マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔出しNGで新曲作ります 2

 放課後、隔週で 《Godly Place》のスタジオ入りが決まっているため、我が 《Godly Place》が所属するレコード会社である、《ミュージックハウス水戸》のスタジオで、ガップレの面々が全員集合していた。

 「さて、じゃあ何か話がある人いる?」「はーい、それじゃあ私が…」

 曲練習の前には、こうして5人全員で向き合って座り、近況報告や相談などを話す時間が必ずもたれる。
 と言っても、みんな同じ六花大付属高校に通う高校生で、大体の予定やスケジュール、学校行事などはお互いに把握し合っているため、この場で時間を取って話すことはあまりない。
 ガップレの唯一の女性メンバーであるミュアこと歩美だけは別で、いつも真っ先に口を開き、話し合いというよりは歩美の愚痴や小言を聞かされるのがお決まりになりつつある。
 しかし、今回は俺の方もみんなに報告しなければならないことがあった。

「あのー、俺からも1つご報告がございます」

 みんなの視線が俺に集まる。そもそもこの場で俺から発言することなど殆どなかったため、かなり不思議そうな顔をされている。
 1人だけ修羅場を期待しているような眼差しを向けてくるヤツがいるが気にしないことにしよう。

「じゃあ勇志、どうぞ」

 隣に座っている真純が俺の発言を許可する。こういう光景を見るとガップレのリーダーはマシュこと真純だと思ってしまうかもしれないが、一応リーダーは俺ということになっている。
 まあガップレを始めたのは俺なので、必然的にそうなってしまったのだが、リーダー的な役割は何ひとつ果たしていない。
 今行われている話し合いの司会も、誰もやらないので真純がやってくれていた。
 ガップレの方針や大事なことを決める最終決定権も、もちろん俺にあるはずもなく、そういうことを最終的に決めるのは歩美で、おそらく歩美はガップレの影のリーダーと言っても過言ではないだろう。
 メディアに出てインタビューに答えるのも基本的に全部歩美がしてくれているしな。
 少し話が逸れてしまったが、今回はまた厄介ごとを押し付けられてしまったのでその報告だ。

「実はバスケの件で生徒会に目をつけられてしまいまして、臨時補充要員として生徒会のパシリをさせられることになりました… 」

 義也の何それ面白そうという表情以外は、みんなまた厄介ごとに巻き込まれたのかというような、呆れ顔を向けられている。

「臨時補充要員だから、これから毎日ってわけでもないのよね?」「はい… 何かしらのイベントとか行事で人手が足りない時だそうです」
「まあ学校行事で忙しい時は勇志だけじゃなくて、俺らも忙しいからそんなに深く考えなくても良いんじゃない?」
「そうだね、勇志くんが忙しいってだけで済みそう」「ユウちん、ドンマイなのですぞ」

 確かに、俺が忙しいだけで、ガップレの面々もそれぞれ学校行事に何かしら関わるわけだから、ガップレの活動にはそこまで影響ないか…

「それなら心置きなくパシリが出来るわけだな… って、出来るかッ!」

 基本的にメンバーたちの俺の扱いは酷い。

「あ、僕からも皆に相談があるのですが~」「なッ!?」

 まさか、あの翔ちゃんが!? ヘビメタと2次元以外は興味ないあの翔ちゃんが… だと!?
 俺だけじゃなく他のメンバーも全員驚愕の表情を浮かべている。それだけ翔ちゃんが発言するということは、明日は雪が降るとかそう言う次元の話なのだ。

「そんなに驚かないでほしいのですぞ~。僕だってたまには発言くらいするのですぞ?」「そ、それで話って?」
「そろそろガップレでヘビメタという新しいジャンルを開拓していかないだろうかという提案ですぞ」

へビメタというと、ドラムはツーバスを響かせ、ギターとベースはチューニングを下げてガンガン歪ませて、ピロピロピロピロ早弾きをする、ボーカルは喉がおかしくなってるじゃないかというようなドスの効いた声で歌うというより叫ぶような、そんなイメージなのだが、間違ってはないと思う。

「うーん、さすがにうちのバンドじゃ厳しいんじゃないか? うちは個々の能力は高いから出来ないことはないと思うけど、今までポップスの路線で来ていたから、ここでいきなりへビメタの曲を演奏するのはガップレのファンの人達もハードル高いと思うな」

 たしかに真純の言う通りだ。
 ガップレはロックですらまだかじった程度で、ファンの間でも賛否両論飛び交う話だった。
 ガップレのメンバーおのおのがそれぞれ好きな音楽のジャンルが違い、俺はロックで歩美は洋楽、真純はジャズ、義也はポップスで翔ちゃんはへビメタという具合だ。
 ガップレが本格的にデビューするにあたって、万人受けするポップスを中心に曲を作ってきた。
 その中でもジャズや洋楽のテイストを取り入れたポップスはガップレの音楽として広く受け入れられたが、俺の好きなロックに寄せた曲は1部ファンを除いて絶大な支持を受け、また新規ファンを獲得するに至った。
 しかし、この1部ファンとロックを受け入れられたファンとの間に軋轢が生じ始めていて、ネット掲示板で討論になったり、動画投稿サイトのコメント欄でもお互いの主張を押し付けあったりということが目立つようになってきていた。
 この現状でへビメタというロックよりさらに聴く人を選ぶようなジャンルをガップレが演奏すれば、正しく火に油を注ぐようなものである。

「しかしですな、僕としてもそろそろポップスだけやり続けるのは我慢の限界なのですよ。本来、僕がガップレに参加しているのだって、このメンバーならへビメタを演奏できると思ったからですし」
「ガップレはポップスだけしかやらないなんて決まってないしな~」
 翔ちゃんの言い分も最もで、それに助太刀する形で言葉を重ねる。
 そもそも翔ちゃんがガップレに参加した理由は主にガップレでへビメタをするということだった。
 翔ちゃんは見た目こそ高3とは思えないおっさんのような外見にロン毛と汚い髭面だが、そのギターテクニックだけは1級品で、どのバンドも喉から手が出るほど翔ちゃんをメンバーに入れたがったほどだ。
 そんな数々のオファーを蹴り、翔ちゃんが選んだバンドがこの《Godly Place》だった。
 なんでも本人がさっき言ったようにガップレにへビメタの未来を見たとか何とかで、しつこくガップレに入れてくれと再三にわたって自分を売り込んで来たので、じゃあ仕方なくということで翔ちゃんがガップレのメンバーとして加わったのだが、それからまだ1度としてへビメタをガップレで演奏したことがない。
 むしろ今までよくポップスやジャズとかを一緒にやってくれていたなと褒めてあげたいくらいに俺は思っていた。

 「もうこの際、へビメタやったらダメかな?」

 と、俺からも援護射撃をする。

「さすがにいきなりはびっくりするからダメでしょ~」

 と、義也は乗り気じゃないようだ。

「ならへビメタもガップレ風にアレンジしてやれば良いんじゃない?」

 と、歩美がさも当然のように意見を述べる。

「へビメタが聴く人を選ぶなら、アレンジを加えて誰でも聴きやすいへビメタを作ればいい訳か… 確かにいい考えだな、翔ちゃん出来そう?」
「そうですな〜。 せっかくユウちんがいるのですし、サビは聴きやすくユウちんが歌って、それ以外のデス声は僕が担当すれば良いのですな、ふむふむ行けそうですな!」

 え? 翔ちゃん歌うんだ… とは全員が思ったことだろうが、あえて誰も突っ込まなかった。

「じゃあ、翔ちゃんには誰でも聴きやすいへビメタをコンセプトに曲を作って来てもらうことにしよう」
「「「意義なし」」」

 かくして、ガップレは新しくへビメタのジャンルを切り開くことになりそうです。
 一体どんな感じになるのか今から楽しみで仕方がない。
 その後は今後のガップレの活動予定と、曲練習をして解散となった。

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