マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顏を出すの? 出さないの? いえ両方です 10

「ここがユーシの家かー… 何か想像した通りの家って感じだなー」

 リビングテーブルに出された紅茶のカップを弄りながら、一通り部屋を見回したアキラがふと呟いた。

「ごめんなさいね~、普通の家で」

 空いた紅茶のカップを下げに来た母さんが、申し訳なさそうにアキラに微笑みかけるが、慌ててアキラが否定する。

「違います、違います! 何ていうか理想の家っていうか、あったかい感じがするっていうか、とにかくいい意味です!」
「私も、いつかこんなお家で暖かい家庭を築きたいです」
「そうなの~、ありがとーう。今日はゆっくりしていってね~」「は、はいッ!!」

  アキラとキアラが暖かい家と称しているこの家は入月家、つまり俺の家である。
 そしてなぜ世界のスーパーアイドルkira☆kiraのアキラとキアラが家にいて、俺の母さんと仲睦まじく会話をしているのかというと、生徒会長の九条麗華が俺の家に泊まりたいというアキラの意見をあっさり承諾したからである。
 その事実が発覚した時、急いで生徒会室に向かったが、既に会長の姿はなく、ドロンされた後だった。
 観念した俺はアキラとキアラを家に止めることにしたのだが、それから帰るまでがまた大変だった。
 世界のスーパーアイドルが、帰り道で誰かに見つかってスキャンダルにでもなれば、一緒にいる俺まで巻き込まれてパパラッチの執拗な監視と詮索にあい、俺がガップレのユウであることがバレてしまうかもしれない。
 そうなれば、俺が今まで平穏な日常のために素顔を隠してきた意味がなくなってしまう!
 そこでまず、アキラとキアラを変装させることにしたわけだが…


「キアラー、どうかな?」「アキラちゃん可愛いーッ!! 制服すごく似合ってるよ!!」
「そうかなー? キアラの方が似合ってて、すっごく可愛いぞ?」「本当に!? ユウさんに後で写真送ろうかな…」

 ありがとうキアラ、すぐに保存してバックアップとって待ち受けにします。
 2人ともお世辞にも可愛いとは言えない六花大付属高校の普通の制服を見事に着こなしている。
 さすが世界のアイドル、何を着させても様になってるな。
 後は髪型を変え、メガネを掛けたりして、変装をしてもらえば大丈夫だろう。
 本人たちは乗り気で普段なら出来ないことを楽しんでいるようだったが、俺はその後、行く先々で制服を借りたり、小物を借りたりするために頭を下げまくったりと中々大変だった。
 ともあれ、地味っ子眼鏡スタイルに変装したアキラと、これまたツインテールの元気娘に変装したキアラを連れて、無事に家まで帰って来ることができたのだが…

「ここからが本当の戦いだな…」
「勇志さんなにか言いました?」「いや、別に何も!!」

 つい口に出てしまった言葉にキアラが反応するも、よく聞こえなかったようで助かった。
 アキラとキアラに俺がガップレのユウだってバレないよう、一晩俺の家で過ごしてもらうとか、そんなこと本当に出来るのだろうか?
 ハードモードを越えて、勇志マストダイモードだな、これは…
 一応、母さんには帰ってきて事情を説明すると同時に俺がガップレのユウであることは秘密で、と言っておいたから心配ないだろう。
 あとは妹の愛美も同じように口止めしておくため、携帯を取り出し文章を打ち込む。
 しかし、ちょうどその時に玄関のドアが勢い良く開く音が聞こえた。

「たっだいまーッ!!」「はッ!?」

 この声は、愛美か!もう帰って来たのか!?

「あれ? お客さん来てるの? いらっ…」

 リビングに入ってきた愛美がアキラとキアラを見てフリーズする。そりゃあまあ、世界のアイドルkira☆kiraが2人揃って家のリビングで寛いでいたら、誰だって驚くわな。

「お邪魔してます、月島キアラです」「おかえりー、さっき言ってたユーシの妹ちゃんかな?」
「えーーーーッ!!?? ななななな何でkira☆kiraのアキラちゃんとキアラちゃんが家にいるのッ!!??」

 一体何が起こっているのか理解できてない様子の愛美は、今にも意識がどこか別の所へトリップしてしまいそうなほどに興奮している。
 リビングの椅子から立ち上がった俺は、愛美とキアラの間に入り、取り敢えず妹の自己紹介を始める。

「こいつは妹の愛美、歳は15で中学3年だ。明るくていつも元気なのが唯一の取り柄の俺の妹だ」
「ちょっとッ、お兄ちゃん!? もっとちゃんと紹介してよ! 相手は世界のアイドルkira☆kiraなんだよッ!?」
「わかったわかった、少し落ち着けって。2人ともごめんな、こんな五月蝿い妹で」
「いえ、とっても可愛い妹さんですね」「それに私らに会う人は愛美ちゃんみたいな反応をするのが普通なんだけどね」

 はッ!? しまったーッ!! いつもガップレのユウの時に2人に会っているから、初対面の時の感動を表現するのを忘れていた!

「お、俺も最初に会った時は小刻みに震えたよ…?」「へー、そうなんだ! ちょっと嬉しい…」

 嘘は言っていない、だっていつバレるかヒヤヒヤしてたもの。

「あッ! わかったーッ!!」

 突然、愛美が自分の掌の上をポンと叩いて大声を上げる。

「一体どうしたのかな?愛美さん」 「kira☆kiraの2人が家にいるってことは、お兄ちゃんがガップ… ッグ、ムムムムッ!!?」「はい、ぜんっぜんわかってませんからー!!」
  危うくカミングアウトしかけた愛美の口を急いで塞ぎ、部屋の隅に引っ張って行き小声で耳打ちする。

「ふぉっと! ふぉにいひゃん!? ふぁによッ!」
「(いいか愛美よく聞け、2人は俺がガップレのユウだって知らない、前のガップレの会議の通りアキラのアプローチが強くてこうなった。とにかく、今はくれぐれも内密に頼む)」

 口を押さえられたままの愛美は俺の話を聞くとウンと大きく頷き、右手でOKサインをする。
 それを見て愛美の口を開放すると、すぐに愛美がニヤけ顏をして、俺を肘で小突いてくる。

「(ヒュー! やるね~、お兄ちゃん! 私はこのままアキラさんと上手くやって、世界のアイドルの義理の妹とかになっちゃっても全然良いんだけどなー)」
「(ばーろう、どう考えても俺のことを誤解してるだろ? だからちゃんと俺のことを知ってもらって、思ってたのと違かったって考え直してもらうんだよ!)」
「(私はそうは思わないけどな~)」「へ?」
「(ううん別に~、愛美、了解しましたッ!)」「すまない、頼んだぞ!」 
 その後は特に問題もなく時間が過ぎていった。



……
………
  

はずなのに…

「あ、あれ?」

 俺の部屋、俺のベッド、そこで横になっている俺。
 そこまではいい、だけどなぜ? WHY?
 どーして一緒のベッドでアキラが寝ているんだーーーッ!!??
 これ、ダメなやつだから! 越えちゃいけないラインを軽くスキップしちゃってるやつだから!!

「んんっ、ユーシー… ふひひニャム」

 寝言と一緒に寝返りをうったアキラが、仰向けに寝ている俺に寄り添うな形になる。
 ああああああ足が、足と足ががが… かッ、絡み合ってッ!! はぅッ!?
 今度は、ててててて手ぇ!? きき際どい!! だッ、ダメ~ッ!! それ以上は!!
 まるで抱き枕でも抱いているかのように、アキラの腕と脚が俺の身体を求めてくる。
 いかーん!! 落ち着けぇーいッ!! 一度話を整理しよう! そうだ、そうしよう!!
 俺は身体中から伝わってくる女の子特有の柔らかさといい匂いから意識を逸らすように、自分の記憶を辿ることにした。

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