滔滔と、落ちる心
ムカシバナシ 3
正直、自分の過去のことなどあまり覚えていない。小学校の頃は尚更だ。
…と、いうより。覚えていたくない都合の悪いことが記憶から消えている…というのが正しい。
薄らと覚えているのは「いじめを受けていた」に他ならない。
つまり、前とさして環境が変わっていないのだ。
だが、当時の自分は母に迷惑をかけたくなかった。それだけが自分の思うところである。
また引っ越すなんて言っても、それが出来るだけのお金は、今やすっからかんだ。
これ以上の苦労はさせない為に強く頑張っていたのを覚えている。
父が借金を負わせ逃げた日から、母はとても頑張っていたの知っているから。
そして中学。ここでやっとマシになった。
小学校に自分をいじめていた人達の一部が別の学校へ進学し、残った人達も別のクラスへ移動した。
そして小学校が別の人が多かったので、新しい友達を作ることも出来た。
―のだが、自分は黒を好む傾向にあるせいか、身なりが真っ黒に染まっていた。
今思うと、自分でも笑うくらいの黒さだ。
学ランだったというのと、鞄が指定だったから黒であった。そこまでは分かる。
だが靴下も黒。最初に履いてきた上履きも黒。上着も黒と、黒人間だった。
のちに「お前の第一印象、すごい怪しい人だと思ってた」、「ごめんゴキブリかと思った」などと酷い印象を聞くことになった。
だが、そんなヘンテコな外見色のお陰か、自然と関わることは出来た。
けれど、いじめのせいで、どうしても女子が怖かった。
小学校から中学に上がる前まで、女子に虐げられていたことが災いしている。
しかも転校先の小学校で恋した女の子に告白し、それを1日で振られたならまだしも。
それが中学校の入学式で他校の女子に知られていたというのがなお恐ろしさを悪化させた。
その為女子全員の第一印象は「教室に舞うハエ」も同然だった。今思うととても酷い。
が、受けた傷はそれだけ深かったということを知ってもらいたい。いや、それでなくとも酷いけどさ。
と、とにかく!変な見た目のお陰で友達を作れたのはとても良かったと今でも思ってるし、今でも真っ黒な格好だ。
それで作れるとは信じてないけどさ…。
そんな4月を通り過ぎて、変化があったのは中学2年の10月だ。
「ふぁぁああ………。ねみぃ」
重い瞼をこすりながら必死に見ているのは進路に関する資料。
とは言っても、科目選択の紙である。
現段階で高校2年であり、早くも3年の単位の選択を迫られている。
早すぎる、とは思っているのだが、そんなことを愚痴ったところでどうにもならん。
そして何よりだるいしやる気も起きない。
「1年の頃に決めた選択でいーや」などと無責任なオチをつける。仕方ないね!
けれど、それを良しとしない人が目の前から口を挟む。
「榧野、お前これから先大丈夫か?俺心配なんだが」
自分の将来を心配してくれたのは武藤先生、担任だ。自分の事情も知っているからなお、聞いてきたのだろう。
「これが大丈夫なように見えますー?」
「と思わないから聞いたんだろ」
「そうですね」
いやそうだけど。
だが実際、今の俺の成績はドン底だ。
進学クラスにいながら、就職クラスよりも成績が低い。明日成績不振なんたらで呼ばれているくらいだ。
1年生の頃は、やる気に溢れていたんだけどなぁ…と思いを馳せていると、横からまた茶々が入る。
「ほら、早く決めれ。提出してないのお前だけなんだぞ」
「わーかってますって。けど…もうやりたいこともないんですよねぇ〜…。…あ、美容師目指そうかな」
「お、なんだ?皮肉か?」
そう言って自身の頭皮を撫でる。スキンヘッドなのだが、よくクラスの所謂「1軍」にハゲと馬鹿にされている。可哀想に。
「違いますって。…母が、目指していたらしいので」
「へぇ。そうなんだ。」
…この人の応答には関心があるのかないのか分からんな…。
ひとまず、決めちゃって早く帰ろ。
提出期限から3日遅れた紙とまたにらめっこする。嫌いだ。
まだ、あの日々が続いていれば、こんな自分はいなかったんだろうなと思う。
それだけ、委ねていたんだな、と思う。
もう見る影もない成績は、元は70点や80点、90点が多いものだったのだが、それも結局過去。しがみついてても何の自慢にならない。
そして、前々から言ってることを繰り返し目の前の担任に言う。
「せんせー、早く学校辞めたいです。どうにかしてくださいな」
「どうやって辞めるのよ」
「こっちが聞きたいです」
何度も考えた。何度も思っている。
これ以上、やる気なく学校に向かうくらいなら、無駄にお金を飛ばす訳にもいかない。
だが、担任が言うに学校を辞めるのは相当面倒らしい。
それでも辞められるなら本望なんだが。
とりあえず1年の時と全く同じの選択科目調査用紙を先生に渡し、遅い遅い帰りの身支度をする。
「榧野」
「なんでしょう」
「お前は、頑張れるよ」
心の中で舌打ちをする。
「…やる気があれば、ですけどね」
それに加えて、皮肉を込める。
先生の語る理想はいつも素晴らしいですね、と。
…と、いうより。覚えていたくない都合の悪いことが記憶から消えている…というのが正しい。
薄らと覚えているのは「いじめを受けていた」に他ならない。
つまり、前とさして環境が変わっていないのだ。
だが、当時の自分は母に迷惑をかけたくなかった。それだけが自分の思うところである。
また引っ越すなんて言っても、それが出来るだけのお金は、今やすっからかんだ。
これ以上の苦労はさせない為に強く頑張っていたのを覚えている。
父が借金を負わせ逃げた日から、母はとても頑張っていたの知っているから。
そして中学。ここでやっとマシになった。
小学校に自分をいじめていた人達の一部が別の学校へ進学し、残った人達も別のクラスへ移動した。
そして小学校が別の人が多かったので、新しい友達を作ることも出来た。
―のだが、自分は黒を好む傾向にあるせいか、身なりが真っ黒に染まっていた。
今思うと、自分でも笑うくらいの黒さだ。
学ランだったというのと、鞄が指定だったから黒であった。そこまでは分かる。
だが靴下も黒。最初に履いてきた上履きも黒。上着も黒と、黒人間だった。
のちに「お前の第一印象、すごい怪しい人だと思ってた」、「ごめんゴキブリかと思った」などと酷い印象を聞くことになった。
だが、そんなヘンテコな外見色のお陰か、自然と関わることは出来た。
けれど、いじめのせいで、どうしても女子が怖かった。
小学校から中学に上がる前まで、女子に虐げられていたことが災いしている。
しかも転校先の小学校で恋した女の子に告白し、それを1日で振られたならまだしも。
それが中学校の入学式で他校の女子に知られていたというのがなお恐ろしさを悪化させた。
その為女子全員の第一印象は「教室に舞うハエ」も同然だった。今思うととても酷い。
が、受けた傷はそれだけ深かったということを知ってもらいたい。いや、それでなくとも酷いけどさ。
と、とにかく!変な見た目のお陰で友達を作れたのはとても良かったと今でも思ってるし、今でも真っ黒な格好だ。
それで作れるとは信じてないけどさ…。
そんな4月を通り過ぎて、変化があったのは中学2年の10月だ。
「ふぁぁああ………。ねみぃ」
重い瞼をこすりながら必死に見ているのは進路に関する資料。
とは言っても、科目選択の紙である。
現段階で高校2年であり、早くも3年の単位の選択を迫られている。
早すぎる、とは思っているのだが、そんなことを愚痴ったところでどうにもならん。
そして何よりだるいしやる気も起きない。
「1年の頃に決めた選択でいーや」などと無責任なオチをつける。仕方ないね!
けれど、それを良しとしない人が目の前から口を挟む。
「榧野、お前これから先大丈夫か?俺心配なんだが」
自分の将来を心配してくれたのは武藤先生、担任だ。自分の事情も知っているからなお、聞いてきたのだろう。
「これが大丈夫なように見えますー?」
「と思わないから聞いたんだろ」
「そうですね」
いやそうだけど。
だが実際、今の俺の成績はドン底だ。
進学クラスにいながら、就職クラスよりも成績が低い。明日成績不振なんたらで呼ばれているくらいだ。
1年生の頃は、やる気に溢れていたんだけどなぁ…と思いを馳せていると、横からまた茶々が入る。
「ほら、早く決めれ。提出してないのお前だけなんだぞ」
「わーかってますって。けど…もうやりたいこともないんですよねぇ〜…。…あ、美容師目指そうかな」
「お、なんだ?皮肉か?」
そう言って自身の頭皮を撫でる。スキンヘッドなのだが、よくクラスの所謂「1軍」にハゲと馬鹿にされている。可哀想に。
「違いますって。…母が、目指していたらしいので」
「へぇ。そうなんだ。」
…この人の応答には関心があるのかないのか分からんな…。
ひとまず、決めちゃって早く帰ろ。
提出期限から3日遅れた紙とまたにらめっこする。嫌いだ。
まだ、あの日々が続いていれば、こんな自分はいなかったんだろうなと思う。
それだけ、委ねていたんだな、と思う。
もう見る影もない成績は、元は70点や80点、90点が多いものだったのだが、それも結局過去。しがみついてても何の自慢にならない。
そして、前々から言ってることを繰り返し目の前の担任に言う。
「せんせー、早く学校辞めたいです。どうにかしてくださいな」
「どうやって辞めるのよ」
「こっちが聞きたいです」
何度も考えた。何度も思っている。
これ以上、やる気なく学校に向かうくらいなら、無駄にお金を飛ばす訳にもいかない。
だが、担任が言うに学校を辞めるのは相当面倒らしい。
それでも辞められるなら本望なんだが。
とりあえず1年の時と全く同じの選択科目調査用紙を先生に渡し、遅い遅い帰りの身支度をする。
「榧野」
「なんでしょう」
「お前は、頑張れるよ」
心の中で舌打ちをする。
「…やる気があれば、ですけどね」
それに加えて、皮肉を込める。
先生の語る理想はいつも素晴らしいですね、と。
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