マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔を隠したある休日の話 5

「ここ… ですか?」

 ユウさんが私を連れて行ってくださったのは、私とアキラちゃんが使うkira☆kira専用の練習スタジオでした。

「うん、中へ入ってみて」「はい… 」

 どうしてユウさんが、普段私たちが使うスタジオに私を案内したのか分かりませんが、ユウさんに言われるままにスタジオの扉を開きました。

「「「キアラちゃん!誕生日おめでとーう!!」」」

 沢山のクラッカーのはじける音と一緒に、アキラちゃんを始め、たくさんの方々が笑顔で私を迎えてくださいました。

「こ、これは… ?」「誕生日おめでとう、キアラ」

 私が状況を飲み込めないでいると、後ろからユウさんが、その優しい声で私の誕生日を祝ってくれます。
 そこで、初めて今日が私の誕生日だったことを思い出しました。
 いつものスタジオが、色とりどりの風船や飾りで装飾され、壁には大きく『HAPPY BIRTHDAY』と書かれ、テーブルには沢山の美味しそうな食べ物やケーキなどが並べられていました。

「キアラ、待ってたよ! って、あれ? どうして泣いてるんだキアラ!?」

 アキラちゃんが1番に私の元に駆け寄って、私の手を引こうとしますが、私が嬉しさ感動とで、涙が後から後から溢れてきて止まらなくなっているのを見て、驚きの声をあげます。

「…ッく… こんなに… 何ッ、で… 」「まさか、ユウ!? てめぇ、またキアラに何かしたんだろ!!?」
「えぇッ!? いやいや! あー… まさか、さっきのゲーセンでのあれが泣くほど嫌だったのか… 」「あれ程キアラに手を出したら許さないって言ったのに… お前はーッ!?」
「違うのーッ! もうアキラちゃん、いい加減にして!!」

 普段、あまり声を荒げない私がアキラちゃんを大声で起こるのを見て、パーティーに集まってくださった方々が一瞬驚いて止まりますが、直ぐに笑い声へと変わりました。

「ささッ、2人ともこんな入り口で立ち止まってないで早く中に入って〜ん」

 アキラちゃんの後ろから、マリーさんがシャンパンの入ったグラスを片手に私とユウさんをスタジオの中へと案内してくださいました。

「じゃあ、主役も揃ったことだし乾杯するわよ〜ん!」「「「はーい」」」
「それじゃあ、キアラちゃんの誕生日を祝して、乾杯〜〜ッ!!」「「「乾杯〜〜ッ!!」」」

 ドラムのナミさんに渡されたグラスを小さく掲げて、私に向かって乾杯をしてくださる皆さんに応えます。

「キアラ誕生日おめでとう、乾杯」「はッ、はい! ありがとうございます、乾杯… 」

 ユウさんと私のグラスが軽く触れ、綺麗な音がしました。そんな些細なことで嬉しくなってしまう気持ちを隠すように、グラスの中のシャンメリーを一気に飲み干しました。












「んッ!? これシャンパンじゃないですか!? ちょっとナミさん? もしかして俺にお酒渡したんですか!?」

 キアラと乾杯をして、一口飲んだところでアルコールだと気付いてすぐに吐き出した。

「え、あれー? 間違えちゃったみたい」「もう… すぐ気付いたからよかったですけど… 俺はまだ未成年なんですからね?」

 既に空になったグラスを両手に持ったナミさんは俺に指摘されて素直に謝ってくれたが、ほんのりと赤く染まった顔でニヤニヤしているので、もしかしたらわざとかもしれない。

「ほんとごめんな、ユウ〜! それよりさ〜… 」

 そのままナミさんは俺の肩に腕を回して、ガッチリとホールドし耳元に囁きかけてくる。

「キアラとはどこまでいったんだよ?」「はぁッ!?」
「チューくらいはもうしたんだろ?」「ちょっとナミさん!? 何言ってるんですか!? 俺とキアラはそんな関係じゃないですって!」
「とぼけんなよ〜、誰がどう見ても相思相愛のお似合いカップルじゃんかよ〜!」「違いますって! てか、ナミさん酔ってるでしょ!? 酒臭いですよ?」
「シャンパンを10とか20引っ掛けたくらいで酔っ払うほど柔な女じゃねぇよ〜!」「飲み過ぎだよッ!!」

 酔っ払ったナミさんを振り解こうともがいていると、丁度目の前にキアラがやって来たため助けを求める。

「あ、キアラ! 良かった、悪いけどナミさんを引き離すの手伝ってくれないかな?」「… フフフッ… ヒっく」
「キアラ…?」

 明らかにキアラの様子がおかしい… そして、その手に持っている空のグラスは何かな?

「ナミさん? まさかとは思いますけど、キアラにもシャンパン出したりとかしてないですよね?」「えへへへ、出しちゃった」
「おいーッ!?」

 ナミさんにガッチリとホールドされた俺に向かって、キアラがまるでゾンビが獲物を見つけたかのようにジリジリとにじり寄ってくる。

「ユウひゃん…ック」「き、キアラ?」

 そして、俺のシャツの胸ぐらを両手でガッシリ掴むと、前後左右へ激しく揺さぶり始めた。

「ユウひゃん… ッくは、わたひのことをどうおもってック、るんですかーッ!!?」「どうって! いわれてもぉーッ!?」
「わたひック…は、こんなにユウひゃんのことがだいしゅきなのヒック… に、ユウしゃんは!ユウひゃんはック…!うぇええ〜んッ!!」

 キアラはそう言い終わると、そのままぺたんと膝から床に座り込み大声で泣き出してしまった。

「えッ!? あれ? キアラ? キアラさん!?」「あ、ユウがキアラ泣かした。マリーちゃん、ユウのやつがキアラを泣かせましたよ〜?」
「あ゛ーッ!? ちょっとナミさん何てこと言うんですかッ!?」「あら? それは聞き捨てならないわね〜、いくらユウくんでも、アタシの大事なキアラを泣かせたら… ただじゃ済まさないわよ!?」
「ひぃーッ!!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

 一瞬、マリーさんが戸◯呂100%に見えて、必死に謝り倒す。

「うふふ、嘘よーん! どうせ、ナミちゃん辺りにお酒でも盛られたんでしょ? もー、ダメよ〜? アタシがいくら警視庁に顔が効くからって犯罪はダメですからね〜ん!」「はーい、ごめんなさ〜い」

 ホッ… どうやら俺の命は免れたようだが、警視庁に顔が効くって、マリーさんは一体何者なんでしょうか? むしろ、そっちの方がよっぽど怖いんですけど…

「私はともかく、キアラちゃんを泣かせたら、アキラちゃんの方が黙ってないんじゃな〜い?」「はッ!?」

 そうだ、キアラに何かあればアキラが飛んでくる! 今の状況をアキラが見れば、問答無用で拳が俺の腹を抉るに決まっている!
 俺はアキラの所在を部屋の中を物凄い勢いで見回して確認するが、どうやらアキラはこちらの様子などは全く気にしていないようだった。
 しかし、それにしてもアキラの様子がおかしい…

「あれー? 何だこのジュース? 甘くないし、飲んだら何かフワフワする〜 私、浮いてるみた〜い」

 空っぽになったグラスを持って、辺りを千鳥足で歩き回るアキラは、間違いなく酒を盛られてしまったのだろう。

「ナミさん、流石にやり過ぎです、怒りますよ!」「ひぃぐぅ〜、ごめんよ〜… 」

 おいたが過ぎるナミさんをちょっと強めに嗜めると、自ら俺への拘束を解き、フェードアウトしていった。

「も〜う、ナミちゃんったら… 良い子なんだけど、酒癖が悪くてねぇ… 」「俺にも身近に似た人がおりますので、扱いには慣れてますから… 」

 グラスを片手にこちらに近付いてきたマリーさんが、ナミさんのことで少し困った顔をする。
 マリーさんには、身近な人が水戸さんだと言うことは伏せておこう。あと、ナミさんの酒癖の悪さなど比ではないということも…

「じゃあユウくん、悪いけどキアラちゃんをソファーまで連れてってあげてくれない?」「分かりました。 キアラ、ちょっと移動しよう、立てる?」

 マリーさんに頼まれて、俺の足元に座って泣きじゃくっているキアラに声を掛けるが、どうも動けなくなってしまったようで、何度か立ち上がろうと脚に力を込めるけれど、途中で力尽きてしまいまた座り込んでしまった。

「それなら… 」「ひぅッく! ユゥひゃん!?」

 俺はキアラの肩と膝を持ち、両手で抱えるようにしてソファーまで運んだ。
 つまりは“お姫様抱っこ”というやつだけれど、やってる俺の方が恥ずかしいので敢えて突っ込まないでほしい。

「キアラ、少し落ち着いた?」

 キアラをソファーにそっと優しく降ろし、顔色を伺うと、目の周りは赤く腫れているものの、さっきまでの大泣きは治ったようだった。

「はい… ック… ご迷惑をお掛けしました。もう、大丈夫でッ、す」
「そっか、ならここで少し休んでて、俺はどっか別のところに… 」「待って… ください… 」

 そう言って、ソファーから立ち上がろうと腰を上げると、軽く服の袖を引っ張られて、もう一度ソファーに座り直して、キアラを見る。

「もう少し、私と一緒にいてくれませんか…?」「でも、俺がいるとまた泣き出しちゃったりとか… 」
「ユウさんが何処かへ行ってしまったら、もっと泣いちゃいます!」「わかりました!」

 俺は、まだ大泣きの余韻が残るキアラを横目に、誕生日パーティーの会場をゆっくりと見回す。
 今日は1日、ずっとキアラと一緒に行動していて、この時まで一緒にいたら流石に偉い人から怒られてしまうんじゃないかと不安になるが、俺と目が合ったマリーさんは、首を傾けながら破壊力抜群のウィンクを飛ばしてきているから、このままキアラといても怒られることはないのだろう。

「あはッ! ユーシ! 私に会いに来てくれたのか? ぐふふふふッ! 嬉しいなぁ〜!」

 それに、いつもガップレのユウの時の俺を目の敵にするアキラも、ナミさんに盛られたお酒で潰れてしまって幸せな夢を見ているようだし、背後から蹴られる心配もない。
 しかし、このような状況に置かれてしまうと、逆にどうすればいいのかわからなくなってしまって、パーティーの賑やかな音が2人の間の沈黙をより一層重いものにさせる。
 仮にもこのパーティーの主役はキアラなのたから、誰かキアラに話し掛けに来てくれてもいいようなものだが、先程から空気を読んでいるのか、誰も近付こうとはしない。
 それどころか何故かマリーさんの顔色を伺っているような… まさか、マリーさんの仕業か!?

「… ート… 」「え?」

 どれくらいの時間が経ったか、突然キアラが口を開き、今にも掠れそうな声を振り絞って話し掛けてくれた。

「ユウさんとのデートは… いつまで有効なのでしょうか…?」「考えてなかったけど、このパーティーが終わるまでかな… 」
「じゃあ、まだ私とユウさんはデート中ですね… 毎日が誕生日だったらいいのにな… 」「そしたら、あっと今に100歳になっちゃうよ?」
「そうですね、それは困ります… 」「あ、そうだ誕生日プレゼント! 本当はさっきキアラと一緒に選んでプレゼントする予定だったのに、ごめんね… プレゼントならまた今度… 」
「プレゼントはいりません。今日1日、ユウさんとデートできたことが何よりの誕生日プレゼントですから… 」「でも… 」
「それなら、プレゼントの代わりに私のお願いを聞いてくれませんか?」「お願い?」
 キアラが改まってお願いすることとは何だろうか? また楽曲の提供とかだろうか?

「… ユウさんのお面の下の素顔を、私に見せてくれませんか…?」

 そう言って、俺の顔を真っ直ぐ見つめるキアラの顔は今までに見た事がないほど真剣な表情をしていた。

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