天魔界戦

皇神凪斗

第3話 白銀

訓練場へ向かう途中、カイトは何も言わず着いてきた二人に振り返る。
「これは俺が勝手にやった事だ。お前らは無理に戦う必要は無いんだぞ?」
「!!・・・君がそんな事を言うとはね。
でも、それはアルマ君の為なんだろう?」
「・・・そうだ。まだ奴との戦いはついていない。・・・俺達も。」
「なら、僕達も戦うよ。君がチームの為に戦うなら。」
「アルマ君の為に・・・。」
「そんなに気負うことは無いだろう。ただいつも通り、敵を倒すのみだ。」




訓練場の観客席には多くの人が集まっていた。
その中にはグランとマルクもいた。
「マスターグラン。あなたも此処に?」
「ん?あぁ、マルクか。ちょっと仕事したくなくてな。」
「あなたは、また・・・。・・・あのシェルナンドのチームと言うのはそれ程の実力なのですか?」
「確かだ。実績、経験、実力・・・どれを取ってもこのギルド内一位だろう。今までは・・・な。」
マルクはマルクなりにメルの事を心配していた。
それと、ギルド内最強のチームの実力を測りに来ていた。
「てか、お前らはあいつらの戦いを見た事が無かったんだな。随分と集まる訳だ。」
「ええ・・・何故か年に二回しか帰ってこないもので・・・。」
マルクは『何故か』を強めに発音する。
「ま、まあ今日見れるし良いじゃねぇか。なぁ?」
その後、グランは真剣な表情をする。
「正直言って、あいつらにしか頼めねぇ位の仕事が溜まってんだよ。それだけに依頼の危険度は高ぇし、半年すりゃどんどん危険な奴らは増える。
だけどよ、もしレイジのチームがあいつらに匹敵するなら・・・シェルナンドの野郎も休めるし、依頼の根絶やしも見込める。」
「なるほど。それも、あなたの仕事ですね。」




「ん?レイジがリーダーで新人が三人では無かったか?」
「もう一人は医師に縛り付けられている。安心しろ、戦いに支障はない。」
「すまないね。彼らとの戦闘で負傷してしまって。」
シェルナンドは不服そうな顔をするが、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。
「相手の将を討ちそびれたのに負傷とは。よっぽどマヌケなのだろうな?
フハハハハッ!!!」
カイトとメルの表情が曇り、槍と杖を握る手に力が入る。
「あの・・・私達の仲間を、笑わないで貰えますか。」
「あぁ、失敬。
それでは向かってきたまえ。この白銀のシルバーシェルナンドに!!」

シェルナンドの言葉で戦いは開始する。

「「「『魔装』!!!」」」
カイト、レイジとバラールが『魔装』を使い、前に飛び出す。
バラールは胴と四肢に頑丈な鋼の鎧と右手に両手斧、左手に長方形の盾。
両手斧は片手で持ち、盾は2m近くはあろうバラールの巨体を隠せそうな程大きい。
盾を前に出し、前進する。
「金属なら!!『獄炎槍ごくえんそう』!」
メルの杖から放たれたのは直径3m、長さ6m程の炎。一直線にバラールへ向かっていくが、同時にカイトも避けなければならなかった。
「ごめんなさい!!いつもの魔力量でここまで威力が違うなんて・・・これが神器の力?」
「気にするな!強くて問題は無い!!」
しかし、バラールは全く表情を崩さず、正面からその魔法を受け止める。
「凄い魔力だ。・・・だが!!」
バラールは盾で炎を受け止め、地面に叩きつけて消滅させる。
持ち上げた盾には、ほとんど変化が無かった。
「残念だが、俺の装備に魔法は効かんぞ?」
「チッ!エリートの使う装備は一級品と言う事か。」
それを他所に、レイジは特攻をかける。
「なら先に倒すべきは君じゃないな。『ライジング』!!」
瞬間、レイジは光となり地面と並行にシェルナンドとカゲに向かって行く。
「それは読んでたよ。『幻想の霧ファントム・ミスト』!」
カゲが手を振ると、その足元から赤紫色の霧が発生する。それは物凄い勢いで周囲に広がり、訓練場を包んだ。
レイジは『ライジング』を解除し、少しその場から飛び退く。
「これは、目くらましなのか?」
そして、その霧の中で蠢く何かをレイジは見つける。鞭のようにしなり、レイジに向かって飛んでくる。
咄嗟に顔を両腕で隠すが、その鞭のようなものは直前で消える。
「何!?」
次の瞬間、レイジの頬に直撃する。
レイジが感じたのは高圧の水のような物、しかし、見えたのは餅のように伸び縮みする鉄のような物だった。
「これは幻覚魔法げんかくまほう!!」




カイトは霧の中でバラールと直接対決をしていた。
「霧の中でも、貴様の影はハッキリと見えるぞ!!」
カイトが左に飛ぶと、元の位置に斧が振りかざされる。風圧と土煙がカイトを襲う。
しかし、その時飛んだ方向から衝撃を食らう。
「盾だと!?やつの盾は左手だったはず・・・ぐわっ!」
そのままカイトはメルの足元まで吹き飛ばされる。
「カイト君!!・・・待ってて!『魔法解除キャンセル 幻想の霧ファントム・ミスト』!!」
魔法の発動と同時に、霧は見えなくなった。最初から無かったかのように。
その時、彼等は目撃する。シェルナンドの『力』を。




マルクはその場の光景を見て目を見開いた。
「馬鹿な!!あれは『水銀』、高度な魔法だ。いや、違う・・・あれは──────」
「そうだ。シェルナンドがやっているのは自然操作魔法。」
グランがマルクに重ねて発言する。
そう、霧が晴れたあと、そこに居たのは水銀に囲まれたシェルナンドだった。

「あの『水銀』を操る『自然操作魔法』。それが、『白銀』の由来だ。」

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