マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔出し中は好きにやらせていただく 11.5

  歩美が俺と西野と一緒ゲームの大会に出ると言ったのその日、ゲーセンで西野と別れた後、急に降り出した激しい雨をしのぐ為に、帰り道の途中にある公園の屋根のあるベンチに駆け込み、歩美と2人で雨宿りをしていた。

『勇志が私のことを必要としてるんじゃなくて、私が勇志を必要としていた』

 あの言葉こそが、歩美が笑顔に下に隠していた本当の気持ちなんだろうか?
 今はもう歩美が泣いていたのか、それとも雨で泣いているように見えただけなのかはわからない。

「当分止みそうにないな、この雨」

  何となく今の雰囲気を変えたくて、もう1人、間に座れそうなほどスペースを空けて隣に座っている歩美に話題を振った。
 いつもなら歩美の方が話を振ってくれるのだが、今の歩美は俺が振った話にも反応がなく、この雨の所為で聞こえなかっただけかも知れないと思い、もう1度口を開きかけた時に、俯いていた歩美から返事が返ってきた。

「… 私、今でも雨、好きだよ」

 少し間が空いたが、いつもと変わらないトーンで話し返してくれた。
 しかし、逆にそれが無理をしているように思えてしまう。特にそれが歩美のお母さんとの思い出となると尚更だ。

「歩美のお母さんも雨好きだったよな、確か俺と歩美が出会ったのも、こんな雨の日だった… 」

 たしか、俺が病棟を間違えて、歩美のお母さんが入院していた病室に入ったのが、歩美に出会うきっかけだったんだよな。

「あの日、勇志と出会ってなかったら今の私はないと思う」「大袈裟だな、そんなことないよ」

 あの時はたまたま俺が傍にいただけで、もし、あの時俺がいなかったとしても、きっと歩美は自分の力で乗り越えられたと思う。
 俺が歩美にしてあげられたことなんて、歩美の側にいて見守ることだけだったから…
 だから、今の歩美があるのは俺の力ではなく、歩美自身が築き上げて来た結果に他ならない。

「勇志はあの時の約束を守ってくれた。私に希望の歌を歌わせるって言ったその日から、音楽なんてやった事もないのにギターを始めて、独学で音楽の勉強をして、最高の音楽を奏でる場所としてGodly Placeを結成して、あっという間にメジャーデビューして、沢山の人たちに私の歌を届けることが出来た」
  あの時、歩美と約束した言葉は本気だった。 
 面倒見がいいを通り越してお節介だけど、誰にでも分け隔てなく接して、笑顔で元気一杯の歩美が、お母さんを亡くして悲しい歌を歌っている姿を見て、俺は思ったんだ。
  触れたら崩れてしまうんじゃないか。でも、このままじゃ壊れてしまいそうだから、壊れないように、でも触れないような距離を保って、彼女を見守ろうと決めたんだ。

「あの時の約束が私と勇志を繋いでた!その約束があったから、今までずっと頑張ってこられたんだよ?」

 雨の音に掻き消されそうだった歩美の声が、雨に負けないくらい徐々に強くなっていく。

「あの約束は俺と歩美を繋ぐための約束じゃない… 壊れてしまいそうな歩美を守るための約束だったんだ… 」
「私はもう大丈夫だよ? 壊れたりなんかしない。だから、私の気持ちに向き合ってよ… いつも勇志は側にいるけど、隣にはいない。手を伸ばしても届かない! 私は! 私は勇志の隣にいたいの! 寄り添って、助け合って、ずっとずっと一緒に… 」

 今ならはっきりと分かる。雨にあてられた所為じゃなく、歩美は本当に泣いているんだと。
 何となくわかっていた、けど気付かない振りをしていた。
 もし歩美に触れてしまったら、あの時みたい壊れてしまうんじゃないかと怖かったんだ。
 その気持ちは今でも変わらない。

「私は… 私は勇志が好き、初めて会った時からずっと、ずっと… 勇志のことを… 」
  俺は、 俺は歩美のことが….

「ごめん… 俺は… 」

 本当は違うんだ…

「歩美を助けられない… 」「もう充分助けてもらったよ?」

 そうじゃないんだ…

「歩美の隣にいる資格がないんだ… 」「わかんないよ… 勇志の言ってることが…」

  同時に思ってしまったんだ… 壊れそうな歩美を見て、俺は…

「あの時の… 今にも壊れそうな歩美を見て、俺は… “綺麗”だと思ってしまったんだ!!」
「え…?」
「だから、俺は… 歩美に好きになって貰える資格なんてないんだよ… 」

 俺が歩美にしてきた事は、ただの自己満足のための罪滅ぼしだ。
 あの時、あの丘で、満天の星空と町の灯りをステージに、今にも壊れてしまいそうな儚い、悲しい歌を歌う歩美を綺麗だと思ってしまった自分への贖罪だ。

「私は勇志を罪に定めない。だから勇志が背負っているものを降ろしていいんだよ?」「でも、俺は…!」
「今すぐじゃなくていいよ、少しずつでいいんだよ? 私が勇志の隣で、勇志を支えるから、だから全部降ろしたら、その時に、その時の勇志の気持ちを私に聞かせて?」

 それからしばらく、雨と涙はとどまることなく降り続けた。

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