滔滔と、落ちる心

一夕 ヒ(いゆう ひろ)

プロローグ

 はっと顔を上げる。
 もうチャイムが鳴っていたようだ。みんな席を立ち、囲うように俺に立てと目で訴える。
 何かいいものでも見ていた気がしたが、所詮は気がしただけ。
 伏せていた身体をゆっくりと起こし、のろのろと椅子を机の下にしまう。「気をつけー、礼」
 聞き慣れた言葉に心中で舌打ちしながら、頭をだらんと下げる。


――ああ、面倒だ。





 そういえば、君たちに語る上で、俺の名前を知らないのは問題だよな。うんうん。
 俺は榧野。「かやの」って言う。
 茅野はあっても榧野はそうそういない。まるで「蚊帳の外」にされてる気分だった。と、いうか、中学の頃はそれがあだ名で、実状そうだった。
 クラスに馴染めず馴染まずで過ごし、班行動の際には意見を言うものの、あまり参考にはしなかった。
 ちょっとした苛立ちも彼らは読み取れないのか、はたまた気づいてはいるがそれを逆手に煽っているのか。
 今となっては苦い思い出として奥底に普段はしまっているが、戒めとしてたまに引っ張り出し、「うわああああああ!!!」とベッドの上で叫び、理性を保つ。
 さて、自分語りはここまでとして、これから話すことを言いたいと思う。
 決して笑わないで欲しい。

 今から話すことは、過去に起きたこと。
 今よりも卑屈で、今よりも陰湿な自分と、彼女の出来事。

 彼女と出会い、変わり、歪み、泣き、笑う。
 日常のお話で――


 そしてこれは、自分が破綻していく、そんなお話。

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