天魔界戦

皇神凪斗

第35話 旅する殺人鬼

ふと、アレクは目が覚めた。時刻はまだ深夜、時間を確認してからもう一度眠ろうと目を瞑る。
しかし、何故か眠気が完全に消え去り眠る事が出来ない。
「・・・少し、外の空気に当たってみるか。」




そう思ったのは本当に気まぐれだった。しかし、良くか悪くかアレクはそこに居合わせた。
「・・・アレク!!どうして・・・?」
城を出たすぐの広場、そこに彼女はいた。
「ドロシー?何故こんな時間に・・・?」
「おいおい!マジかよ!!」
ドロシーと一緒にいた男は嬉しそうに笑い、アレクに近づいてくる。
「会えて光栄だぜ。アーサーさんよぉ!」
アレクは逆に距離を取る。
「お前は少し前に西方の国で指名手配されていた殺人鬼だな。」
「俺を知ってるとは!!・・・まあ、そういう仕事だろうからな。当然か・・・
俺は旅人のソルディ・・・よろしく。」
「『首刈のソルディ』・・・だろ?悪いがここで死んでもらう。」
「面白ぇ・・・!!その言葉を待ってたぜ!!無敗の剣術とやらを見せてくれ!!」
ソルディは右手で腰に下げた剣の柄を掴む。
アレクはその隙を見逃さない。
「俺の前で剣を抜くとは・・・。」
一気に踏み込み、剣を一閃。手首を切り落とす。

そのつもりだった。

「!!・・・何!?」
「おいおい・・・。そんなに焦るなって・・・剣を抜くまで待ってくれたってよ。」
掴まれていた。アレクの剣が。刃に触れぬよう、剣の背を鷲掴みにしていた。
「ま、最近のあんたの行動を見てたんだ。これを見るのは一度目じゃねぇ。悪く思うなよ?」
「なるほど、な!!」
アレクは左足で、掴まれた剣を思い切り蹴りあげる。
「おっと!!」
ソルディは驚いて剣を話す。しかし、アレクは右手でしっかりと掴んでいた。
そこに上向きの力が加わった結果、アレクの右手を軸に回転。剣を逆さに持つ。
そのまま剣を左へ一閃。
「あぶねーな。」
ソルディは少し下がって、難無くこれを躱す。
アレクは剣を持ち直す。
「じゃあ、俺からも行くぜ?」
その手に持つ剣を振り上げ、アレクに向かって振り下ろす。
アレクもただ見てる訳は無く、振り下ろす腕に合わせて剣を振り上げる。
ソルディにはそれが見えていて、剣を手前に引く。よって、手首の場所に剣を持ってきてアレクの剣を受け止める。
「・・・くっ!なんて動体視力と反射神経だ・・・。」
「おらぁ!休んでる暇なんて無いぜ!!」
ソルディとアレクは剣の打ち合いを始める。
アレクはやや不利な状況だった。剣を振るっても余裕でそれを受け止められ、ソルディの筋力はアレクを上回っていて無駄な動きが少ない。
その反射神経で、攻撃の隙を的確に着いてくる。
「お前ほどやりづらい敵は初めてだな・・・!!」
「まだへばんなよ!!パーティは始まったばかりだぜ!!」
「お前とのパーティなどお断りだ!!」
アレクは剣を両手で振るい、ソルディの剣を思い切り弾く。ソルディは手放すことは無かったが、その隙にアレクは距離を取る。
「すぅー、っはぁー。」
そして、アレクは静かに深呼吸する。
「あ?何だよ?急に冷めやがって。」
「これなら、お前も見ていないはずだ。」
アレクは剣を両手で持ち、低く構える。剣の先が地面に触れそうな程。
ソルディは本当に空気が冷めてきた気がした。
「・・・行くぞ。」
バッ!っと空気が荒れる。
ソルディが反応を遅れる程の速さでアレクは距離を詰めた。
「!!」
慌てて、ソルディは剣をアレクへ振り下ろす。
その刃がアレクへ触れる直前。アレクは無の体勢から左足で地面を強く叩き、右へ飛ぶ。
たった数十センチ移動すると、右足で地面を踏みしめ、急停止。もう一度左足で後ろの地面を蹴り、前進。
ソルディの横を通り抜け、また急停止。向きを変え地面を蹴る。ソルディの後ろへ。
それは、一秒にも満たない出来事だった。
後ろで、殺気を感じたソルディは振り返りつつ剣を横に薙ぐ。
それを読んだアレクは、腕を切り落とそうと剣を振る。ソルディは、目でその剣の動きを捉え腕の軌道を上に変える。
アレクの剣はソルディの二の腕を切りつけただけで終わった。
ソルディは完全に振り払った剣をアレク目掛けて斜めに振り下ろす。
アレクは振り下ろした剣の勢いをそのままに、身体を一回転。ソルディの剣を受け止める。
そして、剣を下を潜り抜けてソルディの横へ。
通り抜けながら、脇腹を切りつける。ソルディはそれを察知して、アレクから離れるように飛ぶ。
これも、掠るだけで終わる。即座にアレクは次の行動へ。
ソルディは横へ飛んでいる途中で、足が浮いている。
その足を、剣の背で持ち上げる。
「おわっ!!」
思わぬ事で体勢を崩し、仰向けに地面に倒れる。
「これで終わりだ・・・
『剣技 一刀両断』!!!」
両手で力一杯、上から下へ。ソルディの身体を真っ二つにすべく、振り下ろす。

ガキンッ!!

鉄の断たれる音。
「・・・!!」
「へ、へへ・・・危ねぇな。」
咄嗟に防御しようとしたソルディの剣で──────

───────アレクの剣は折れてしまった。

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