天魔界戦

皇神凪斗

第16話 メルの過去

「兄・・・さん?」
確かにメルは目の前の男を兄さんと呼んだ。
「血は繋がっていないがな。お前らは・・・レイジのチームか。」
「何か用か?俺達は急いでるんだ。」
「お前達ではない。メルに用がある。────

このギルドを辞めろ。」

ハッとするメル。驚きながらも何も言わず下を向く。
「おい!突然押しかけてきて何言ってやがる。」
「これはお前達の為でもある。その女は『人殺し』だ。」
「何・・・?」
「やはり知らないか。なら教えてやろう。」




モルルの村では魔道士の育成に力を入れている。この村で育った人間は必ず有名な魔道士になると言う。
この村で産まれたメルは子供の時から魔法を教えて貰っていた。
そしてメル自身も魔法を研究する事が好きだった。
しかし、メルは両親の顔を知らない。
物心ついた頃にはマルクの家で暮らしていた。マルクの両親もメルの両親は知らないが、長く世話していたメルに愛着が湧いていた。
メルにとっても家族にとっても楽しい日々が続いていた。
いつかは有名な魔道士になる素質がメルにはあった。
そんなある日、日常は崩壊する。

メルが研究している魔法陣が突然爆発する。

メルの魔力によって生み出した魔法陣なのでそれで発生する魔法によってメルが傷つくことは無い。
しかし、ちょうど様子を見に来た人間にはそうはいかない。
ただの事故だった。ちょっとした失敗で通りすがりのおじいさんは死んでしまった。
もちろん葬式にはメルも参加した。
誰にも優しかったおじいさんの為に誰もが涙を流した。
しかし、幼いメルだけは涙を流さず。不思議な顔でみんなと同じ行動をしているだけだった。
突如メルは頬を叩かれる。
「お前!何故だ!何故、涙を流さない!お前が殺したんだぞ!」
「そうだ・・・。その通りだ!その娘が殺したんだ!」
メルは首を傾げる。
「死んだ?そんなの嘘だよ。おじいさんはメルが大きくなるまで死なないって言ってたもん。どうしてそんなに怒ってるの?」
「・・・悪魔だ。人を殺してもなんとも思わないなんて・・・。その娘は『人殺し』だ!」
「マルク!お前がメルに魔法を教えたんだろ!お前が悪魔を育てたんだ!」
「出ていけ!この村から!この村に『人殺し』は置いておけない!」

メルはその事件により村を追い出される。マルクの家族と共に。




「父さんと母さんはお前を匿っていたが、俺はお前を許さない!お前によって俺達の人生は壊されたんだ!」
マルクは怒りの表情でそれを語った。
「そんなの事故だろ!それでメルを責めるのは八つ当たりだ!」
「そうだ。だが言ったはずだ。これはお前達の為でもあると。」
「その女には『魔力暴走』の危険がある。」

『魔力暴走』とは体内の魔力が暴走する事である。
魔力とは空気中のマナを体に取り込み自分の魔力に変換する。
そして体内の魔力貯蓄量が多ければ多い程取り込むマナも多くなる。
体内魔力が許容範囲を越えた時、無理にでも魔力を消費しようと本人の意思に関係なく魔法を発動し、辺りを破壊する。
それが魔力暴走である。

「魔力暴走は優れた魔道士に多い現象だろ。
そんな理由で追い出すのはおかしい!」
「・・・面倒な。ならばいいだろう。決闘だ、お前達三人と俺一人で決闘して俺が勝ったらメルにはギルドを辞めてもらう。」
「俺が勝ったらメルに謝ってもらうからな。」
「わかった。もし勝てたらな。では明日の昼訓練場に来い。」
マルクはそれだけ言うとこの場から立ち去った。

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