最弱の村人である僕のステータスに裏の項目が存在した件。
第7話 ゴブリン
「どういうことだ? 当然説明してくれるんだろ?」
「村の近くで捕まえた、可愛いでしょ?」
「ぐぎ……」
彼女が照れた気がした。
いや、ゴブリンだから分からないけど何となく。
まあ冗談はさておき説明しておこう。
僕だって考え無しで連れてきたわけではない。
あのままセリアさんを放置もできない、どうにかして村へと連れ帰れないかと思った僕はペット……つまり使い魔という扱いで彼女を連れてきたのだ。
勿論言い訳も考えてある。
「あの能無しか……」
「いつか問題起こすと思ってたわ」
僕の村での立場は多少悪くなるだろうけど。
村の人たちはみんな僕に対してあれこれ好き勝手なことを言っている。
まあ……いいけどね。
リサラたちを含めた村の子供たちはいないな。
親から来るなと言われているのか分からないけど、なんにせよ必要以上に騒がれないのは助かる。
「………」
セリアさんが後ろで何か言いたげにしていた。
だけど目線でそれを止める。
まずは僕に任せてくれと、小声で伝えた。
「何の騒ぎですか?」
そこにこの村に滞在してる勇者パーティの方々がやってきた。
アーシャさんとガノフさん……そして、勇者のシャルさん。
「おぉ? なんでこんなところにゴブリンがいるんだ?」
ガノフさんが疑問を口にする。
丁度いい。
勇者の人たちがいるならある程度は村の人みんなの安全性は保障できる。
村人ならともかく日々魔物との戦いに明け暮れる勇者や冒険者にしてみればゴブリンはちょっと強い子供みたいなものだ。
どうにかして説得を試みる。
「実は……―――ッ!?」
シャルさんが即座に剣を抜いた。
速い……! いや、それ以上に咄嗟のことで動きが遅れる。
避けれないと判断した僕はセリアさんを庇う様に抱きしめた。
多少の怪我は覚悟の上だ。
スキルがあるから治すこともできる。
「……っ!」
しかし、剣先は僕に当たる前に動きを寸で止めていた。
驚いていた……見た感じそんな感情を露わにするタイプには見えないけど、怒りと驚きが混ざったような顔。
シャルさんから剣戟以上に鋭い視線が突きつけられる。
「何故庇ったの?」
今の攻撃に反応できたことについては言及されなかった。
気付いてて敢えて何も言わないのか、それともそれ以上に気になることがあるのか……
「いや、だからこの子は僕のペットなんですって」
それを聞いてシャルさんが目をさらに鋭く細める。
「……正気?」
「あれ? 魔物を使役できる人もいるって知らないとか?」
この世には数多くのスキルが存在する。
魔物を部下、手下、ペット、使い魔、まあ言い方は何でもいいけどとにかくそうした形で使役することができるスキルは実際にいくつか存在していた。
「あなたはスキルを持っていないと聞いたけど?」
おっと、顔覚えられてたか。
「別にスキルがなくても使役はできるよ、ほら、お手」
縄を切ってそれっぽく命令する。
セリアさんは凄く不満そうだけど空気を読んで僕の手の上に手を乗せてくれた。
周囲の村人たちが騒めき、ガノフさんとアーシャさんも目を見開く。
それもそうだ。
僕の言ってることは例がないわけではないけど、かなり強引だ。
使役スキルもなく魔物に言うことを聞かせることができるのはかなり難しい。
ゴブリンのように知能が低い魔物だと尚更だ。
「……そのゴブリンがあなたを騙している可能性がある、だから……退いて」
それも結構強引な解釈だけどね。
そこまでの知能があるなら言うことを聞かせることだって……いや、それが分からないから殺すのか。
疑わしきは皆殺しってことかな?
「僕が退いたらどうするの?」
決まっている、と。
シャルさんは剣をセリアさんに突きつけて殺気を漲らせた。
「魔物は殺す」
「セリアはいい子だよ?」
「あなたは子供だからまだ分かってない。魔物と言うのは野蛮でどうしようもないほど醜悪な生き物」
セリアさんが悲しそうに表情を歪ませた……気がする。たぶん。
ゴブリンだけど何となく表情が分かるようになったのは喜んでいいのだろうか。
慣れたのかな? それともセリアさんが表情豊かな人なのか。
まあともかく女の人にそんな顔をさせたままというわけにもいかない。
「退いて」
「嫌だ」
イラついたように細められた目が言ってくる。
お前ごと殺されたいか? と。
分かってる、この場は僕が悪い。
客観的にもそうだし、僕自身もそう思う。
だけどここは引けない。
「いきなり斬りかかってきた勇者様と未だに誰にも危害を加えようとしてないゴブリンだと、どっちが野蛮なんですかね」
村の皆が息を呑んだ。
それはそうだ。
勇者の位というのは下手をしたら下級貴族なんかよりも遥かに上だ。
このまま不敬罪で殺されても向こうは罪に問われないだろう。
むしろゴブリンを連れ込んだ僕の方が罪人扱いされると思う。
だけど、その時……肩に手が当てられる。
セリアさんだった。
「ぐぎ……」
相変わらず何を言ってるのかよく分からない言葉。
だけど……もういい、と。
そう言っている気がした。
「そのゴブリンの知能が高いというのは本当のようね」
少し驚いたようなシャルさんが続ける。
しかし、だからこそ―――と。
「脅威になる可能性がある」
意外と頑なだ。
まさかここまで魔物を敵視しているとは思わなかった。
魔物を使役している魔物使いという職業だってある。
それなら僕もそれで通せると思ったけど、甘かったらしい。
村人と言う職業は想像以上に世間からの風当たりが厳しいようだ。
「シャル、やめとけ」
しかし、意外なところから助け舟はやってきた。
ガノフさんだ。
シャルさんの剣を持つ腕を抑えて動けないようにしている。
「ガノフ……どういうつもり?」
「そこの坊主の言った通りだよ、使役されてない魔物だからって殺そうとしてるお前とそこでいい子にしてるゴブリンのどっちが野蛮だって話だ」
「私の両親は魔物に殺された」
「知ってる、だから何だ? そこのゴブリンは無関係だ」
「そんなことはない、同じ魔物」
「………なあ、坊主」
そこでいきなりガノフさんが話しかけてきた。
僕は咄嗟のことに遅れながらもなんとか返事を返した。
「そこのゴブリンがペットだって言ってたな、本当か?」
ガノフさんの問いの意味はよく分からなかったけど……冗談や嘘で誤魔化せる雰囲気でもないな。
かと言って魔族だと言うわけにもいかない。
村の皆や勇者の人たちがこちらを見る中で僕は答えた。
「ごめん、嘘」
シャルさんが一瞬で攻撃の姿勢へと移行した。
それを警戒しながらも僕は正直に言った。
「友達だよ」
「………ッ!」
シャルさんから視線を外してセリアさんに向き直る。
ぎょろりとした目が一瞬で潤んで直後に涙が零れていた。
苦笑しながら指で大粒の涙を拭い聞いてみた。
「だよね?」
セリアさんがしきりに頷く。
誰がどう見ても意思の疎通は取れている。
だけど皆はゴブリンが僕の言葉に従うような態度をとっていることに驚いていた。
後ろで見ていたアーシャさんもシャルさんの肩を叩く。
「あなたの負けみたいね、勇者様」
「……その呼び方はやめてって言ってるでしょ」
シャルさんはようやく力を抜いてくれた。
剣を鞘に納めて背を向ける。
僕も一安心だ。
セリアさんが後ろで安堵する気配がした。
「がははっ、坊主! やるなぁお前! すげー格好良かったぜ!」
がはがは笑うガノフさん。
苦笑を返して僕は頬を掻いた。
「ねえ、あなた名前は?」
アーシャさんが聞いてくる。
何だろうと思いながらも答えた。
「レン君ね……あなたも頑張ったら凄い人になれるって言った言葉だけど……撤回するわ」
あの時の同情するように言った言葉か。
なんだろう?
耳を傾けるとアーシャさんがにかっと笑って言ってくる。
「あなたは絶対凄い人になれるわ、今度は嘘でも同情でもない……本心から言わせてもらうわ」
そうですか……僕としては平穏に冒険者やれればそれでいいんだけどね。
ゴブリン姿のセリアさんが服を握ってくる。
不安そうに……だけど喜びを隠しきれてない感じ。
見た目はゴブリンだけど……まあ、女の子を守れたんだと思えば男冥利に尽きる。
「レンよ」
村長さんが僕の名前を呼んだ。
その顔を見てわかる。
あ、やばい、これ怒られるやつだ。
「一件落着……しかし、だからと言って魔物を連れ込んだことは村長として見過ごせることではない」
うん、ですよねー。
この後僕はたっぷりと村長さんに怒られた。
なぜかセリアさんも一緒に怒られてた。
というより僕から離れなかった……何か機嫌も良さそうだ。
「レン! 聞いているのか!」
この後のセリアさんがどうなるかについて話したいんだけど……どうやら村長のお説教はまだまだ続きそうだ。
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