マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔を出すの? 出さないの? いえ両方です 15

「華さんすっごく似合ってますよ!?」「そ、そうかな…?」
「ほらお姉ちゃん、早くしないと勇志さん待ってるよ?」「でっ、でも恥ずかしくて…」

 メイド服を脱ぎ、いつもの制服に着替えた俺はカーテン越しに聞こえてくる3人の少女の声を聞きながら化粧を落としている。
 女の子っていつもこんな感じで着替えるのだろうかと、少しムフフな妄想してしまうのは内緒だ。

「いーからいーからカーテン開けますよ!」「ダメ! ちょっと待って!! あッ!?」

 準備ルームから出てきた花沢さんと美乃梨ちゃんと愛美、先程までと違うのは3人ともメイド服を着ているということだ。

「うひょーッ! いいねー! みんないいよーッ!!」

 いつの間にか小畑が何処からかやってきて3人の周りを飛び跳ねながら、スマホで写真を撮っている。
 あれ? 小畑のやつ、いつの間にスマホ直ったんだ?
 それにしても3人ともメイド服がよく似合ってる。
 美乃梨ちゃんは最初に会った時、そのスタイルの良さから花沢さんのお姉さんか何かだと思ったけど、まさか花沢さんの妹だとは…
 成り行きでメイド服を着てお店を手伝ってくれることになってしまったけど、メイド服も様になっている。
 愛美は性格に目を瞑れば、アイドル並みの可愛さを持っているため、メイド服も当然ながら似合っている。兄の俺が言うのも変な話だけどな。
 そして、花沢さん…
 まさかあの花沢さんのメイド服姿が見れる日が来ようとは…!
 最初に会った時は顔面にボールをぶつけられ、とことん無視されて、それでも放って置けなくて、やっと男性恐怖症を克服して仲良くなれて… ぅうっ…
 あれ?涙が…
 あれかな、娘が嫁入りする時の父親の気持ちってこんな感じなのかな…?

「い、入月先輩… どうですか? 似合ってますか?」「… うんッ! すっごく似合ってるよ…! ぅう…」

 恥じらいながらも俺の前でくるりと一周して感想を尋ねてくる花沢さんを見て、つい涙腺が緩む。

「何で泣いてるのお兄ちゃん?」「ねぇ愛美? 愛美のお兄ちゃんって、いつもあんな感じなの?」
「えーと、まあ割とあんな感じ…」「私、お姉ちゃんが心配になってきたかも」
「えぇ!? 確かにバカでアホでマヌケだけど、悪いヤツではないからッ! 安心して美乃梨!」「今の台詞で余計に安心出来ないんだけど」
「あはは…」

 いつものように愛美が俺の悪口を言っているが今の俺にはノーダメージ。目の前にメイド姿の花沢さんがいるからな!
 小畑… 後で花沢さんの写真送ってくれないかな… スマホ折ったことは謝るから。

「さあ!勇志くん、急いで2人を探さないと!」

 義也が教室の入り口で俺のことを今か今かと待ちわびている。そうだ、超人気アイドルのアキラとキアラが2人だけで学校内をうろついているんだった、のんびりはしていられない!

「じゃあ花沢さんと美乃梨ちゃん、2人とも悪いけど店番頼むね、このお礼は必ずするから!」
「入月先輩、気にしないでください! 私、先輩の代わりをしっかり務めますから!」
「ちょっとお兄ちゃん!私はッ!?」「愛美は常に貸ししかないだろ? たまには兄に恩返ししなさい」
「ちぇー」
「じゃあ委員長も後は頼む! また後で!!」

 そう言い残して俺は教室を飛び出したのだった。










「なぁキアラ~、もう諦めたら~?」「諦めない!ユウさんはきっとどこかで学園祭を満喫しているに違いないもの!」

 学校に来た時と同じく完璧な変装をした私とキアラは、学園祭で賑わう構内を2人で歩いている。
 どうしてユーシの言いつけを聞かずにこうして出歩いているのかというと、キアラがどうしてもガップレのユウと学園祭を2人で回りたいと言って、1人で控え室を飛び出しそうなところを私もついていったからだ。
 キアラはアイツのことになると本当に積極的だよな~。
 まあでも、私もユーシに待ってろって言われてなかったら、すぐに控え室を飛び出してユーシを探しに行くだろうし、キアラに強く言えないか。
 しばらくキアラの後に付いて行くと、とある教室の前で急にキアラが立ち止まる。

「キアラちゃん、見て! あそこッ!」

 キアラが目を細めて指差している看板。そこには確かにユウが被っているお面の絵が書いてある。
 だけど、これって…

「お化け屋敷って書いてあるんだけど…? 多分違うんじゃない…?」
「でも、もしかしたらここにいるかも知れないでしょ!?」

 いつになく真剣なキアラの表情から、これは何を言っても聞かないだろうと容易に想像がついてしまう。

「そこまで言うならわかった、じゃあ私はここで待ってるからキアラ1人で…」
「さあ、早く行くよ!? アキラちゃん!」

 ガバッと私の腕を掴み強引に引っ張るキアラ。
 え!? 全然解けないッ!? キアラこんなに力強かったっけ!?

「ちょっと!? アタシは行かないからね!? 行かないってばーッ!!」

 私の必死の抵抗も虚しく、あっという間にお化け屋敷に引きずり込まれてしまった。

「う…ううッ… ひッ!?」「ちょっとアキラちゃん!? そんなにくっ付いてたら歩きにくいよ」「だ、だって~…」

 学園祭のお化け屋敷なんてたかが知れていると自分に言い聞かせているけど、薄暗い教室と狭い通路、鼻につく線香の匂いが、分かってはいるのにどうしても怖いと思ってしまう。

『ガタンッ!!』
「きゃッ!! なになになになになにぃ!?」「ただの物音だよ、アキラちゃん…」
「ふっ、ふーん! なーんだ!ちょっとばかし驚いちゃったじゃないか!」
「もしかしてアキラちゃん… お化け苦手だったの?」「……… ぅん」

 今までずっとキアラにも内緒にしていたのに、こんな形で知られるとは思ってもなかった。なんかわからないけどすごく恥ずかしい…

「うわァア!! お化けだぞぉオオオオオ、ぐワぁアアア~ァアーッ!!」「ぎゃァアーッ! 出たーッ!!??」

 突然、背後からのお化けの襲来にパニックになり、頭が真っ白になる。

「来るな来るな来るな来るな来るな~ッ!!!」

 怖くて目は開けられないけど、無我夢中で手と脚を出してお化けに対抗する。
 手と足の先が人の身体にヒットする感覚があるから恐らく私の攻撃は当たっているはずッ!!

「ぶッ!ぐはッ!だはぁ!ぎゃふ! ちょっ… ぶぐッは!? 待って、あべぇえしッ!!!」

 手と足に感じていた柔らかい感覚がなくなり、恐る恐る目を開けると、お化けの格好をした人が仰向けに倒れていた。
 しかもよく見ると、これガップレのユウのお面じゃないか?

「ゆ、ユウさん!? 大丈夫ですか!?」

 キアラが急いでお化けの元に駆け寄る
 まさか私、やっちゃったのかな?

「大丈夫じゃないっすよー! いててて、いきなり何すんですかーッ!?」

 のっそりと起き上がったお化けがお面を脱ぎながら私を見上げる。

「あー… えっと… 」「あの! ユウさんと間違えちゃいますから紛らわしいことをするはやめて下さい!!」
「え? えぇ~…」

 そう言い放ち、先へ進んで行こうとするキアラに置いて行かれないように付いて行く。
 何にも悪いことしてないのに、私には殴られ蹴られ、キアラには怒られて散々だなお化け…   はあ… 私も早くユーシに会いたいな…








『ぎゃあ~ッ!!!』

「ん? 今の叫び声はアキラの声か!?」

 義也にkira☆kiraが控え室からいなくなったという話を聞いた俺は、クラスの店番を花沢さんたちに任せてkira☆kiraの2人を見つけるため、義也と手分けして校内を探し回っているところだった。

 ちょうど1年の教室でやっているお化け屋敷の前を通り過ぎた辺りで、アキラの叫び声のようなものが聞こえ、辺りを見回す。
 しかし、俺が探していた人物ではなく、見覚えのある金髪セミロングにミニスカートの女の子を発見してしまう。

「勇志!? きっ、奇遇ねこんな所で…」

 男子の視線を釘付けにしながら俺の元に歩いてきた女の子は、どこかよそよそしい態度だった。
 それもそのはず、そもそもこいつは六花大付属の生徒じゃない。

「奇遇も何もここは俺の高校だっての、もしかして、わざわざうちの学園祭を見に来てくれたのか、西野?」

 神無月学園2年の西野莉奈。
 自己主張をしないお胸は目を瞑るとして、相変わらずのスタイルの良さと可愛さだ。
 それを際立たせるように、短かい制服の丈から見え隠れするおへそが俺を惑わす。
 そんな西野を通り過ぎる男子がチラチラと鼻の下を伸ばして見ているが、お前らの気持ちはよく分かるがあまりやり過ぎると血の海を見ることになるぞ?

「そっ、そうよ!! だから別に勇志に会いに来たわけじゃないんだからね!?」

 どこのツンデレですか? 西野さん… 勘違いしちゃうから止めてくれます?

「わかってるよ、それより西野はもう委員長には会ったのか?」
「時雨のこと? まだ会えてないの。折角だから会いに行こうと思ってるんだけど、ちょっと迷っちゃって…」
「まだうちのクラスにいるはずだから、ここから見えるあそこの階段を登れば簡単に行けるよ」「あそこってどこよー?」

 確かにここからだと人が多くて、2年の教室に続く階段が見えないな。
 このまま西野を1人で行かせてもいいけど、いつかみたいにナンパ男に絡まれてボッコボコに返り討ちにしてしまったら、そいつの命が危ない…
 ならいっそのこと教室まで西野を送って行き、委員長に面倒見てもらった方が安全か… 
 それに西野にメイド服を着てもらって店番もしてもえば一石二鳥…
 上手くいけばガップレのライブ時間も抜け出せるかもしれない!

「あー… よし!わかった、案内する!」「いいの!? ありがとう勇志」

 西野を連れて、一旦自分の教室まで戻ると、執事&メイド喫茶の待機列が廊下の端っこで折り返して階段にまで差し掛かっていた。

「ここが勇志のクラス? 随分大盛況なのね」「さっきはここまでじゃなかったんだけど、一体何が…?」

 その答えは教室の中に入った瞬間にすぐに理解することができた。

「あ、入月先輩! お帰りなさいませ。お早いお帰りですね?」「勇志!? どこ行ってたのよ! 折角一緒に学園祭を回ろうと思って呼びに来たのに… 」
「歩美!? どうしたその格好!?」

 すっかりメイドが板に付いた花沢さんに、お帰りなさいませと言われ喜んだのも束の間、花沢さんの後ろにはこれまた同じメイドの格好をした歩美が立っていた。
 そして驚く俺に文句を言うために近付き耳元で囁いてくる。

「愛美ちゃんに脅されたのよ… 華さんがメイド服を着て勇志の為に頑張ってるのに、歩美ちゃんはそのままで良いんですか?って… だから私、ついムキになっちゃって… 」

 そう言って困った顔をする歩美は、メイド服の所為もあるのか物凄く可愛い…
 いつものデカぶち眼鏡と黒髪が、メイド服とカチューシャによって、より一層歩美の美貌とスタイルを強調している。

「愛美のやつ… 何てことをしてくれたんだ…!」「勇志… 何で嬉しそうな顔をしているのかな?」
「してない!してない!まったく我が妹ながら何て酷いやつだ!」

 なるほど、これだけ学校を代表する美人たちがメイド姿でご奉仕してるとなると、あれだけ並んでいるのも頷ける。
 歩美や花沢さん、委員長のメイド姿を一目でいいから見たいという気持ちは俺にもよーくわかるぞ。

「歩美!すっごく似合ってるじゃんその服!」「莉奈? 来てくれたんだありがとう~!」

 俺の後ろにいた西野が、タイミングを見計らって歩美に話しかける。
 久し振りに会うのか、2人とも凄く嬉しそうに話している。それにしてもこの2人が並んでいると本当に絵になるな~。

「莉奈、勇志と一緒だったの?」「うん、さっきばったり会ってここまで案内してもらったの」
「ふ、ふーん… 勇志と2人きりで、ね…?」「ん? そうそう2人きりで… ねー勇志、楽しかったよねーッ!?」
「え? 楽しかったも何も、教室まで案内しただけだろ!?」

 何だ? どうした? だんだん険悪なムードになってきてませんか、2人とも?

「いーの! 案内でも何でも、2人きりだったことには変わらないでしょ!?」
「莉奈… いくら莉奈でも勇志にあんまり近付いたらダメなんだからねッ!? 大体、莉奈はいつも露出が激しいから勇志には刺激が強過ぎるのよ!」
「べっ、別に勇志のために見せてるんじゃないんだからね!? こういう方が動き易くていいの! でも、勇志が見たいなら別に見ても… 良いけど…? なんちゃって…」
「ダメっ勇志、目の毒だから見ちゃダメ!」「目の毒って何よーッ!?」

 歩美も西野も、さっきまであんなに仲良かったのに、なんで急にこんな言い争いになってるんだ?
 そして何故俺が巻き込まれている!? 完全にとばっちりじゃんか!?
 とッ、とにかくお客さんの迷惑にもなるし止めるか…
 そう思って2人に声を掛けようとすると、愛美が強引に2人の間に割って入っていく。

「まあまあお二人とも、私に良い考えがありますよ!」
「ま、愛美ちゃん!?」「いいわ、聞かせて!」

 そう言って何やら3人でコソコソ話している。まあ何しようが喧嘩さえ止めてくれれば俺はそれで構わないけど。

「いいですか? お兄ちゃんの好きなタイプは、お淑やかで気配り上手で、大和撫子みたいな人がタイプというのは広く有名な話です」
「確かに… 勇志の部屋の引き出しの裏に隠してあるエッチな本も清楚系だったわね」「なんで歩美がそんなこと知ってるのよ!?」
「まあまあ、そこでですよ! 莉奈さんもメイド服に着替えてもらって、執事&メイド喫茶での接客態度で判断して、誰が1番お兄ちゃんが好きな大和撫子タイプか決めましょーう!!」
「いいわ、望むところよ!」「受けて立つわ!」
「あのッ! 私も参加しても良いですかッ!?」

 あれ? いつの間にか花沢さんまでコソコソ話の輪に加わってるぞ?
 一体これから何が始まるんだ?

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