロなのだろう。
そう思わせるほど冷めた目をしている。
これまでに彼女をときめかせる者はなかったのか。
例えば恋とか、したことはないのか。
そして、その想いは僕に向いてはくれないだろうか。

月日が経つ事に彼女はとても美しくなる。
素直に笑い、素直に泣く。
感情のままに、ありのままに。
そして願いが叶う。

「貴方が…好きなんです。」

しかし、僕はその想いにはこたえることはできない。
僕には婚約者がいる。
強制結婚だ。
だけど、僕はまだ…いや、これからもずっと君が、シャルツが好きだ。
変わることのない、揺るぐことのないこの想いを口にすることは許されず。
涙に濡れ、泣き崩れる君をただ見つめることしかできない。
それでも、好きだ。
涙を堪え、この想いを丁寧に心にしまう。

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