マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔出しNGの事情があるのです 22

「もう! また神無月がメンバー交代」「これじゃあ入月先輩たちの体力が持ちません… 」
「それが神無月学園の作戦のようね」「そんな… お兄ちゃん…. 」

 後半戦に入り、時間が経つにつれて入月くんや、コートにいるメンバー全員の表情が険しくなっていく。
 確かに相手チームの弱点をつくのはセオリー通りだし、卑怯でもなんでもない。 けれど…

「いくら身内でも、こういうやり方は私は嫌いだわ」「莉奈さん! 来てたんですか!?」

 私の気持ちを代弁するように西野莉奈が身内の作戦に苦言する。
 まだ先の試合で火照ったままの身体で男子の試合を見に来たようね。

「莉奈、試合はどうだったの?」「楽勝よ! それより男子は随分と接戦してるのね、六花大の男子がここまで強いなんて聞いてなかったわよ?」

  女子の方は一足早く決着がついて試合が終わったようね。
 そして、莉奈の言う通り、弱小校の六花大付属が格上の神無月学園にここまで互角の試合をしているなんて、誰が見ても驚くでしょうね。

「入月くんがスケットに入ってくれたのが大きいわ。彼がいなかったらここまでの試合はできなかったもの」
「何よアイツ… あんなにバスケが出来るなんて聞いてないわよ! ちょっとカッコいいじゃない… 」
「も~、莉奈さん素直じゃないんだから~! 今日のお兄ちゃん超カッコいいからライバルがいっぱい増えちゃうかもしれないよ~?」
 「ちょっとッ! 愛美ちゃん!?声が大きい!!」

 誰だって一目見れば莉奈が入月くんのことが好きだってわかるけれど、妹の愛美さんにまで知られているなんて、先が思いやられるわね…

「ふーん、莉奈? もしかして勇志のこと好きなの?」

 歩美が莉奈と愛美さんのやり取りを聞いていたようで、莉奈に詰め寄りながらストレートに問いかける。

「べべべべ別に!? すす好きじゃないわよ! なんで私があんなやつ好きにならなきゃいけにゃいのよ! 」

 莉奈、必死に否定してるけれど噛んでるし、そんなに慌ててたら認めているようなものよ…

「ふーん、そう? ならくれぐれも勇志に手を出したりしないでね?」

 そんな莉奈の気持ちをわかっていて、あえて否定せず利用しようとする歩美はお世辞にも良い性格をしているとは言えないわね。
 歩美は入月くんの事となると性格が変わったように豹変するから困るわ。

「なんで歩美にそんなこと言われなきゃならないのよ!?」

 さすがに莉奈も、好きな男のこととなると引き下がれないみたいで無謀にも歩美に食ってかかっていく。

「私は勇志の幼馴染ですから!? 勇志が過ちを犯さないように気をつけているんです〜!、」
「何それ!? じゃあ歩美は勇志のこと好きでもなんでもないのよね!?」「ええッ!? そ、そうだけど!?」
「だったら別に勇志が過ちを犯そうが勇志の勝手でしょ!? それに勇志にだったら私、過ちを犯されてもいいもん!!」
「サラッとなに変なこと言ってんのよ!?アンタは!!」

 一歩も引かない攻防がこの客席でも行われている。恥ずかしいから他所でやってくれないかしら?

「罪な男だね~、お兄ちゃん」「先輩たち喧嘩はやめてください~」

 花沢さんが間に入ってなだめようとしてくれているけど、一向に収まる気配がない。
 はぁ… 全く世話が焼けるんだから…

 「その入月くんがコートの中で頑張ってるんだから、喧嘩してないで応援してあげたら?」「「はい、ごめんなさい」」
「そろそろ3回目のタイムアウトが終わるわ」

 私の言葉を受けて全員が席に着きコートの中に視線を戻す。男子たちは円陣を崩し、それぞれがコートの中へと戻っていくところだった。

「入月先輩… 頑張って… 」

 隣に座る花沢さんが、顔の前で祈るように手を組み入月くんにエールを送っている。そんな花沢さんの手の上に自分の手を重ねて、笑顔を向けて頷いて見せた。
 結局、村嶋くんから言われた賭けのことを入月くんに話さなかった。もし話してしまったら余計な心配をかけるし、何より入月くんが純粋に試合を楽しめないと思ったから。
 それにそんなことをしなくても…

「大丈夫よ花沢さん、入月くんなら必ず勝つわ」「… はいッ!」

 残り90秒、8点差。
 六花大がゾーンディフェンスを始めてから、あっという間に点差が縮まる。
 そして入月くんがレイアップでシュートを決めて6点差になった瞬間…

「危ない!!」「勇志!?」

 シュートを決めた入月くんが着地をする瞬間に、相手選手が背後からタックルして吹き飛ぶように壁に激突してしまう。

「私、行ってくる!」「私も!!」

 言葉を発するよりも速く歩美と愛美さんが駆け出して入月くんの元へ向かう。

「慎のやつ、今のはどう考えてもわざとじゃないの!」「ひどい… 」

 そんな… これは…
 私はまるで中学の全国大会の決勝戦の光景をそのまま見ているような錯覚に陥ってしまった。
 入月くんはあれ以来、バスケをしなくなった。
 そして今日、また同じようにファールを受けて苦しむ入月くんの姿が嫌でもその光景を思い起こさせる。
 せっかくまた入月くんのプレーを見る事ができたのに、一緒にプレーをする事ができたのに! どうしてまたこうなってしまうの!?

「ーー 長… 部長! 大丈夫ですか!?」「え? ええ、大丈夫よ」

  花沢さんに声を掛けられて落ち着きを取り戻すと、すぐにコートに視線を戻す。
 試合は止められ、審判が小畑くんと何やら話しをしている姿が見える。 おそらく審判は小畑くんに交代を勧めているのでしょう。
 ここから見える限りでは入月くんの状態はかなり酷そうで、すごく痛がっているのが分かる。それでも尚、入月くんは試合に戻ろうと懸命に立ち上がろうとしているところだった。

「花沢さん! 女子の荷物からコールドスプレーを持ってきて!」「はッ、はい!!」

 私も急いでその場を離れ、水道の水でタオルを濡らして入月くんの元へと向かった。
 入月くんにこれ以上無理をさせられない!
 きっと中学の全国大会の決勝戦だって、チームと全校生徒の期待を一身に背負って試合に臨んだに違いない。
 そして、怪我さえしなかったら勝てていた試合だったからこそ、自分のせいで負けたと思い込んでいるに違いない。
 彼はそれ程までに優しい人だから…
 今だって入月くんは無理してでも試合に戻ろうとしているに違いないわ!
 私はもっと入月くんのプレーを見ていたいけど、私が見たいのは怪我をした脚を引きずってまでプレーする入月くんの姿じゃない!
 必ず入月くんを止めるという想いを胸に、私は髪が乱れることも気にせず、入月くんの元へ走っていった。

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