キミイロ日記、優しい嘘。

雪村 ましろ

5,本時君。ーほんときみー

10月1日。

母が帰った後、少し青年の部屋を覗きに行った。
青年は変わらず、独りで本を読んでいた。
やはり、何を考えているのか分からない。

ちょっとだけなら、話しに行ってもいいかな。
そう思い、そっと近づいた。

「あ、あの…この間はすいませんでした。」

本当に集中しているのか、私を無視しているのか。
何も言わず、本を読んでいた。

「えっと…その本、面白いですか?」
もうこれくらいの言葉しか出てこなかった。
面白くなきゃ読まないものなのに。

「面白くない。」
 
「え…?」

「面白くないよ。」

青年は本を見ながらこたえる。

「そもそも僕は本は好きじゃない。暇だ
から読んでるだけ。」

「そ…うなんですか。それじゃ、どうして毎日同じ本を読んでるんですか。」

「…」

青年はまた黙ってしまった。


私、何かまずいこと言ったかな。

「どうして知ってるの。」

「え…?」

「どうして僕が毎日この本読んでること知ってるの。」

「あ、えと…それはー…ぐ、偶然通りかった時、毎回同じ本を読んでるのが見えるから、この本好きなのかなーっと。」

いつものように、作り笑いを並べて誤魔化した。

「…ふーん。」

青年は、彼女の心を見透かしたように、こたえた。
それは、必死に笑いを作ることが馬鹿馬鹿しくなるほどだった。

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