最強剣士だったけど、異世界では大したことなかったようです

青年とおっさんの間

理由と始まり

「なあセレス?」「何?」
「俺たちすごい見られてない?」「そうね」
「いや、そうねって…」「仕方ないでしょう? 貴方の世界の服を着ているのだから、皆んな物珍しさで見ているのよ」

 それもあると思うが、きっとピッチピチのボディースーツを着たエッロい格好のセレスを鼻の下を伸ばして見ている男が大半だと思うのだが…
 本人が気にしてないなら別にいいけど。
 セレスによって異世界へと連れてかれた俺はセレスの住んでいる街だという王都アイゼンガルドの城下町を歩いている。
 さすが異世界とだけあって、俺の世界とはかなり異なっている。
 まず、城下町の店は殆どが露店だ。そこで食べ物から雑貨、家具あらゆる物が売られている。
 食べ物は果物1つ取っても、色も形も俺の世界では見たことない果物だ。
 そうなると、1番の問題は飯が口に合うかどうかだな。飯が不味い何てことになったら死活問題だ。でも逆に、俺がまだ知らない未知の美味さを秘めた飯があるかもしれない…

『グゥー』

 食べ物ことばかり考えていたら、元気良く俺の腹が音を鳴らし空腹を伝えてくる。

「なあセレス〜、腹減った〜」「今はダメ、我慢して」
「えー、やだ! 腹減った腹減った!」

 俺が駄々をこね始めると、3、4歩分前を歩いていたセレスが足を止め、眉間にしわを寄せて振り返り、俺に詰め寄ってくる。

「貴方は今、異世界にいるのよ!? もっと何か、元の世界に帰りたいとか、何でこんな所に連れてきた? とかそういうのはないの!?」
「んー… ないな。だって帰れないんだろ? ならそんなこと言ったところで無駄じゃん」
「そう… まあそっちの方が私は都合が良いのだけど」

 この世界に来た時、開口1番でセレスに元の世界には帰れないと告げられた。
 何でも異世界転移で使用する転移結晶なる物が使い切りで、もうこの世界に存在するか微妙なところらしい。
 元の世界に未練がないこともないが、帰れないならネチネチと帰れぬ世界のことを考えるのは無意味だ。
 それに…

「いや〜、でも新しい世界って、何かワクワクするよな〜♪」「いつまでそんなことが言えるかしら…」

 しばらくセレスの後ろを付いて歩いて行くと、城下町を抜けた先の大きな門の前で立ち止まった。
 どうやら目的の場所に着いたみたいだ。

「着いた」「えーと、ここは?」
「聖魔導学園」「はあ…」
  その一言だけ話すと学園の門を潜って行くセレナを追って俺も学園の中に入って行った。


……
………

「ようこそ聖魔導学園へ、私は学園長のシュバルツだ」「はあ…」

 セレナについて行った先はこの学園長室で、学園のトップの部屋だけあってかなり豪華な造りになっているところだ。
 そして、目の前で俺に胡散臭い笑顔を振りまいて右手を差し出しているおっさん。
 この、元の世界にいたらファッション雑誌に載ってそうな、無精髭を生やしたワイルドなおっさんが学園長ねぇ… 
 もっとツルっ禿げな爺さんか、綺麗なお姉さんってのがラノベ的な異世界では王道だろうに。
 そんなことを考えながら、渋々差し出された右手に自分の右手を合わせる。

「ども、天月悠です」「うむ」

 するとシュバルツのおっさんは俺とセレナに目で近くのソファーに座るように合図すると、自分も先程まで座っていた椅子に改めて腰をかける。

「さて、君には何の説明もなしにこの世界に来てもらい、本当に申し訳ないと思っている」
「はあ…」
「そこで、これからこの世界について簡単に説明させてもらいたい」
「どうぞ」
「君のいた科学とハイテクノロジーな世界と違いこの世界は魔法で成り立っている…
  この世界の人間は生まれつき魔力を身体に有していて、その魔力の強さで人の優越が決まる。
 魔力は1〜10段階まであり、
 第1階級 『平民』 第2階級『見習い魔法士』 第3階級『魔法士』 第4階級『上級魔法士』 第5階級『魔導士』 第6階級『上級魔導士』 第7階級『戦術級魔導士』 第8階級『戦略級魔導士』 第9階級『王級魔導士』 第10階級『神級魔導士』

 … これが私たちの世界だ」
 ちなみに隣にいるセレスは第5階級の魔導士らしい。学園の生徒の中ではトップクラスの魔力保持者なんだと。
 確かにBBの時のあの技は凄かったもんなー、あれもやっぱり魔法だったんだな。

「残念ながら私たちの世界には、この階級によっての差別が強く根差している。階級が違えば将来が約束され、働ける職種も貰える報酬も違うとなればそうもなろう」

 まあ俺のいた世界でも学歴とか家計とか何とかで多少の差別みたいなものはあるし、どこも同じようなもんなんだな。

「私はその差別をなくす為にこの学園を始めたんだ。全ての子供達が平等に魔術を学び、共に成長し、差別や偏見のない価値観を養って欲しい… しかし、なかなかどうも簡単にはいかないのだがね」

 へぇー、学園長っていいヤツだな。 こういう考え方のできる人間がいるのなら、きっといつか差別のない世界になると思うけどな。

「おっとすまない、話が逸れてしまったね」「いや、いい話が聞けたよ」
「そうか、なら良かったよ。さて、君をなぜこの世界に連れて来たのか? という話をしようか」
「それは是非聞かせてもらいたいな」
「先に話した階級の話、第10階級の『神級魔導士』だが… 第10階級は本来人が到達し得ない領域なんだ」
「じゃあ何で第10階級何てのがあるんだ?」

 俺の質問を受けてシュバルツは椅子の背もたれに持たれ掛かり、大きく息を吐く。

「かつて、この世界は滅亡の危機に瀕したことがあった…

 遥か昔、この世界は1つだった。
 差別や争いはなく、人々は魔法という神秘の力を用いて、お互いが寄り添い合って暮らしていた。
  あるところにアダムという1人の男がいた。アダムにはエヴァという良き伴侶がいた。
 2人の間に子はなかったが、それに勝るほどに2人は愛し合い、充実した日々を送っていた。
 2人はいつしかその愛を永遠のモノにするため魔法の研究を始めた。
 しかし、永遠の魔法は完成しなかった、なぜなら永遠などというものはそとそも存在しなかったのだから。
 そしてついに、エヴァにその時が来てしまった。
 悲しみに暮れたアダムは、古来より禁忌とされた魔術に手を染め、エヴァを蘇らせることを己に誓った。
 エヴァを蘇らせるためには多くの血と生贄が必要だった。
 アダムは世界に嘘と争いの種を蒔き、人が人を憎み、互いに殺しあうように仕向けた。
 そして、殺し合いの中で流れた血と怒りと憎しみを糧に、アダムは第10階級『神級魔導士』の力を得た。
 人である事を捨て、人の形をした人ではない、何か強大なモノにアダムはなった。
 アダムは最愛の妻、エヴァを蘇らせるために世界の半分を生贄に捧げようとした。
 しかし、アダムを止めるために1人の王と11人の王級魔導士が立ち上がった。
 彼等はアダムと死闘を繰り広げたが、アダムを葬るには至らなかった。
 そこで王と11人の王級魔導士たちは自分達の魔力と魂を12本の聖剣に込め、その身と引き換えにアダムを封印した。
 そして、封印の鍵となる12本の聖剣は世界各地に隠された。


……
………


「何かおとぎ話みたいな話だな…」

 シュバルツの話を聞き終わった俺は素直にそう応えた。

「確かに、今では子供達を寝かしつけるために話す物語でしかない」
「それで、この話が俺と何の関係があるんだよ?」「アダムの封印が弱まっている…」
「だとしても、そのアダムってヤツと俺には何の関係もないだろ?」
「聖剣を扱うことが出来るのは魔力を持たない者、つまり生まれつき魔力を持たない異世界人である君にしか出来ないことなんだ!」
「その聖剣を使ってアダムをまた封印すればいいのか?」
「簡単に言えばそういう事だ。しかし、何者かが意図的にアダムの封印をとこうとしているようだ」
「聖アダムス神教… 」

 今まで黙っていたセレスがここへ来て初めて口を開いた。

「セレスの言ったように、聖アダムス神教という、アダムを神と崇める者たちが良からぬ動きをしているという情報を掴んだ」
「そいつらをぶっ飛ばせばいいのか?」
「それは私たちの仕事だ。 君はもしもアダムが復活してしまった時の『保険』と言ったところだよ」
「ふーん、なるほどね。じゃあ異世界まで来て出番なしってこともあるわけか」
「それに越した事はないさ、君には特別生としてこの学園に入学してもらい、この学園で生活してもらうが構わないかな?」「拒否権はないんだろ?」
「そうなるな…」「わかったよ、構わない」
「学園での君の面倒は隣にいるセレスが面倒を見てくれる、わからない事があれば彼女に聞いてくれたまえ」
「よろしくな、セレス」「…… 」

 こいつ… 無視しやがった…
 もっと愛想良くて、ボインな子に替えてくんないかな?
 こうして異世界に連れてこられた俺の奇妙な学園生活が始まった。

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