マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔を出していても起こる災難 2

「アイツ、一体どこに逃げたの!?」

 ショッピングモールのゲーセンで、私に恥をかかせたあの男にリベンジするために、わざわざ六花大付属高校まで行って待ち伏せていたのに、私の顔を見た瞬間に逃げ出すとはどういう事よ!?
 それにショッピングモールで去り際に、再戦してくれると約束したのに、あれ以来ショッピングモールに顔も出さない。
 連絡を取ろうにも、考えてみれば連絡先も教えてもらっていない!
  そして今日、アイツが私から逃げ出しのを見て確信したわ… 
 アイツ、最初から再戦するつもりなんてこれっぽっちもなかったんだわ!
 健気に毎日隣町のショッピングモールまで来ていた私の純情を弄んだのよ! 許せない!!

「どこにいるのッ!?」

 アイツがこの路地裏に逃げ込んだのは確かなのに、後に続いて入るとすでに見失っていた。
 後ろからは、私の後をつけて来た4人のナンパ男たちがしつこく迫ってきていた。
 あー、もうほんと迷惑! 身の程をわきまえろっての!
 男はみんな例外なくケダモノだ!
 こっちが女だからっていやらしい目で見たり、ひどい時には手を出してきたりする。
 そんな時は股間を思いっきり蹴り上げてやると、途端に言い訳したり弱音吐いたりで本当に情けない。
 さっきは校門前で人目もあったからそこまでできなかったけど、ここで手を出すようなら一人残らず蹴り上げてやるわ!
 自分の感を頼りに路地裏の先へと進んで行くがアイツの気配は一向にしない。 
「ちッ…!」

 気付いたら目の前は行き止まりで、引き返そうと振り返ると先程のナンパ男4人が既に通路を塞いでいた後だった。

「おっとー! ここは通行止めでーすッ」
「なあ、逃げた男なんて放って置いて、オレたちと楽しいことしよーぜ?」
「どうしても嫌だって言うんなら、ここでオレらと楽しいことしてもいいんだぜ?」

 4人の中の1人がゆっくり私に近づいて来て私の肩にそのいやらしい手を置いた。

「ふんッ!!」

 その瞬間、全身をバネのようにしならせて、思いっきりそいつの股間に右足の膝蹴りをお見舞いしてやった。

「ぁうッ!!」

 言葉にならない叫び声をあげ、そのナンパ男①は膝から地面に崩れ落ちた。

 「てめぇ~! 女だと思って優しくしてやりゃ調子乗りやがってーッ!」

 残りのナンパ男たちも一斉に、私に向かって飛びかかって来る。
 再び身体をしならせて膝蹴りを放つが、ナンパ男②に両手で受け止められてしまった。

「っとー! 同じ手は食わねえよ!」「コラ! 離せッ!」

 ナンパ男②に膝を持たれたまま後ろに押し飛ばされ、地面に尻もちをついてしまう。

「ヒュー、 いい眺めじゃねぇか」「水色だぜ!? 可愛いなぁ、おい」

 ナンパ男たちは揃って大股開きの姿勢になってしまった私のスカートの中に目線を向けて鼻の下を伸ばしていた。
 急いで足を閉じたがもう遅い。こんな奴らに私のパンツを見られたなんて恥ずかしいし情けない…
 だから男はみんな最低なのよ! ケダモノなのよ!
 この後、自分の身に起こるであろうことを想像して、悔しさと恐怖で涙が込み上げてきてしまい、両手で自分の涙を一生懸命拭う。

「じゃあそろそろ… ん? 何だてめぇ!? 誰だ?  グハッ!!」
「よくもやりやがったな! あぶッふ…!!」
「卑怯だぞ!正々堂々と出て来て姿を見せろ! あッ… あぁぁぁあああぁあ!!」

 私が涙を拭っている間にナンパ男たちの悲痛な叫び声が聞こえて顔を上げると、4人のナンパ男たちはそれぞれ個性的な格好で地面に倒れていた。

「4人がかりで女の子に迫っておいて何が正々堂々だっての… 」

 そして倒れたナンパ男たちを見下ろすようにして、散々逃げ回っていたアイツが目の前に立っていた。

「何で…? 何でアンタがここにいるのよ!?」「何でって… お前が俺を追い掛けて来たんだろ? それより怪我はないか?」
「…う、うん」「よし、じゃあこいつらが追って来る前にさっさと逃げるぞ!」

 そう言ってこいつは、私の手を強引に掴んで走り出した。
 なになになになに!? 一体何なのよコイツ!! そして何なのよ! この胸のドキドキは!?
 さっきまで怖くてどうしようもなかったのに、なんで急にこんな気持ちになってるのよ…!
これって… これってもしかして… “恋”?
 いやいやいやいや嘘、あり得ない! なんで私がこんな奴に恋なんてしなきゃいけないのよ!
 こんな嘘つきで何かやる気無さそうだけど、いざってときに助けてくれて、横顔とかちょっとカッコいいかな…? なんて思ってなーーーいッ!!
 ち、違うわ!
 そう! 今こうして走ってるから胸がドキドキしてるだけよ! きっとそうだわ! そうに違いない…!!

「よし、ここに隠れるぞ!」「へ?」

 路地裏を出て少し走った所の公園に逃げ込むと、そのままちょっとした林の中に連れ込まれた。

「いいから早く!」「ちょッ、ちょっと押さないで! キャッ!?」

 急に背中を押されたから足がもつれてしまい、そのまま向き合う形で2人で地面に倒れてしまった。
しかも、仰向けに倒れた私の上に覆い被さるようにコイツがいて、全く身動きが取れない!
 どきなさいよ!と叫ぼうとした瞬間にコイツに手で口を塞がれて叫ぶこともできなかった。
 え… うそ! 何なの!? 私ここでコイツに襲われるの!?
 ダメッ!!
 まだお互いのことを全然知らないのにダメよ! 早すぎるわ!
 そそそそ、そんな顔を近付けられたら…! いやッ! ダメ… キャーッ…!!
 覚悟を決めて目を瞑るが、一向にその時が来ない。
 待ち切れずそーっと目を開けると、勇志は口元に人差し指を当てて、ただ「シー」っとジェスチャーをしているだけだった。
 頭の整理が追いつかず放心していると、公園の入り口の方からゾロゾロと足音が聞こえてきた。

「おい、いたか!?」「いや、こっちにはいないな」「くそッ! この辺りにいたはずなんだけど… 」「よし、向こうを探そう」

 木の葉の隙間からそっと公園の様子を覗くと、ちょうどナンパ男たちが公園の中を通り過ぎて行くところだった。

「行ったみたいだな…」

 そう言って、勇志はあっさり私の上から起き上がった。

「いや~、危なかったな… もうこういうことはするなよ? じゃあな! もう追って来んなよ!!」
「…… のよ… 」「ん? なんだって?」
「どうしてこんな可愛い子が目の前にいるのに手を出さないのよッ!!?」「はーッ!!?」
「それに! 再戦するって言って、連絡先も教えないで帰りやがって! 校門で待ってたら顔を見た瞬間に逃げ出すし! そうかと思ったらカッコ良く助けてちゃったりして!もうなんなのよ!!」
「何言ってるのかさっぱりわからんが、何かごめんなさい… 」

 私だって何言ってるかわかんないわよ! 何故か涙まで出てくるし、もうわけわかんない…!

「ほんと悪かったって… だからほら俺の連絡先教えるから、次は絶対再戦するから、な?」

 そう言って携帯を取り出し、私に差し出したので、反射的に取り上げて急いで番号を自分の携帯に打ち込んだ。
 打ち込みが終わり携帯を返す頃には泣き止んだけど、まだ鼻水をすすっている私を見兼ねたのか、コイツは駅まで私を送ってくれた。
 電車に乗って空いてる席に座ると、どっと疲れが込み上げてくる。
 ボーっとしているとアイツのことをばかり考えてしまう。
 考えないように考えないようにと意識すればするほど、アイツのことを考えてしまい、抜け出せないスパイラルにはまっている気がする。
「やだ! 悔しい!」

 なんで私がアイツのことを好きにならなきゃいけないのよ!
 とりあえず今度こそゲーセンでアイツに恥をかかせてやるわ!
べッ、別にアイツに会う口実なんかじゃないんだからね!
そう思ってはいるが、私の手は新しく電話帳に追加された『入月勇志』の名前を指でなぞっていた。

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