マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔出しNGで楽曲提供 5

 同じような廊下に同じような扉、もしかして俺はいつの間にか出口のない迷宮に迷い込んでしまったのだろうか…
 アキラとキアラの仲直りを邪魔しちゃ悪いと、気を利かせて出てきたはいいが完全に迷ってしまっていた。
  しばらく歩いたところで、やっとエレベーターを見つけ中に入ることが出来た。

「ふぅ〜… 」

 エレベーターに入ると落ち着くなー。
 大体のサバイバルホラー系のゲームではエレベーターがセーフエリアで敵が襲ってこないことが多い。
 その理由として、エレベーターに乗っている際に次のエリアのデータをロードをしているからと言われているが、今は関係ないことだな。
 1階に到着しエレベーターのドアが開くと、そこには女物のスーツを着たガタイのいいおっさんがそびえ立っていた。

「ファッ!?」

 何だこのおっさん! いや、おばさん? でもどう見てもおっさんにしか見えないんだけど!?
 そんなことよりも迫力がすげー! 片手でリンゴを潰せそうなほど盛り上がった筋肉に全身が鎧のように覆われているのが服の上からでもよくわかる。
 そさて顔には毒々しいメイク、いやメイクだけみたら流行りのナチュラルメイクなんだけど、それをしているのがガタイのいいおっさんだから違和感がすごい。

「あわわわわ… 」

 俺があまりにもの衝撃でエレベーターから動けないでいると、その変なおっさんに「アアンッ!?」と睨みつけられた。

「ひぃッ!!」

 こぇーッ! まぢでこぇーッ! ちびっちまいそう…
 俺と変なおっさんが数秒間その場で向き合っていたため、2人の間を仕切るようにエレベーターの扉が閉まり始める。
 しめた! このまま一旦、上の階に避難しよう。
 そう思った矢先に後少しで閉まるというドアの隙間に外側から指がかかり、異常を検知したエレベーターの扉が再び開いて、またもあの変なおっさんと対面する羽目になってしまった。

「んなッ…!!?」
「ちょっと、アナタ!?」「ひゃいッ!?」
「もしかして…」「ごめんなさいごめんなさいごめんないごめんなさいごめんなさい!」
「ガップレのユウくんじゃなーい?」「へ?」
「やっぱりそうよねーん! この変なマスクに甘い声は間違いないわよねー!」「え… いやはい! 初めまして、そしてさようなら」

 そう言い残して変なおっさんの横を通り過ぎようとすると、変なおっさんにがっつり腕を掴まれ、強引に握手をさせられてしまった。

「アタシ、ユウくんの大ファンなのよー! 会えて嬉しいわーん、ゴハンまだよね? 一緒に食べましょ!」 「いえ、食事ならけッ「アアンッ!?」 喜んでご一緒させていただきまッす!」

 俺に拒否権はなかった。
 死を覚悟して付いて行った先は、先ほどキアラに案内してもらった所よりも遥かにグレードが高い店やレストランが並ぶエリアで、オシャレで高級そうなこの場所にお面を被った変な奴がいるのは場違いな気がする。  この目の前を歩く変なおっさんも着ている女物のスーツを除けば場違い極まりないがな。
 このエリアの1番奥にある超が付きそうなほど洒落てるレストランに、他の店にには目もくれずそのまま真っ直ぐに入っていくおっさん。
  受け付けの人の静止もないとは、そうとうヤバイおっさんに違いない。

「まさか… 」

 この変なおっさんはマフィアの幹部かなんかで、この場所が彼らの秘密の会合場所なのかもしれない…
 そこに連れて行かれて俺は身包み剥がされ、何処かへ売り飛ばされるか、悪ければバラバラにされて海に沈められるか…
 そして俺に成り代り、ガップレのユウとして音楽業界を裏で支配するのが目的かもしれない。
 逃げるか…?
 いや、もう此処は奴等のアジトだ、逃げ場などない!
 このまま言う通りにして、隙を付いて脱出するか…  あるいは奴等の顔を携帯で撮影し、それをダシに交渉へ持ち込むか… いや、どちらにしてもリスクが大きすぎる。
 そんな事を考えているうちに、店の1番奥の個室、VIPルームのような所に案内された。
 部屋へ入ると同時に変なおっさんの携帯がなり、「あら失礼」とだけ俺に言って電話にでる。

「あら、 彼なら今一緒にいるわよ? うん、うん、 ちょうどアナタたちの所へ行こうとしたらバッタリ会っちゃってね~、 ええ、いいわよーん、いつものとこね、じゃ後で」

 察するに、変なおっさんと同じく幹部の奴等からの電話だろう。
 このVIPルームに集まって、俺をどう調理するか話し合うわけだな。

「さあさあ、アナタも立ってないで座りなさい?」

 言われた通りに変なおっさんと向かい合うように席につく。
 それを見計らったようにウェイターが音もなく現れ、テーブルの上のグラスにドリンクを注ぎ、まるで芸術作品の様な前菜を目の前に置いていった。
 見た目に騙されるな、もしかしたら毒が盛ってあるのかもしれないぞ…
 迂闊には手を出せないな。
 だが美味そうだなー、これが前菜だと!?  まるでアートですよ。 まさか料理を美しいと思う時がくるなんて考えたことすらなかった。 さすが超が付きそうなほどの高級レストランだ。
 た、食べたい… いや、いかん!
 食べちゃダメだ、食べちゃダメだ、食べちゃダメだ、食べちゃダメだ、食べちゃダメだ、食べちゃダメだ、食べちゃダメだ、食べちゃダメだ!
 食べない!!
 自然に会話をする流れで、食事に手をつけずこの場を乗り切る作戦で行く!

「とっても美味しそうなお料理ですね、食べるのがもったいないくらいです。 このお店にはよく来られるのですか?」
 「そうねー、よくってほどでもないけど、お客様を招く時はだいたいこのお店を使うのよねーん」
 「それにしても、受け付けで顔パス、さらにこんなVIPルームにまで案内されるとは驚きでした。」
「ここのオーナーがアタシに気を利かせてくれちゃっててね~、そのご厚意に甘えさせてもらってるの」

 と、破壊力抜群のウインクを飛ばしてきた。 
「ぐはッ…!!?」

 しまった! 初見で避けきれなかった! だっ、ダメージが大きすぎる… 
 だがしかし、おかげで食欲が少し失せたぜ… まだやれるッ!

「どうしたのよー? さっきから全然手を付けないじゃなーい、遠慮しないで食べていいのよん?」

 しまったーッ!
 相手に食べていないことを突っ込まれないように質問の弾幕を張るつもりだったのに、逆に相手の反撃を喰らってしまうとは…!?

「え、ぇえ… では遠慮なく…」

 そっとフォークで刺し、ゆっくりと前菜を口元に近づけていく。
 左手でマスクの口元をあげて口を開く….

「おっまたせしましたーッ!!」「お待たせしました、ユウさん」

 勢いよくドアが開かれたと思ったら、そこには《kira☆kira》のアキラとキアラが仲睦まじく立っていた。

「あら早かったわねー、2人とも」「ちょうどこの近くでユウさんを探していたので」

 そう言いながら躊躇うことなく席につくアキラとキアラ。
 俺は状況が全く飲み込めず、その場でフリーズしていた。

「どうしました? ユウさん、大丈夫ですか?」

 優しく投げかけられたキアラの言葉で、なんとか再起動を行うことができた。

「だ、大丈夫! 何でもない何でもない! そ、それよりお知り合いですか? この方と… 」

「えッ、 自己紹介がまだなんですか?」「はぁー? 知らないのに一緒にいるのかよ」
「え、何? どして? 」
「この人が先ほどユウさんに紹介すると言っていた『スターエッグプロダクション』の代表取締役社長の『マリーさん』です」
「うふん、『マリー〝ちゃん〟』って呼んでねーん」「え゛ぇええええッ!!?」

「マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く