天魔界戦

皇神凪斗

第32話 幼き日の記憶

俺の祖父、『アーサー』は優しい男だった。
強く、穏やかで、争いを好まない。
しかし、剣の修行は真剣そのもの。歳が二桁も行かない子供の頃の俺にでさえ、手加減はしなかった。

前にも話したようにヒューザ村は田舎だ。機械なんて畑を耕したり、作物を収穫したりと農業の物のみ。
鉄で出来た武器など一つも存在しない。
故に修行はいつも木刀だった。

「爺っちゃん!一本勝負だぁ!!」
幼きアルマは身の丈に合わない木刀を片手でアーサーへ突きつける。
その手はピクピクと震え今にも木刀を落としてしまいそうだ。
「いつも一本じゃ終わらないがな。いいだろう、受けて立つ。」
苦笑いしながらもアーサーはそれを承諾する。
それに見て隣の少女、ドロシーは心配そうな表情をする。
「少しは手加減してあげてね。可愛い孫が包帯オバケになっちゃうわよ。」
「戦いは真剣勝負、手を抜くことは相手への侮辱だ。」
「ほーんと矛盾してるわよね、それ。争いは避ける癖に。」
そう言いながらもドロシーはアルマとアーサーが笑いながら日常を過ごしている事に何気ない安心感を感じていた。

アーサーとドロシーは『スティルマ王国』の騎士団と魔法研究科の一員だった。
しかし、王が殺害された事により『王国』では無くなった『スティルマ』。
今では『スティルマ』を中心として囲むように六つのエリアに分け、七つの街で『スティルマ国』となった。
そして何を思ったかアーサーとドロシーの二人は国の状態が安定して直ぐに姿を消し、『スティルマ国』の東から国境を抜けた森の中の『ヒューザ村』へと移り住んだ。

アーサーは『無敗の騎士』と言われる『元王国』の誇る最強の騎士だった。
その話はヒューザ村にも届いていたらしく当時はかなり歓迎された。
しかし、その強さは戦いを知らない村人からしてみれば恐怖でしかない。
ヒューザ村の住民は時折怯えるようになる。
しばらくしてアーサーとドロシーの間に兄と妹の二人の子供が産まれた。
その二人には全く戦いを教えなかった。強者の孤独を教えないために。
だが、村人には関係ない。鬼から産まれた子は鬼にしか見えないのだ。
その兄妹が大人になり、互いに相手を見つけるも、寂しさは全く和らぐことは無い。
兄の方の息子がアルマである。
村からの孤立感に耐えきれず妹とその婿は村を去った。
時々、息子を見せに来るが村人の前に顔を出すことはしなかった。

その結果が今の生活である。
アルマは他の子供と接する事はほとんど無く、アーサーと木刀の打ち合いをする事が唯一の遊び。
稀に来る妹の息子にもこの程度しかさせることが無い。
「婆っちゃん。この黒いの誰?」
アルマの真っ白い髪と対局的な漆黒の髪。アーサーの影響だろうか。
「あぁ、あんたの従兄弟ってやつよ。」
「ふぅ〜ん。よっ!いとこ!」
「・・・うん。」
アルマが顔に『?』を浮かべる。
「・・・それよりも、勝負・・・。」
「おう!いこーぜ!」
二人は木刀を手にアーサーへと向かって行った。




夜に突然村人が訪ねてきた。
「アーサーさん。森に伐採しに行ったら大きな熊がいたんだ!危ないからなんとかしてくれないか?」
「・・・すまない。何かを奪うために剣を持つのは止めたんだ。」
「そんな事言わずに!・・・ほら!これ!」
その村人は背中の丈夫そうな布から何かを取り出す。
それは剣だった。鉄を不器用にも何とか薄く伸ばし、柄は木で出来ている。
それを見たアーサーは直ぐにその剣を取り上げる。
「・・・こんなものを持ってはいけない。」
そして直ぐ後にいたドロシーに渡した。
ドロシーがその剣に触ると、一つ魔法を発動させる。
手の上の剣が溶け始める。しかし熱は感じない。
そのままドロドロと変形を初め、最終的には真四角の鉄塊と木で出来た柄だけが残った。
「な、なんでですか!?村の皆が危ないかもしれないんですよ!!」
「・・・熊が村に来た時に呼んでください。」
村人は何か言おうとしたが、鉄塊と木の柄を受け取り帰った。
「こんな生活・・・続けられるの?」
「もうそろそろ限界だろうな。だがもう少し・・・もう少しなんだ。」

一夜明けて。

「爺っちゃん!一本勝負だぁ!」
アーサーはニヤリと笑う。それはアルマを嘲笑っているからではない。
苦しいながらもこの生活が、アルマと戯れるこの時間が好きだからだ。

「さて・・・お前の力を見せてみろ!」

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