最弱の村人である僕のステータスに裏の項目が存在した件。
第4話 訳アリ
「ぐぎ?」
ゴブリンが目を覚ます。
ぎょろりとした大きな目をごしごしと擦りながら辺りを見回す。
体にかけられた毛皮を不思議そうに見ていた。
そこで僕を視界に入れると動きが止まる。
「おはよう」
「―――ッ!」
咄嗟に距離を取られる。
その目は油断なくこちらを見据えていて高い警戒心を表していた。
「ぐぎ! ぐぎぎ!」
「なんて言ってるのかは分からないけど、なんとなく分かるよ。ああ、それと武器は預からせてもらったよ」
さすがに暴れられても面倒だしね。
だけど、なんて答えたものか……
「まず確認したいんだけど……君は実は魔族ってことであってる?」
「っ!」
分かりやすい反応。
体が強張りさらに警戒される。
「危害は加えないから安心していいよ」
と、言ったものの信用は出来ないよね。
だって僕は人族。
魔族と人族が犬猿の仲だってのは常識だ。
警戒されるどころかここで襲われても文句は言えない。
だけど意外なことにゴブリンは腰を下ろした。
警戒心も先ほどよりもないように見える。
「え? 信用したの?」
こくんと頷く。
ふむ……もしもゴブリン化してることで言語が分からなくなってるって可能性もあったけどその心配はなさそうだ。
だけどだからこそ意味が分からない。
こんなに簡単に信用されるとはどういうことか。
するとゴブリンは地面に落ちていた一本の枝を手に持ち地面に文字を書いた。
『あなたがその気なら私はとっくに殺されているはず』
「ごもっとも」
中々冷静じゃないか。
そして、それ以上に肝が据わっている。
内心僕は驚いていた。
普通こんな状況では的確に判断なんてできないと思う。
ゴブリンは続けて書く。
『怪我が治ってるのはあなたが治してくれたの?』
「うん、そうだよ」
治癒のスキルは他人にも影響を与えることができる。
ゴブリンの……まあ、名前があるんだしそっちで呼ぼうか。
セリアさんの傷がそこまで深くないってのもあった。
だからこそ僕の治癒スキルで簡単に完治できたのだ。
それからもいくつか問答を繰り返す。
『あなたはなぜ私を助けてくれたの?』
「さすがに訳アリみたいだったからね、どうするかは話を聞いてからでも遅くはないかなって」
あの時点で僕にはセリアさんを生かすか殺すかという二択があった。
殺すのは簡単だけど、何か事情があるはずだと思った僕は話を聞くことにしたのだ。
ゴブリン化というのは聞いたことのない呪いだった。
だからこそ彼女が何らかの魔族側の事情でそうなっているのは容易に想像ができた。
魔族側で何があったのかは分からないけど、以前冒険譚で見たことがあるんだ。
魔族もそんなに悪い奴ばかりじゃないってね。
大昔の勇者の言葉だ。
子供だった勇者を助けた人好きな魔族のお話。
僕はその話が大好きだった。
『だから助けたの? 私が悪い奴だったらどうするつもりなの?』
「悪い奴はこの段階でわざわざそんなこと聞かないよ。それに人族にとって魔族の良い奴がいるなら、魔族にとっての人族の良い奴がいてもいいとは思わない?」
セリアさんが俯く。
ぎょろりとした瞳を手でくしくしと擦ると「ぐぎっ」と、小さく鳴いた。
なんて言ってるか分からなかったけど……ありがとうって言われた気がした。
悪い気はしなかった。
「それじゃあ本題に入るけど……なんでゴブリンに?」
セリアさんはガリガリと文字を書く。
『私はハメられたんだ』
「誰に? というかセリアさんって魔族側でどういう立場だったの?」
するとセリアさんは再び文字を書く。
そこにはシンプルにこう書かれていた。
――――『魔王』
僕は思わず頭を抱えた。
やばい……想像以上に訳アリだった。
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王女かなとか思ってたら魔王かいッ!